「クラス対抗戦開幕」
先生に案内されるまま通路を進み光の差し込むスタジアムへと入場するとパパパプォーントけたたましいラッパ音とそれをかき消すような歓声が沸き上がった。広い丸型のスタジアムは土のグランドを円形の大理石の壁に囲まれておりその頭上には席を埋め尽くすのではないかというくらい大勢の観客たちが座っていた。
こんな大勢の生徒の前で試合をするのか。
その数に圧倒されるもそれで情けない試合をするのも嫌で負けじとぶんぶんと首を振り握り拳を作り気合を入れる。
「来たわね」
試合の開始場所はお互い三メートル離れた白線の上で既に立っていたジェシーが不敵に笑い剣を抜く。
「良い試合にしよう」
そう口にするとともに腰のベルトから剣を抜くと間に立っていた男性が手を高々と掲げるとともにラッパ音がピタリと止んだ。
「それでは、クラス対抗試合初戦、ガイトVSジェシー……試合開始! 」
開始の合図とともにジェシーが剣を地面に突き刺したのをみてオレは彼女のソウルを警戒し右へと跳ぶ。先生の説明通りならブリザードのソウルの勝ちパターンは地面から足、そして足から体と凍らせていくものだが制限があり、速度と範囲を一度に両立することはできない。速度を犠牲にして広範囲を凍らせるか範囲を捨てて速度を上げるかだ、それならば答えは一つ。この戦いの場で速度を捨てるなんて選択はない、そしてオレが避ける方向と距離を予測して凍らせるなんて真似はギャンブル性が高すぎてやるはずがない。彼女の狙いは開始と同時にオレに向けて放つ高速の一撃だ。そう読んでの行動だ。そして一度避けてしまえば素早く懐に入り剣を下ろしている彼女との勝負を速攻で終わらすことができる。
……この勝負、貰った!
勝利を確信しようと獲物を捕らえそびれ空しくオレの立っていたスタート地点を張っているであろう氷を眺める、しかしそこに氷はなかった。
……まずい
咄嗟に突撃を止めて後ろへ下がり状況を確認する。
「あら、良い判断ね。そのまま突撃をしてくれば私の『アイスフィールド』で凍ってしまって勝負は決まっていたのに」
そう口にする彼女の足元から既に半径一メートルの地点は凍り付いていた。
「やられた、まさかスピードを捨てて範囲優先で来るなんて……流石だ」
「ありがとう、本来フレイムと当たったら使えないけれど貴方はフレイムのソウルが使えないと耳にしたものだから、これで確実に勝たせていただくわ」
「なるほど、そこまでお見通しだったか」
ソウルを使えないということだけが伝わっていることに安心しながらも状況を整理する。今現在彼女から伸びるように1.5メートル程の場所まで氷が迫ってきている。彼女の言うように氷ならフレイムでとかせばいいのだがオレには使えない、つまり彼女はこうして喋っているだけでもう勝利が手に入るのだ。
……いいや、まだ終わっていない。一つだけ手が残っている。
一か八かの最後の策に賭ける、正直これが失敗するとマズいので一度深呼吸をし右足を一歩後ろへと下げる。
「いいや、まだ一つだけ残っているぞ」
オレはその言葉と共に彼女目掛けて一気に駆け出した。
「こっちに向かってくる! ? 血迷ったの! ? 」
「それは……どうかな」
距離を詰める、一メートル、二メートル……そして目の前に氷が迫ると同時にオレは地面を力強く蹴り上げた。
「まさか! ? 」
彼女が目を見開く、そう、単純な考えだ。地面から伝って凍らされるのなら地面に足を突かなければいいのだ!
「でも、そうはさせない! 」
途端に目の前の氷が音を立てて目の前に大きな氷の壁が現れる。
……何だこの戦法聞いてないぞ。
予想外の事態に目を背けたくなる、しかしここで目を背けては数秒後には氷の壁に突撃して敗北という無様な姿をさらしてしまうことになる。
「負けて、たまるかああああああああああああああ」
一か八かで力任せに剣を地面へと投げつける、成功。剣はドガァンという音と共に地面へと突き刺さった。そのままオレはその剣を足場に更に高く跳び上がる。
「なんですって! ? 」
彼女が目を見開く。オレは氷の壁を飛び越えると落下の勢いに身を任せながら彼女の体に両手を回すと地面へと半回転して飛び込む。ドン! と強い衝撃がくるがそれをやわらげるべく受け流すように腕肩背中に足と順で受け身を取るとさらに半回転して動けなくなっている彼女の上にまたがり握り拳を作る。そのまま拳を……天へと突き上げた。
瞬間、ワアアアアアアアアアアという歓声が上がった。