「ウィンディ VS ガイア」
イワンとフウト、二人は審判の合図で剣を抜き構えると試合開始の宣言がされる時を互いに見つめあっていた。
「ウィンディ、フウト。ガイア、イワン。試合開始」
「『クリアランス』」
試合開始の宣言がされると同時にフウトは剣を横一文字に振る。途端に斬撃は風となりイワンへと一直線に向かっていく。
「あれは……」
脳裏にアローさんの顔が浮かぶ。彼と比べると一つの刃が飛んでいるくらいの大きさで小さいとはいえ一期生の夏ということを考慮に入れると十分であり攻撃にソウルを使えないオレからすると相当驚異的だ。
「『サモンロック』」
フウトの一撃に対してイワンはジェシーのように剣を地面に突き刺した。するとたちまち地面から二メートルほどの尖った岩が二人を隔てるように出現する。人間なら激突を避け回避行動に移るところだが斬撃は止まらない。それどころか勢いを増したように見えドン! というけたたましい音とともに衝突した。ソウルの激突により辺りが土煙に包まれ同時に歓声が上がる。
「……凄い」
皆の反応からやっぱりこういう派手方が見てて楽しいよなあ、としみじみと考えているとディーネが感嘆の声を上げた。拗ねていても仕方がないので同意する。
「ああ、いきなりソウルのぶつかり合いだ。そしてこれの結果が重要になる」
「……どういうこと? 」
「お互いどちらのソウルが強力か分からないから、この激突で岩が切れていたらフウトが有利。切れていなかったらイワンが有利ってことさ」
「……つまり二人ともこの結果で戦い方を考えないといけないってこと? 」
「そういうこと、といっても岩が切れていた場合は岩ばかりか身体にも届いてフウトの勝ちになると思うけど……」
説明を終えると一秒でも早く結果を知ろうと目を凝らす。するとフウトがサービス精神旺盛なのか大きな風がふわりと舞い砂煙を追い払った。
激突の後に払う余裕があるってことはフウトの勝ちか
彼を見つめる。同時に歓声が上がった。彼の勝利を確かめようと視線を移す。
そこには半分ほど抉り取られているものの先程と同じようにズッシリと岩が聳え立っていた。
「フウト……マズいな」
思わず口に出す。これで勝負は決まってしまったようなものなのだ。どれだけフウトが遠距離から攻撃を放っても塞がれては意味がない。そして塞がれることが確定してしまった。
「……うん」
呟きを聞いたディーネも同意する。
誰が見てもフウトにとっては絶望的な状況だ。それに対して怯まずに手を緩めずイワンが次の手を打った。
次々と岩が前方ばかりか彼の周り二メートル程を巨大な壁で覆い始めたのだ。これで四方から攻撃を仕掛けることも出来なくなってしまった。
このままだと完成しちまうぞ……フウト、どうする。
再び彼を見つめる、彼は絶望したのかイワンの戦法を止めようとはせずしばらくその場に立ち尽くしていた。
諦めたのか? いや違う、そうじゃないはずだ。そうだろ?
握り拳を作る。しかし想いは虚しくイワンは壁により四方ばかりか上部まで高さ三メートル程の壁で覆うことに成功した。もはや彼の様子は観客席からも見れない。突破口といえば唯一独立している目の前の傷がついた岩くらいだ。
「……あの岩、傷がついているから壊さないかな」
「何度か切ればいけるとは思う。でもそれを読んでイワンが何か罠を張っている、そんな気がする」
「……そうかも、直せなかったのか直さなかったのか、それが分からない」
彼女の言う通りだ、彼は意図的に前方の岩を片付けなかったのかそれとも片付けられなかったのかが全く分からない。この時点で彼の術中にハマってしまったようなものだ。何という恐ろしい男だろうかと壁の中にいるであろうイワンのことを考える。
いや待て、このままじゃただの籠城だ。ジェシーのブリザードのように時間を稼いで勝利する方法があるのだろうか? それは一体……
「『ウィンディブレード』」
フウトが動いた。ソウルを剣に纏わせると一直線に前方の壁へと向かっていく。狙いがあるのかは分からない。ただ、前方の岩を目指して駆けていく、そして目の前にたどり着いたとき勢いよく剣を振り下ろした。その様子がオレには自棄に見えたので思わず立ち上がる。
「ダメだフウト、それだと剣が……」
信じられないことが起こった。弾かれるであろうと予想した剣は見事に前方どころか周囲の岩をも切り裂いた。岩がボロボロと音を立てて再び土煙に包まれる。
「さっきは負けていたのにどうして」
「……ウィンディは斬撃を飛ばすよりも纏ったまま斬った方が威力が増す……んだと思う」
「そういうことなのか、知らなかった。恥かいちゃったな」
なるほど、ソウルを纏った剣がぶつかるのもソウルだった訳だから結果が反映されたわけだ。
「詳しいな、ディーネは」
「……たまたま、聞いただけだから」
どういうわけか彼女は慌てた様子で口にする。よく分からないけれどこれ以上突っ込むのも悪いとフィールドに視線を戻すと同時に審判がフウトの名を高らかに叫んだ。