「代表決定戦」
「それで、何が始まるんですか先生」
一限は教室での講義と聞いていたのを実戦用の修練場に急遽予定変更されたのに驚いた生徒が先生に尋ねる。先生はふう、と息を吐いた。
「そうね、もう皆来たみたい……ってディーネさんは……ああ今到着したみたいね」
先生がディーネが入ってくるのを視界に入れて安堵のため息を漏らす。彼女だけがいなかったので黒板に行き先を書いておいたのが功を成したようだ。先生がコホンと咳払いをする。
「まずはガイト君とディーネさんにクラス対抗の座をかけて戦ってもらいます」
「え、でも代表って……」
「あの女、ここまで計画していたのね」
ざわめきと共に視線がオレに集まる。有難いことに皆はオレを代表として認めてくれていたのだろうか?
「……待ってください」
大きな声が響き渡る。その声の主はディーネだった。彼女がこちらにゆっくりと近付いてくる。
「……先生、どうして。代表はガイトって」
「やっぱり話し合っていなかったのね」
先生が肩をすくめる。
「彼からの提案よ、貴方の実力次第では貴方を代表にしてあげて欲しいって」
「……でも、私がガイトに勝つなんて」
「勝敗は関係ないわ。彼相手に善戦すればそれで良いのよ」
「……そんなの、無理。その条件だとまた私ガイトを……」
ディーネが首を振る。このままではオレの不戦勝となりかねない空気だ。なんということだろう、オレの考えはディーネ自身によって打ち砕かれてしまった。絶望にかられ俯く。
……こうなったら別の手を考えなくては。いや、いっそ今からでもディーネに目的を話して。
様々な考えが頭を過ぎる。その時だった。
「なるほど、そういうことね」
先生が小さくそう呟いたかと思うと彼女はディーネの顔を見る。
「こんなに意思疎通のできていないところをみると、貴方達がバディとしてうまくいっていたと思っていたのだけれど気のせいだったようね。実技の練習相手はせっかくだからバディを組んだ者同士にしようとしていたのだけれど、そこもまた一から考え直した方が良いかしら」
そう口にしてため息を一つ。困った事にせっかく講義の予定まで変えてくれたというのにこうなってしまい先生もかなりご立腹のようだ。余り機嫌を損ねないようにしようと思うと同時に彼女がこちらに視線を向ける。
「ガイト君、このままなら貴方は……そうね、私と組みましょうか」
満面の笑みを浮かべる。しかし、彼女のこのような表情を見たのが初めてだからだろうか背筋がぞっとする。やはり何か企んでいるのか疑った瞬間だった。
「……待ってください」
ディーネが再び大きな声を上げる。
「……戦います、ガイトと。だから……」
「構わないけれど貴方が手を抜いている素振りを見せたらその時はバディを変更させてもらうわ」
「……はい」
ディーネが力強く首を縦に振る。その様子を見て再びざわめきが起こる。その内容はディーネが今まで手を抜いていたのではないかというオレにとっても都合のいいものだった。
……よくわからないけれどラッキーだ。
小さくガッツポーズをすると剣に手をかけ引き抜く。
「じゃあ、始めようディーネ」
「……うん」
彼女もオレに応じて剣を引き抜くと足元に引かれた線の内側へと立つ。
「それでは、試合開始! 」
その言葉と共にオレとディーネは一斉に駆け出した。
ブン!
彼女が間合いに入ると同時にディーネに挨拶代わりに真横に剣を振る。左右に躱すことはできず直進していては回避不可能の一撃だ。しかし、彼女は迫る剣に対して剣を差し込もうとすらしない。下手したらこの一撃で終わってしまうかもしれない、そんな不安が頭を過ぎった。
だが、そうはならなかった。
ダン!
彼女が勢いよく左足を前に踏み出したかともうとそのまま後ろへとバックステップをする。
……やるな
オレ剣が空を切る。それを見届けると彼女は再び地面を力強くけりこちらに向かって接近すると剣を振る。
……そうはいくか。
即座に剣先の向きを変えて今度は先ほどと逆方向に剣を振る。
カンッ!
剣が弾かれた。弾かれた剣を即座に戻すと再び振る。それをディーネが弾き返しカウンターの一振り、それをオレが右に避けて一振り。それをディーネで躱して……
「おい、なんだよディーネのやつ。すげえ強いじゃん」
「本当。あの子、あんなに強かったんだ」
剣戟の中ギャラリーの声が耳に入る。別にオレは互角に見せるように彼女の剣に合わせて剣を振ったり、防げるようなところを狙ったりはしていない。ちゃんと隙をついている。それを彼女は防いで反撃をしているのだ。ディーネは本当に強くなった。つい先日まで素人だというのに今ではここまでの戦いができるようになった。
……でも、オレも負けるわけにはいかない。クラス対抗戦に選ばれるためにも。
剣を握る手に力を込める。これからオレが放つのはディーネにも見せたことない全力の一振りだ。ディーネの力は生徒達に十分示せた。これでもう彼女のことを悪く言うものもいなくなるだろう。
……だからこれで終わらせてもらう!
もしかしたら、この一撃も今のディーネなら防ぐかもしれない。その時はその時だ。
カン!
何度目か、オレ達の剣が音を奏でる。しかし、オレが先ほどより力を込めたので彼女が立て直すのが僅かに遅れた。
……貰った。
剣を思い切り振ろうとしたその時だった。
「あのガイトに勝てる、勝てるぞ! 」
「いけえええええええええええディーネえええええええええ」
「ディーネちゃあああああああああああああん」
クラスメイト達の声援が耳に入る。
……あれ、これオレが勝ったらダメなやつじゃ
一瞬、動きが止まった。だがその一瞬が命取りだった。
ブン!
「え」
気付くと体にディーネの振った剣が迫っていた。その剣はドゴォという音と共にゆっくりとオレの腹に食い込み同時に体中に痛みが広がって……
「ぐあっ」
悲痛な叫びを上げて体は宙を舞った。