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「風呂の恨み、剣の恨み」

 寮に帰り食事も風呂も済ませたオレは月明りだけを頼りにベッドに横になる。普段ならディーネと夜の鍛錬をしている時間帯なのだけれど今日は別だ。朝一番に武器屋に向かうためだ。レプリカが展示されたおかげであの剣の特徴が鮮明に記憶に刻み込めた。そうなるといてもたってもいられない、ということで今回の練習は無しにしてもらった。実のところ、毎日やるのはオーバーワークだとかそれっぽいことを口にしたのだけれど、必死に誤魔化すオレを子供を見るように見ていたディーネにはバレていたと思う。


「よーし、寝るぞ」


 眠るという行為に意気込むのも変だけどそう口にし勢いよく瞼を閉じる。たちまち視界はシャットアウトされて辺り一面黒景色の中静かな夜が眠りを誘い……


「……どこだ! 許さねえ! 」


 撤回。夜とはいえまだ人が眠る時間ではないため廊下で生徒が話しているのか話し声が耳に入る。どうやらお怒りの様子だ。眠る前に怒鳴り声を聞いても気分のいいものじゃないと耳を塞ごうとしたその時だった。

 ドンドンドン! 勢いよく扉が開かれる。誰かを怒らせてそんなことをされるいわれはないのでドア違いかと錯覚するも尋常じゃないにドアの揺れがそうではないことを示していた。


「おい、ガイトとかいうやつ! いるのは分かってるんだ出てこい! 」


 困った事に人違いでもなさそうだ。とはいえ、心当たりは本当にない。何かしらの誤解だろうから解かなくてはと鍵を開ける。途端に勢いよく扉が開け放たれ眩い光が部屋を照らし眩しさに目を閉じる。


「潔く開くその心意気は良し! だが、それで俺が許すかというと別だ! 」


 そうそうに怒鳴られ何が何だか分からないままゆっくりと目を開くとそこには二メートル程の高さの茶髪でまるで髪が燃えているようにオールバックの男性が立っていた。見たことがない姿だ。上級生か。しかし、上級生となると余計に分からない。上級生にこのように絡まれる心当たりがまるでないからだ。


「何のことでしょうか? 」


 男性が目を細める。


「何のことだと? とぼけても無駄だ! もう調べはついているんだ! ちゃんと目撃者もいるんだぞ!」

「だから何のですか? 」

「お前が風呂に入ったことだよ! 」


 ……え?

 心当たりどころか少し前に入ったばかりなので思わず後ずさる。でも、よくよく考えればそれの何が悪いのだろうか?


「それがどうしたのですか? 」


 寮の説明では一期生は入浴をしてはいけないなんて決まりはなかったはずだが……

 首を傾げると男性がため息をつく。


「あのな、一番風呂は俺って決まってるんだよ! 」


 ……ああ。

 やってしまったと額に手を当てる、正直寮長からも把握されていないルールで面倒だけれどここで対抗して今度は先輩達に煙たがられるのも御免だ。


「すみませんでした、次からは先輩方の後に入らせていただきます」


 謝罪の言葉を述べる。と先輩は面食らったようだった。


「意外に素直だな……だが許さん! 決闘だ! 」


 剣を突き出す。月光をきらりと反射する剣は懐かしさを感じさせ、更に模造剣よりも輝いて……いいや違う、模造剣はこんなに輝かない。これは本物だ! 本物の剣だ!


「真剣でですか? 」

「いいや、それでは殺人になってしまうからな、模造剣だ」


 口にしながら剣を腰に巻きついていた鞘に戻す。その鞘は赤色だけれど丁度少し前に見たあの人の剣にそっくりだった。


「その剣をどこで!? 」

「ああ、これか……放課後に武器屋にいったら運良く販売されていたからな」


 得意げに述べる。それもそうだ、伝説の剣として展示されていたのと瓜二つのものなのだ、そんな剣を欲しがるのはオレばかりではないだろう。そしてオレは僅かな判断の差で長年待ち望んでいた剣を逃してしまったのだ。

 金もないのに毎日行くのは悪いと遠慮をしたばかりに……いや、オレに金がなかったばかりに……

 歯を食いしばり剣を見つめる。あの剣が欲しい、あの剣が。

 諦めるのは早い、この状況を利用するんだ。


「その剣、ボクが決闘で勝利したら譲って頂けませんか? 」

「俺に勝つとは大きく出たな、アローの影に隠れたとはいえそこそこ有名なのだが……しかしその条件は飲めない」


 意外と冷静な彼はあっさりとオレの申し出を却下する。それならば仕方がない、勝敗は分からないけれどせめて腹いせに一撃だけでもさせてもらうとしよう、と決める。


「それでは行きましょうか」


 そう口にすると修練場へと移動する。先輩の声はかなり大きかったようで数名の生徒が何事かと扉越しに様子を伺っていたのが分かった。そこを気にせずに通り過ぎる。影で黒色に染まりかけている階段を下り修練場の前に立つと勢いよく扉を開き中へと入った。

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