「安息日」
代表を決めるトーナメントが終わり安息日当日、爽やかな目覚めから朝の心地よい冷気を肌に感じながら食事を済ませロビーへと向かう。待ち合わせの場所である柱にまだ彼女は来ていなかった。
……早く来すぎたかあ。
柱に寄りかかり他の生徒達に視線を向けると安息日でも模造剣を持って修練場へ向かうものもいればせっかくの安息日で遠出をするのだろうかオシャレをしたりして数人で会話をしながら出ていく人々の姿が目に留まりいつもと変わらず黒のズボンとアンダーシャツに赤いテーラードジャケットといつもの制服姿の自分の服に視線を向ける。
……私服にするべきだったか? いやでも街をブラブラした後食事をする位で街の皆にも見せたいしこれでいいだろう。寮では、安息日の昼食は出ないようになっている、それ故どこかで食料を調達するか食べてこなければならない。厳密に決めたわけでもないけれどディーネも軽く街を見てご飯を食べて帰るくらいの認識のはずだ。あまりオシャレをしたら却って気を使わせてしまうかもしれない。
再び視線をロビーへと向ける。皆スムーズに集団で歩いているがよくみるとそれは同性同士で固まっているからだと気が付く。オレみたいに異性を待つためにロビーに立っているのは見当たらない。
……そういえば、ディーネに同性の友達っているのかな。
思えばオレとディーネはクラス唯一の異性バディだ、そしてオレにフレイムで同性の友達というと浮かばないのだがディーネはどうなのかと気になった。女子寮で何か会話があってそこから友達ができたりするのだろうか?
偶然通りかかった女性数人のグループを見かけながらディーネの友好関係について考えたその時だった。
「……ごめん、待たせちゃって」
ディーネの声がして慌てて視線を向けるとそこには髪を下ろし白のワンピースに赤い上着を羽織ったディーネの姿があった。その姿は以前オレを助けてくれたあの伝説の剣士にそっくりだ。
いつもの制服姿よりもおしとやかなイメージが強くなったディーネをまじまじと見つめる。すると更にいつもと違う箇所に気が付いた。普段なら気にならない程度なはずのディーネの胸が見事に膨れ上がっているのだ。以前耳にした制服では小さく見えるという話は本当だったと変な感動を覚える。
「……どうしたの? 」
不安気に首を傾げるディーネに正直にいつもよりデカい胸に驚いていたなんて言えるわけもなく、何でもないと返すとオレは彼女に「行こう」と声をかけ歩き出した。
寮を出て門を見るとそこには寮長の姿があった。朝から出かける生徒全員に何やら声をかけているようで一人一人が立ち止まっては話を聞いている。
「なんだろう」
「……わからない」
ディーネが首を振る。
……それもそうだ、オレ達はどちらも一年生なのだから分かるわけがなかった、そこから推測すると何かしらの注意事項なのだろう。
そう考えて歩いているうちにオレ達の番が来たようで寮長がこちらに笑顔を向けた……と思いきやどういうわけか彼女はこちらを見て固まってしまった。
「えっと、寮長? どうかされました? 」
オレの声で我に返ったのか目をぱちぱちさせた後にぎこちなくほほ笑む。
「えっと、二人はお出かけ……なのよね? 」
「はい、ちょっとディーネに街を案内しようと」
それを聞いた寮長はなにやら納得したようにパンと両手を合わせる。
「そういうことだったのね、それじゃあ心配ないと思うけれど日が暮れるまでには帰ってきてね~帰ってこないと……」
「帰ってこないと? 」
「…………大変なことになるから気を付けてね~」
寮長はしばらくの間の後にそう答える。
……なんだ、何が起こるんだ。
別に遠出するわけでもないというのに罰が明かされないことに恐怖を抱きながらオレ達は寮を後にした。