「代表決定戦の申し入れ」
翌日、いつも通りディーネと二人で学園へ向かい席の一番後ろを確保する。既に教室には大勢の生徒が到着して皆会話をしているようだった。
「……じゃあ、先生の所に行ってくる」
そう言ってディーネはクラス対抗戦にはオレが出るように辞退を申し出に向かった、オレも同行するといったのだけれど一人の方がいいらしい。「頼む」と彼女に応じるとクラスの生徒たちをボーっと眺める。
……皆同性で固まってんな。
未だに異性で会話をしているのはオレとディーネ位のものでこれはもう男女の会話=恋愛関係という式が完成するのではないかというくらい見事なものであると同時にそれだけ皆剣士を本気で目指しているのだという思いもヒシヒシと伝わってくる。
……オレも負けていられないな。
拳を握りしめたその時だった。
「ねえ、あのディーネって子、今度はアローさんと話していたらしいわよ」
「え、ガイト君の次はアローさん! ? ウソでしょ? 」
「本当よ、昨日二人でいるところを見かけたんだから」
「信じられない、あの女この学園に何をしにきているわけ! ? 」
女子たちの会話が耳に飛び込んでくる。
……いやいや、ディーネは昨日夕方までオレといたんだから別人だろう。
心の中でツッコミを入れる。しかし、オレのツッコミとは裏腹に彼女達の会話はいつの間にかみるみると女性参加者が増えていきディーネの悪口大会となった。気付けばディーネは女子達の間ではアローと結婚するために入学した女ということになっている。厄介なことに彼女がこの間まで剣に関しては大振りしてしまうくらいだったのが裏付けになっているらしい。決勝での彼女の活躍を見ていなかったのだろうか? とにかくこのままでは以前のオレの立場がそのままディーネに変わるのかもしれないという最悪の予想が頭を過ぎる。
……何か手を打たないとな。でもどうすれば……
ボーっと遥か前方の教卓の先の黒板を眺めて考える。
……そうか、単純にディーネの実力を生徒に見せればいい!
一つの考えが浮かび思わず立ち上がる。そしてオレは迷わずに職員室へと向かった。
「失礼します」
その言葉と共に職員室に入ったオレは先生を探そうと右から順に視線を左にずらしていく。すると朝のミーティングが近いためか空席が目立つ中椅子に座りオレをずっと見つめている人物に気が付く。先生だった。
「先生、お話があるのですが」
「クラス対抗の件でしょ? それなら先ほどディーネさんから話を聞いたわ」
彼女の前につき口を開くと彼女がそう返す。ディーネとはすれ違わなかったものの入れ違いになったらしい。
「いえ、その……」
思わず目が泳いでしまうので目を閉じて深く息を吸い込むと勢いよく口を開く。
「ディーネとクラス対抗戦の座を賭けて戦いたいのでお時間を頂きたいのです」
「え? 」
予想通りの目を見開いて「何を言っているの? 」という反応。それもそうだろう、先ほど来たバディとまるで違うことを口にしたのだから。だけどオレも引くわけにはいかない。
「ディーネと話し合った後にやっぱり何もしないで譲ってもらうというのは後々彼女が後悔するかもと考えまして、やっぱり二人で戦って決めた方が後腐れがないかなと」
「といっても、ディーネさんは大会を見るに素人の状態からかなり成長したけれど、剣術のみで貴方と戦うとなると見えている勝負としか思えないのだけれど」
ズバリと先生が口にする。確かに彼女の言う通りだ。ディーネは強くなったといってもオレと戦うとなると数年の特訓経験があるオレにはまだ分が悪いだろう。それならばとオレは別の角度から説得を試みる。
「勝敗は関係ありません、フレイムのクラスなのですからフレイムのソウルが使えるディーネが出るというのが理に適っていると思います。それにソウルが使えるならば剣技が強い必要はないと思います。ですので先生がディーネの戦いを見てソウルを使える前提で彼女の剣技が形になっていれば彼女を選んでください。それで構いません」
彼女は何も言わずにオレを見つめる。
……しまった、オレから提案しに来たのにオレにメリットがないじゃないか。
自分に似合わず余りに優等生すぎる発言をするという失態にため息をつきたくなるも態度に出すとマズいのでなんとか唾を飲み込む程度に留めて平静を装うと彼女が視線を逸らす。
「まあいいわ、貴方がそこまで言うのなら。すぐにでも済ませてしまいましょう」
そういうと彼女は素早く立ち上がり出口へと歩き出す。
「ほら、早くいくわよ」
「ありがとうございます」
オレは彼女にお礼を言うと彼女を追いかけた。