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「該当せず」

  剣による試験を終えたオレは持久力に筆記試験を経て他の数名の候補者とともに物静かなガラス細工の部屋に案内された。


「それではこちらで皆様の『ソウル』を見極めさせていただきます」


  部屋に1人向かい合って椅子に腰掛けていた老婆が立ち上がり手元にある水晶に触れながら述べる。


「『ソウル』は皆様のこれからの剣士としての生活を支える貴重なモノ、我が校を卒業し軍にて活躍している剣士達も皆己の剣技と『ソウル』の力を合わせて戦っているのです、『ソウル』は4つ存在します。1つは燃えるような『フレイム』、1つは芯まで凍えるような『ブリザード』、1つは吹き抜ける『ウィンディ』、1つは大地とともに戦う『ガイア』、本来剣士にならなければどの属性かもわからぬまま生涯を終える『ソウル』を今この場で明らかにさせて頂きましょう」


  老婆の言葉に胸を躍らせる。老婆の言う通り『ソウル』は人それぞれにありこの学校はそれで寮を分けるらしいが何よりオレはこの時を楽しみにしていた。炎で敵を燃やすか氷で凍らせるか風で切り裂くか大地の力で翻弄し突き刺すか、どのパターンも想像をして剣を振るってきたのだ。そして今、実際に自分が想像ではなく震える属性が分かるとなると嬉しさのあまり思わず握り拳を作って震えてしまう。


「ワクワクしているようだね」


  背後から声をかけられ振り返るとそこには爽やかに笑う緑髪の男性の姿があった。


「バレてたか」


  恥ずかしくなり思わず照れ笑いをする。


「いや、恥ずかしがることはない、かくいうボクも同じでどの属性になるかワクワクしているんだ」

「そっか、といっても見た感じそちらは風な気がするな」


  爽やかな風貌に緑色の髪を見て思った事をそのまま口にすると彼は爽やかに笑う。


「ハハハ、よく言われる。とはいえボクの家系はいつも風だから、本当にそうかも知れないな。そういう君は……」


  彼はオレを品定めするようにジロジロと見つめること数分、観念したように言う。


「すまない、分からないな」

「いや、まあオレもこれと言った特徴があるわけでもないからさ」

  言葉通りでオレは髪が赤でも青でも黄色でも緑でもなければ他に特徴があるわけでもない普通過ぎて怖いくらいなんて言われることもある至って普通な男だ。


「希望とかはあるのかい? 」

「いや、特にないかな。判明したらそれを極めるだけさ」


「なるほど」と感心したように彼は頷いた。言葉に嘘はない、正確に答えるならあのオレを助けてくれた剣士と同じ属性が良いのだけれど彼女の属性が分からないから何でもいいのだ。


「そちらは? 」


  オレが尋ねると恥ずかしそうに彼は笑う。


「ボクはなんだかんだ言ったけど『風』かな。しかし、先程の試験見ていたよ。あのアローさんを倒すなんて流石だ」


  照れ臭さからか話題を変えたようだけれどそれは効果抜群だった。


「えっ、どうして知っているんだ」


  面食らって思わず尋ねる。というのもそこまで目立つのはオレの本意ではなかったからだ。


「そりゃ、あのアローさんがやられたんだ。あっという間に会場全体に知れ渡っているよ。ボクも負けていられない。ボクはフウト、君の名前は? 」

「ガイト」


  オレが答えるとフウトはニヤリと笑う。


「そうか、ガイト。少し気が早いけど共に頑張って行こう」

「ああ」

「ガイトさーん」


  フウトと誓いを立てたところで名前を呼ばれたので返事をして歩を進め水晶の前に立つ。


「それでは目を閉じて心を鎮めてください」

  言われた通り目を閉じて心を鎮めるべくあの日の光景を思い出す。

  オレ、もう一歩貴方に追いつきます

  心の中で彼女に声をかけたその時だった。


「こ、これは! そ、そんなバカな! あ、ありえない! 」


  老婆が声を上げ立ち上がる。その声は余りにも大きく後ろにいた候補者達もざわざわと推測を口にする。


「おい、あれってアローさんを倒した奴じゃないか」

「ということはなんだ? もしかして全属性使えるとかヤバいやつじゃないのか? 」

「バカ、そんなのいるわけないだろ。でもそれくらいしかないのか? 」

「とんでもない野郎だなおい」


  オレがまさか全属性を扱う? そんなことがありえるのだろうか? それならまさに夢のようなことではないだろうか!

  耳に入った推測から生まれた期待を胸に老婆を見る、なんとか落ち着きを取り戻したようで再び椅子に腰掛けたところだった。


「どうでしたか? 」


  オレが尋ねると老婆が言う。


「ないのじゃ」

「え? ない? 」


『ない』という属性なんてあっただろうか? なんて考えたすぐ後にその言葉の意味を知って愕然とする。それと同時に老婆が声を張り上げる。


「反応しないのじゃ! この水晶なら四属性どれでも分かるようになっているのに何も反応しないのじゃ! 」


  老婆の声が脳内で何度も何度も反響した。

  ない? そんな、バカな……

  あまりのショックにオレはその場で膝をついた。

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