「アロー」
試験会場でもあるその部屋は中心に大きな円が描かれておりアローはそこから奥に数歩程歩いた場所に描かれた線の外側に立っていた。おそらくそこが定位置であって挑戦者であるオレは円から逆側、つまり入り口側に同じ距離をしたところがオレの試験開始時の立ち位置のようで推測通り数メートル先には彼の足元同様に線が描かれている。そこに歩み寄ろうと歩を進めた時だった。
「次の挑戦者がきたぞおおおおおおおおおおおお」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
……なんだこれは
突然の歓声に周囲を見渡して愕然とする。試合会場であるこの場所は上に観戦席が設けてありそこから一望できるようになっているようで大勢の見学者らしき人物が一斉にこちらを見下ろしているのだ。
……まるでスターみたいな扱いだな、いや、それも当然か
彼の人気を実感しながら自らの定位置に立つ。
「次の相手は君か、ボクはアロー。ちょっと賑やかだけどよろしく」
オレに対し朗らかに笑いかける彼を見てオレも微笑み返す。
「こちらこそよろしくお願いします。オレはガイトです。お噂はかねがね」
「そうなのかい? 」
「アローさんは有名人であり大勢の剣士志望者の憧れですから」
「それはうれしいな、でも、手加減はしないよ」
その言葉とともに笑顔だったはずの彼の表情が真剣な者に変わり両手を前に出し剣を構える。剣技に関しては真剣なのだろう。とはいえ、有名人である彼が本気でかかってくるとなるとある者はそれだけで怯え、ある者は感激して戦えなくなるだろう。そしてある者は……
「ありがとうございます。本気のアローさんと戦えるなんて光栄です」
闘争心を燃やして両手を体の正面に出し剣を構える。そう、ある者はより燃えることだろう。相手は学園のエースともいうべき人物だ。今回は魔剣の使用も禁止されている。それなら自分が孤児院で今までやってきた者が通用するのか試す絶好の機会で彼は最高の相手なのだ。嬉しさのあまりステップを踏みたくもある。
そこにカツカツと音を立てて試験官が姿を現す。
「2人とも挨拶は済んだようだな、それでは。試合開始! 」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
試合開始の宣言とともに観客の歓声が上がり、それと同時にオレは剣を手前にわずかに引き寄せると彼目掛けて駆け出す。彼の構えはオレと同様、臨機応変に相手の出方を伺える構えであり隙を見せるまで膠着状態に陥ることもあり得たので挑戦者であるオレから仕掛けさせてもらったのだ。距離を詰めていきいよいよ彼を間合いにとらえるというその時だった。スッと彼の左足が動き一歩前へと出る。これでオレの想定していた間合いと実際の幅が異なったことになる。そしてそれを初めから計算していた彼の方がオレより剣を早く振ることになる。
「決まったああああああ! 」
観客の誰かがそう叫ぶ。しかし、そうはならなかった。オレは彼とほぼ同時に剣を振る。カアン! と模造の剣同士がぶつかり音を奏でた。
「やるね、ボクの足を見て動きを読むとは」
「アローさんならあのまま大人しくやられるはずがないですからね」
そう告げるとともにオレは剣を手元に引き寄せると再び彼に向って駆け出す。その様子を見て彼は足を動かさずに剣を引き寄せる。今度は正面から受けて立つつもりらしい。
……上等だ、いざ尋常に勝負!
オレは彼が間合いに入るとともに右斜め上から剣を振る、それを見た彼も俺同様に剣を振った。
カアアアアアン! と再び模造の剣が音を奏でる。
「おい、嘘だろ。あの状態からアローさんが押し切れないなんて」
「あの受験者何者だ! ? 」
鍔迫り合いとなり全く動かない剣を見てざわめきが起こる、それも当然だろう。彼らが望んでいたのはアローの圧勝でありこのように互角になることすら予想できていなかったのだ。この状態に陥るとあとは力比べだ。オレは歓声をBGMにさらに剣を握る手に力を込めると負けじと彼も力を込めた。
「おおおおおおおおおおおおお」
「く、これはちょっとまずいかな」
オレの剣が僅かに彼の剣を抑え込み彼が苦笑いを浮かべたその時だった。バキィンと強烈な音とともに彼の剣が真っ二つに砕け散り勢い余ったオレの剣は空を切り彼の胸でピタリと止まる。
「マジかよ」
「ありえない……」
「そ、そこまで! 」
観客たちの驚きの声にワンテンポ遅れて終了を告げる試験官の声が響き渡った。
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