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「ウソつき」

  ディーネと二人で見慣れた街並みを歩いていく。書店に食べ物が売っている市場に洋服店と生活に必要な場所は大体案内し終わった。困ったのは皆が皆ディーネを物珍しそうにみて意味深な反応を示すところだった。


「何かごめんな、どの店も騒がしくてさ」

「……そんなことないよ。皆良い人」


  ディーネが微笑む、最悪オレの彼女と間違われている可能性があるのにそれでいいのだろうか? と尋ねたくなるのを堪える。本人がそう答えてくれたのだから本人の前で答え辛いかもしれないことを尋ねる必要もないだろう。代わりに、丁度昼時なので何か食べたいものはあるかと尋ねる。


「……何でもいい」


  ディーネが唇に手を当てしばらくして答える。

  ……何でもいい、となるとパッセだな。

  オレは「了解」と答えると専門店ではなく色んな料理を出す店であるパッセに進路を定めるもあることを思い出して足を止める。


「……どうしたの? 」


  具合が悪いのかと不安げに彼女がオレの顔を覗き込む。


「いや、ちょっと、今から向かおうとしてる途中に酒場があるんだけどさ」

「酒場? 」


  彼女が目をぱちくりさせる。彼女の反応はもっともでオレ達が酒場に行けるようになるのは三年後で本来なら無縁の場所なのだが……


「そう、そこの店主がさ」

「……ガイトが嫌われているの? 」

「というより、剣士嫌いで」

「……剣士嫌い? 」

「昔色々あったみたいでさ」

「色々? 」


  この話に興味を持った様子のディーネを見てマズいと思ったけれどもう遅い、これはもう話さなければならない流れだ。一度深く息を吸い込むとオレは酒場のアルジャーノンさんについて聞いた話をしようと口を開く。


「十数年前、まだサタンがヘルソルジャーやビーストを操って人々を襲っていたころに……」

「おう、ガイトじゃねえか」


  しかし、それは背後からの野太い聞きなれた声に遮られた。振り返らなくても彼がオレだと後姿で分かったように声だけでわかる、今話していたばかりの酒場のアルジャーノンさんの声だ。即座に振り返るとそこには予想通り黒髪オールバックで焼けた肌をしたアルジャーノンさんが袋を提げて立っていた。


「……知り合い? 」


  と興味津々に尋ねるディーネに紹介も兼ねて口を開く。


「お久しぶりです、酒場は最近如何ですか? 」

「なんでえ改まって、しかしお前……やっぱりウソつきになるのか」


  オレの制服をチラリと見ながら吐き捨てるように言う。街の人に見せようと制服姿で来たのはこの人に限っては逆効果だったようだ。


「……ウソつき? 」


  そう尋ねるディーネを見てアルジャーノンさんはギョッとする。


「なんだいこのべっぴんさんは」

「……ガイトのバディです」


  剣士を嫌っている彼に対して同じく剣士志望と明かしてしまって良いものかと悩んでいるうちに彼女がきっぱりと口にする。すると彼は大きくため息をついた。


「なんでえ、お嬢さんもウソつきになりてえのか」

「……そのウソつきというのは」

「簡単なことよ、あいつら俺の娘が魔人に攫われたのを絶対連れ戻すとか言っておいて未だに娘は帰ってこねえ。もう十年以上になるってのに。終いにはもうどこを探してるかの報告にも来なくなりやがった、これがウソつきでなくてなんだ! 」


  持っていた袋を地面に叩きつける。オレ自身、アルジャーノンさんと出会ったのは彼の娘が攫われてから少し経った後だ、だからオレは男手一つで育てた娘を失った彼が時折みせるこういう悲しい姿に弱かった。だが、ディーネは違った。


「……でも、ガイトは悪くない」


  キッパリとアルジャーノンさんに向けて告げる。


「……だから、ガイトが学園に入学したからって避けたり怒るのは間違ってる」


  一瞬の静寂の後、アルジャーノンさんがガックリと項垂れる。


「そうだよな、お嬢さんの言う通りだ。少なくともガイトは悪くねえ、昔からの付き合いなのにな。悪かった、また卒業したら呑みに来てくれ、一杯奢るからよ」


  アルジャーノンさんはそういうと「落としちまったから買いなおしだ」とオレ達に背を向ける。


「必ず伺います」


  彼に向かってそう声をかけると振り向いてニコリと笑いを返してくれた。


「ありがとう、ディーネのお陰でアルジャーノンさんと険悪な関係にならなくてすんだ」

「……そんなことない、こうなったのは二人が元から仲良かったから、それだけ」


  アルジャーノンさんの背中を見送りながらディーネはそう呟いた。



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