「ディーネと子供達」
「色々あったけどあそこがオレのお気に入りの場所かな、他に行きたいところはある? 」
「……特にないかな」
「そっか、じゃあ寮に帰るか」
「……うん、勉強になった。ガイトには友達がたくさんいる」
「皆良い人だからディーネともすぐ仲良くなれるよ」
ディーネにそう告げると寮へと向かう。大通りを抜けて小道に入り、後はここを渡れば寮という道まで着いた時だった。正面から一人の女性と数人の子供たちの姿が見えた。見るとそれがオレの知っている姿に似ている。
……まさかな
半信半疑で近付いた時だった。
「あ、ガイトお兄ちゃんだ」
一人の子供が声を上げてこちらに向かってくる。パウリーだった。
「こら、危ないでしょ」
メアリーさんの鋭い声でパウリーが駆けるのを止める。ふう、と息を吐くとオレは彼らの元へと向かった。
「どうしてここに? 」
「ガイトお兄ちゃんを見に来たに決まっているでしょ」
「といっても寮までで中には入らないって約束だったのだけれど、会えて良かったわ」
メアリーさんがパウリーの説明に補足する。
「オレも皆の顔が久しぶりに見られてよかったよ」
「なんで会いに来てくれなかったんだよ。もしかして、その綺麗なお姉さんとデートしてたの? 」
パウリーの言葉をきっかけにディーネに視線が集まる。
「あら~ガイト君も隅に置けないわね」
何故か笑みを浮かべてパウリーに乗っかるメアリーさん。
「いえ、そのディーネはバディで」
「……はい、私たちはバディでそういうのじゃ……」
慌てて両手を横に振ると偶然にもディーネも同じ仕草をしているのが目に入った。それで皆が笑い出す。オレも釣られて笑ってしまった。
「楽しい学園生活が送れているようで良かったわ」
「ええ」
「こんなお姉ちゃんと組めるなんてズルいぞ兄ちゃん! 」
パウリーの一言を合図に男子は同意した後に皆でディーネに抱き着く。
「お、おい」
「姉ちゃんオレと付き合ってよ」
「バカ言え俺だ! 」
「僕だ! 」
次々とディーネに告白をする男子達、それを白い目で見る女子と困惑している様子のディーネ。ほほえましい光景だけれど道端なので見ているわけにもいかない。オレは男子達に近付く。
「こら、お姉ちゃん困ってるだろ、それにディーネはオレと組んで大会優勝する位強いんだぞ。怒らせると……」
それを聞いて皆が驚いてディーネを見つめる。
「え、ウソ」
「もしかしてガイトお兄ちゃんより強いの? 」
「……い、いやそうじゃなくて私が勝ち残れたのはガイトのお陰」
ディーネは謙遜しているも「優勝」という言葉のインパクトは凄まじく先ほどのような騒動は収まった。
「優勝って本当? 」
メアリーさんが目を輝かせて尋ねる。
……しまった、こんな形で明かしてしまった。
本来なら感謝の言葉と共に伝えたかった情報を口にしたことにため息をつく。
「はい、皆さんのおかげで優勝をすることができました」
「この学園で優勝って凄いじゃない! 入学できただけでも凄いのに! 」
「いや、まあ、ディーネのお陰ですしそれにまだ学年のクラス内での話ですから」
「ということは次は学年同士での戦いなの? 」
「はい、クラス内で選ばれた一名同士がトーナメント形式で戦うことになっていますけれど……」
答えにくい質問のため歯切れの悪い回答になってしまう。
「学年最強も狙えちゃうのね? あれでも一人って……」
彼女が唇に手を当てる。まさにそこなのだ、ディーネはオレに権利を譲ってくれると言ってくれたけど今になって気が変わったかもしれない。そうなるとここでメアリーさんに知らせるのはディーネに数で迫る行為になってしまうのだ。
チラリと彼女を見る、嬉しいことに今度は女子に胸とか色々と質問攻めにあっている彼女が聞いている様子はなかった。
「まだ決まっていないのね」
察してくれたのだろう、メアリーさんが小声で尋ねる。
「はい、明日までに先生に連絡することになっていますが」
「じゃあ、二人で話し合って決めなさい。どちらになっても応援するわ」
そう言うとメアリーさんがパンと手を叩いた。その音に子供達が一斉に彼女を見る。
「はーい、皆、二人とも忙しいんだからそろそろ帰りましょう」
「でも、もっと遊びたい」
「大丈夫よ、同じ街なんだから。ね? 」
彼女がオレにウインクをする。
「ああ、次の安息日はオレから遊びに行くよ」
「お姉ちゃんは? 」
……ディーネもうそんな人気なのか?
答え辛い質問なのでチラリとディーネを見る。すると彼女はニコリとほほ笑む。
「……皆が良ければ私も行く」
その言葉に歓声が沸くと「きっとだよ」という言葉を残した皆は帰っていった。
「ディーネ、短い間に凄い人気者になったな」
「……そんなことないよ、珍しかっただけだと思う」
「そんなことはないと思うけどな」
孤児院でも子供達があそこまで一人に集まるのは余り見たことがない。ディーネの力ではないだろうか?
「……あんなに子供達が応援してくれているならガイトはクラス対抗戦も勝たないと」
どう切り出そうか迷っていたのを彼女がスッパリと口にして驚く。
「良いのか? 」
「……うん、私がここまで来れたのはガイトのお陰だと思っているから」
彼女はそう口にするとオレの手を引いて駆け出す。
「……行こう、門限になったら大変なことになる」
空はまだ赤く染まっており日が沈む気配はない。でもオレは彼女に反発せずに引かれるがまま寮へと走った。