「真夏のリベンジマッチ」
ディーネと相談をして配置につく、相談の結果オレが前衛でディーネが後衛となった。
「それじゃあ試合開始ね」
後衛であろうジェシーが試合の開始を宣言するとともにボールを空高く上げる。どうやら彼女達が先攻らしい。少々強引な気もするがわざわざルールを考えたのは彼女なのだからそれくらいはあってもいいだろう。安いものだ。それに初撃は一人、対してこちらは二人で防いで攻撃へと転じられるのだからむしろこちらが有利かもしれない。
そう考えながら空に浮かぶボールを眺めていると大きな影が通り過ぎる。ジェシーだった。
……まさか?
「食らいなさい! 」
ボールより高く上昇した彼女は叩きつけるように腕を振る。瞬間、バン! という衝撃音と共にボールが一直線にこちらへと向かってきた。狙いは正確でフィールド外どころか見事にオレとディーネのいない左端後方のコースぎりぎりだ。
冗談じゃない。いきなりそんな一撃をが放つことができるなんて明らかに先攻が有利だ。
……ジェシーのやつめ。
地面を蹴りボールと砂の間に間一髪右腕を挟み込むと衝撃と共に再びボールが宙に舞う。
「ディーネ」
「……うん! 」
すかさず彼女が浮いたボールを両手で押し上げるとゆっくりと相手フィールド内へと向かっていく。
「うまく返したわね。でもこれなら! 」
ジェシーが空へと舞う。再び先ほどのように強烈な一撃を放つつもりなのだろう。このままでは防戦一方だ。何か手を考えなくては……
「貰ったあ! 」
考える暇もなく彼女が勝利宣言をして腕を振り下ろす。それによりボールが軌道を変えてこちらに向かってくるはずだった。
……しかし、そうはならなかった。
「っな! 」
彼女の手が空しく空を切る、スピードがあまりに遅かったために僅かにタイミングがずれたのだ。ボールは何事もなかったかのように彼女の通り過ぎて地面へと向かう。これで勝負はついたか? と安心するのも束の間、ここまでなりを潜めていた男が遂に動き出した。
「ふっ! 」
すかさずボールの軌道に入ったフウトが打ち返すと山なりの軌道を描き再びオレ達の方へとボールが向かってきた。フウトといえどパートナーが動けない中で既に胸の辺りまで落ちてきているボールは弾き返すのが精一杯だったようでようやくこちらに反撃のチャンスが生まれた。
「ナイス、ディーネ。ここから反撃だ」
後方に声をかけると同時にフィールドの真ん中で彼女のパスを待つ。
「……ガイト! 」
丁度オレの立ち位置で最高地点に達する絶妙なパスだ。それを見るとオレは高く跳びあがろうと足に力を籠める。
……待てよ?
瞬間、画期的な戦略が浮かんだ。跳ぶのを止めボールを見送る。するとボールはゆっくりと両チームの境目である線の上へと落ちていく。
「フフ」
ジェシーが笑みを浮かべる。それは当然のことでこのままだとボールは線上とはいえオレのフィールドよりの地点に落下する、彼女は何もしなくても判定勝ちが出来るのだ。
だがオレはこのままで終わるつもりはない。今にもボールが砂に落ちるというまさにその瞬間、勢いよく地面を蹴り体制を低くすると間に右手の拳を差し込む。
「しまっ……」
彼女も気が付いたようだがもう遅い。そう、オレ達のフィールドを決めるのは線一本のみ! それならば相手にとって一番返しにくいボールというのは威力のないこの一撃となる!
ポンっと僅かにボールが跳ねて線を飛び越える。そしてそのままボールは今度こそ彼女たちのフィールドへ……
「させるもんですかあああああああああああああ」
なんという執念か、彼女は負けを認めず同じように滑り込みボールを跳ね返した。それは咄嗟の行動故に力が入りボールが大きく跳ねてしまったのだが却って彼女にとって幸いの出来事だった。
「くっ」
頭上を飛び越えていくボールを見送る。急いで体制を立て直そうにも間に合わない、この軌道では落下地点は恐らく右後方に構えていたディーネにとってはもっとも遠い位置である左側の中間地点だ。水着の疲労に加えてあの大きな胸がある、あれでは動きにくいだろう。
終わったか。
敗北を確信したその時だった。
「ガイト! 立って! 」
ディーネが叫んだと思った次の瞬間ボールが弾かれた音がする。見ると再びボールが浮かび上がっていた。
間に合ったのか……あの距離を?
「ナイスだディーネ! 」
彼女の頑張りを無駄にするわけにはいかない。即座に立ち上がりジャンプをする。
狙いは……そこだ!
目的地であるフウトの立ち位置とは真逆の左端目掛けてボールを叩きつける。
ズバン!
激しい音とともにボールが砂場に叩きつけられた。
「悔しいまた負けた! 」
ジェシーが地団太を踏むとフウトを見る。
「フウト君、どうして一歩も動かなかったの? あなたなら間に合っていたでしょ? 」
彼女の指摘にハッとする。確かに彼は一歩も動かなかった。リベンジに燃えていた彼女が怒るのも無理はないだろう。
「いや……」
一点を見つめたまま答える。視線を追おうと振り返ったその時だった。
「……ダメ! 見ないで……」
突然ディーネに制止を促される。
「何かあったのか? 」
「……その、今ので飛び込んだら……取れちゃって……」
取れた? 何がだろう?
状況から考える、答えはすぐに見つかった。
「それって、後ろで縛るんだろ? 一人で大丈夫か? 」
「……それは……その……」
「私が手伝うわ、絶対に見ちゃだめよ。それとフウト君、そろそろ後ろ向きなさい! 」
ジェシーが立ち上がるとそのままディーネのもとへと向かう。その裏でオレは慌てて背を向けるフウトに近寄った。
「フウトも人の子だなあ」
脇腹を小突くと彼は図星だったのか顔を赤らめた。