「ディーネとの食事」
食事を終えフウトと別れ教室に向かう。気まずさで一瞬扉を開けるのを躊躇するも代表の座を逃して救護室で横になっていた男のお帰りだ! と開き直って開く。すると予想以上に女子の視線がオレに集まり驚く。
「……ガイト、良かった」
駆け寄ってくるディーネとそれを見守る女子生徒達。数年ぶりの再会みたいで大げさではないだろうか?
「どこ行っていたの? 」
オレがツッコむ間もなく女子生徒の一人が尋ねる。
「どこって、昼時だから食堂だけれど」
難なく答えると辺りに気まずい沈黙が流れる。オレは何かをしてしまったのだろうか?
「あれ、もしかして食堂が二つあった? 」
「そうじゃなくて、ディーネちゃん、お昼の間ずっと探していたのよ」
その一言で事の深刻さが伝わった。なんてということだ、ディーネは昼に何も食べていなかったのだ。
「……いいの、悪いのは私だから」
ディーネが彼女に言う。流れを見るに救護室にいないオレを見て慌てたディーネが探してくれたのだろう。
「いや、悪いのはオレだ。変な勘違いさせて悪かった、行こう」
口にするとディーネの手を取り歩き出す。
「……行くってどこに? 」
「食堂」
「……今から? 」
「時間はまだあるから大丈夫だ」
早歩きで食堂へと移動する。読み通り、時間が経過しているため列はなくなっていた。
「何食べる? 」
「すみません、実はもうメニューがガイア以外売り切れで……」
「じゃあ、ガイアで」
そう言って代金を置いてからふと、ガイアのメニューがなんだったかを確かめようとした直後にコックが大きな若干焦げ目の着いた巨大なハン・バーグを鉄板で焼くこと数十秒、同じく並べられていたポテトと共に出される。
「お待たせしました」
そう言って出された間近で見ると更に迫力が増すその料理を受け取るとディーネと共に席に着く。
「……こんなに食べられない」
申し訳なさそうにするディーネ。確かにこれは普通よりも多めな沢山食べたい人向けのようだ。
「まあ、そこは食べられるだけでいいんじゃないかな、とりあえずオレが切っておくから気にせず食べな」
残ったのはオレが食べると口にして変に遠慮されるのも嫌なのでそう口にすると持ってきたオレの分のナイフとフォークを手にするとハン・バーグを切り始める。ナイフで軽く押しただけでジュワッと肉汁があふれ出た。これは絶対うまいやつだ、と確信する。
「……ごめんね」
「ん? 」
不意の謝罪に心当たりがなく困惑する。
「……代表のこと、ガイトが対抗戦に出たいの知っていたのにバディを変えられるのが嫌で……」
「ああ、別に気にしなくていいよ。負けたのはオレの実力だから」
彼女が首を横に振る。
「……ううん、ガイトは手加減をしてくれた」
「違うよ、あれは本当に集中力が切れて止まったんだ。ほんの一瞬、そこを突けたのはディーネの実力だよ」
心から思っている言葉を彼女に伝える。心からそう思っているのだけれど、流石に言う機会多すぎないかな……。彼女は続ける。
「……先生にも私よりガイトの方がってまた伝えたんだけど、そしたら放課後まで考えておくって」
今度はディーネが来たと混乱する先生の姿が頭に浮かべ苦笑いをする。
「まあ、対抗戦のことはここまでにして早くしないと冷めちまうぞ」
フォークをハン・バーグに向ける。せっかくの肉汁も冷めてしまっては美味しさも減ってしまうのだ。
「……いただきます」
行儀よくそう口にすると彼女はハン・バーグと格闘を始める。小さな口によく入るものだと感心しながら眺めていると彼女が顔を背ける。
「……恥ずかしいからあまり見ないで」
「了解」と視線を落とす。そこには数日前と異なり凹凸の目立たない胸、やはり制服は凄いなと感心をする……も慌てて視線をさらに落としハン・バーグへと向ける。ジュージューという音が食欲をそそる。
参った、どこも直視できない。
諦めて周囲を見ると未だに着席をしている生徒が十数人、彼らがいるということはまだ時間があるということだ。しかし、オレの目を引いたのは彼らの制服の色だ。同じ色ばかりで固まっている。先ほども気付かないだけでそうだったのかもしれない。あまり別のクラスでの交流はないということなのだろう。もしかするとオレとフウトが二人で食べていたのは珍しい光景だったのかもしれない。
「……ごめん、もう食べられない。それとお金……」
ディーネが申し訳なさそうに口にする。皿をみるとハン・バーグが半分ほど残っていた。量が多かったので仕方がないだろう。それでは残った分は……とその前にオレの真意を推測して気を使って残してくれたかもしれないので確かめるべくフォークをハン・バーグの一切れにさすと彼女に向ける。
「もう少しだけ食べられないか」
すると彼女は何故か顔を赤らめると目を閉じながら黙って口を開いた。黙ってその口に入れると咀嚼して飲み込んだ。やはり気を使っていたかと二切れ目をさすと彼女は何故か残念そうに首を横に振る。どうやら本当に限界みたいだ。
「じゃあ、残りはオレが食べるから金は良いよ」
フォークの方向を変えて口に入れ咀嚼する。うん、思った通り美味い! さっき食べたのが軽めのパワーサラダだったし量もなんとかなりそうだ! 量が少なければ大食いの人じゃなくても食べられるのに勿体ないと感じていると目の前にフォークで刺されたハン・バーグがあることに気が付く。
「……ガイト、あーーーん」
「ん? 」
ディーネが顔を赤くしながらこちらを覗き込むようにしながら突き出しているのだった。
「……ほら、こうした方が早く食べられるかなっと思って」
「なるほど」
納得して口を開ける。するとそこにすかさず押し込まれた。咀嚼している途中、ディーネがまだ見つめているのに気付き思わず顔を背ける。先ほどのディーネの気持ちがよく分かった。これはかなり恥ずかしい。
「あの、やっぱりオレ自分で食べるからディーネは先に教室に……」
言い終える前に素早く差し出される次の一切れ。
「あの、だから先に……」
「……大丈夫、今計算した。この方法以外に二人が間に合う方法はない」
キッパリと言ってのける。差というとこの食べ終えた後に次を刺して口まで持ってくるまでの数秒位なものだけれどそれがそんなに大切なのだろうか? 考えても仕方がない。オレは納得の意を示してされるがまま口へと入れる。その間、ディーネはずっとオレのことを見ていた。本来の目的である見られていると恥ずかしい旨を伝え忘れたことに気が付き伝えようと飲み込むと同時に言わせまいとばかりに口元まで差し出される次の一切れ。
……なんかうまい事はぐらかされた気がする。
この際仕方がないと目を瞑り少しでも料理を味わおうと試みることにした。