「謎の少女」
食事を済ませたオレ達店を後にして店を後にする。
「次はどこに行きたい? 」
「……ガイトは行きたい場所ある? 」
「行きたい場所かあ」
ぼんやりと考える、オレにとって行きたいところは二ヶ所あるけれど、どちらもディーネと行くような場所ではない。けれど思ったより時間の流れが速かったのと門限がある以上、彼女と別れてから行くとなると時間との戦いになってしまう可能性もある。
……こうなったら行くか、引かれたらその時はその時だ。
覚悟を決めて口を開く。
「よし、武器屋に行こう」
「……え? でも私武器を買うお金なんて持ってない」
決まったのなら善は急げだ、半信半疑な様子の彼女を連れてオレは武器屋へと向かった。
カランコロンと来店を知らせる音と共に木製の武器屋の内装が視界に飛び込む。
「えーっと」
真っ先に剣が立てかけてある棚へと向かう。
「……お店の人もいないしお金もないのに良いの? 」
不安気に辺りをキョロキョロとしながら彼女が尋ねる。
「大丈夫、この店の主人に許可はとってあるから」
彼女に説明した通り主人に取っており、幼いときは数時間おきに尋ねたりもしたものだ。探すこと数十秒、いつもの通り剣は見つからなかった。
「……どうしてこんなことを? 」
「憧れている人が使っていた剣と同じ剣を使いたいんだけど製作者の名前も分からないから見た目で判断するしかなくてさ。見つけた場合には必ず買うという条件付きで取り置きしてもらうことになっているんだ」
「……ガイトにもそういう人がいるんだね、ちょっと嬉しい」
頭に思い浮かべた彼女と似ているディーネが意外そうに口にするのを見て思わず顔を背け「まあね」と答える。
……あれ?
そこまでしてようやくとあることに気が付いた。いつもなら姿を現すはずの主人が未だに姿を現さないのだ。主人も奥さんもかなり年配のため胸がざわつく。
「こんにちは、おじいさん? 留守ですか? 」
店が開いているのだから留守のはずはないと確信しながらもカウンターの奥目掛けてそう叫ぶと奥の方から声が聞こえた。
「すまん、身体の調子が悪くて今日だけでも」
「分かりましたおじいさん、行って参ります」
聞きなれた主人の声ともう一つは聞きなれないが恐らく女性の声だ。とりあえず大事にはなってないようで一安心したのも束の間トントンとこちらに向かってくる足音を聞いて慌てる。
……マズい、オレが聞いたことがない声ということは向こうもオレのことを知らないということだ。新人の店員だとして主人が客ではないオレのことを彼女に話すだろうか? オレなら話さない。そうなると制服を着てここにいるのがバレたら面倒なことになりそうだ。しかし、だからといって外に出ると商品を取るには十分の時間があったため泥棒と間違われる可能性もある。万事休す、一から説明をするしかないか。
覚悟を決めてできれば話の分かる人であることを念じながら彼女の到着を待つ。
「いらっしゃいまs……」
白のタンクトップに黒のショートパンツ、腰には剣を収納するためのベルトといった女剣士を模した姿に身を包んだ長い銀髪でアイスブルーの瞳を持った女性が愛想よく姿を現したのだが何やら様子がおかしい。彼女は何か見てはならないものを見たというようにその場で硬直している。
「あの……すみません、ガイトと申しますがいつも主人に入荷した剣を見せていただいてまして」
「ガイトってあのガイト……ウソでしょ? 」
何やら小声で呟いた後に彼女は大きく笑う。
「あ、あらそうでしたか。アハハハそれでお目当ての物は見つかりましたか? 」
「いえ、それでは僕らはこれで失礼します」
何か良く分からないけれど話の分かる人で助かった。オレはディーネの手を引くと勢いよく扉を開けて外へと飛び出した。
「危ないところだった、まさか新しい店員がいたなんて、巻き込んで悪い」
しばらく歩いた場所で掴んでいたディーネの手を放し彼女に謝罪する。
「……別にいい、私も剣が見られたから。それより、あの人どこかで見たような気が」
ディーネが顎に手を当て「うーん」と声を出す。しかし、結局誰だか分からないようだった。
「きっと、どこかですれ違ったりしたんだよ」
「……そういうのじゃなかったと思うけど」
ディーネは歩きながらも彼女をどこで見かけたのか思い出そうと試みるも結局は思い出せないようだった。