「バーンとの決戦」
それからオレ達は3回戦、準決勝でもある4回戦と淡々と勝ち残り決勝戦の日がやってきた。相手はやはりバーン達だった。
「ふっふっふっふ、まさか本当にここまで来るとはな。練習も碌にせず勝ち上がるなんてどんな手を使ったんだ? 」
勝ち誇ったように鼻を鳴らす。確かにこの数日、先生の読み通りバーンは修練場の前の扉に見張り役に既に敗北した長髪の男を置きオレ達が利用できないようにしていた。だが、勿論オレ達が練習していなかったわけではない。変に探られないように彼らの前では困ったように装いながら先生から許可をもらい教室で練習をしていたのだ。お陰でディーネの特訓もばっちりだ。
「まあ、何とかな。こちとら人一倍やらないといけないのに修練場が使えなくて困ったよ」
「その減らず口、すぐに叩けないようにしてやる」
結局、何を言ってもこうなるのだろう。バーンはオレに対しメラメラと闘志を燃やしながら白く描かれた指定の位置につく。先生に媚びを売ろうと彼女の近い位置に立つかと思いきやその場所にはもう一人の男を立ててわざわざ離れた位置に置いた。
「……気を付けて、何か企んでいるかも」
「ああ」
ディーネも何かを悟ったのか彼と向かい合う形に立つオレに警告をしてくれる。
何を企んでいるにしろバーンは強敵でありこの戦いは今後の剣士生活を考えても良い機会だ。楽しませてもらおう。バーンはなんだかんだ言っても実力は確かな男だ、気を抜くとこちらがやられてしまうだろう。
剣を手前に構えバーンに集中する。彼はオレと向かい合って不敵に笑った。気にはなったがそれ自体が作戦かもしれないのでそろそろであろう試合開始の合図に耳を澄ます。
「試合開始! 」
程なくして先生により宣言される開始の合図、それと同時にオレはバーンの元に駆ける。
「馬鹿め! 」
侮辱の言葉と共にバーンがディーネ目掛けて駆けていく。
「ディーネ、オレが何とかするから気にしなくていい。前の敵に集中だ」
ディーネを見ずに叫ぶ。
そう、確かに意表をつく行動だったがそれだけだ。対角線上に走るということはこちらに背を向けるようなものだ。加えてバーンはこれまでのやり取りを振り返ると気性が荒い。一語一句オレに突っかかってきた男が自分が軽視されているような発言に耐えられるはずがない。
「なめるなよ! 」
オレの読み通りバーンの動きに一瞬だけ迷いが生じたように止まった後こちらに向かう。だがそれはオレの狙い通りだった。
「貰った! 」
バーンが間合いに入り、かつ足が地面を蹴ったタイミングで剣を振り下ろす。既に地面を蹴っているのだからフェイントで下がるなんてことはできない。
「ちっ! 」
彼が舌打ちを市咄嗟に剣を構える。
正直、バーンならここまでは来ると思っていた。でも、ここまでだ。この一撃を防いでも力は振り下ろしたこちらの方が込められているので彼がのけ反っている間に次の攻撃に移れる。それを防ぐことができたとしても状況は変わらない。どれだけ防いでももう彼は防戦一方なのだ。最初に正面から来てくれればこんな結果にはならなかったのかもしれないが今更悔やんでも仕方がない。
「うおおおおおお」
せめて一撃に終わるように、断ち切るように、渾身の力でオレは剣を振った。
ガアン!
激しい音と共にオレの剣が弾かれる。
「え? 」
予想外の展開に間の抜けた声を出す。バーンは先ほどと変わらずに剣を横に構えている、オレが一方的に弾かれたのだ。
なんだ、何が起きた? とにかくこの状況はマズい。
オレは咄嗟の判断で弾かれる力に逆らわずにバックステップで後ろへと下がり状況を把握する。深く空気を吸い込みながら模造剣を見ると一部が欠けている、先ほどバーンの剣とぶつかった部分だろう。
「おいおい、さっきの勢いはどうした? 」
彼が得意げにニヤニヤと笑う。彼の剣に視線を移す、剣はどこも欠けていない。
どういうことだ? 慢心はなかった。オレは有利な体制で思い切り剣を振り下ろした、それなのにオレの剣は弾かれたばかりか欠けている。まるで木の棒で石を思い切り叩いた時のように。バーンは余程の力持ちということだろうか? それとも……
「おらおらどうした? 来ないならこっちから行くぜ! 」
その言葉と共にバーンが勢いよく距離を詰めてくる。横目で右側で戦闘を繰り広げているディーネをみる、彼女はスピードで相手を翻弄しているものの、相手もそれを承知か動かずにカウンター狙いのため相手が後出しでもパワー負けしてしまう恐れがあるのでイマイチ決め手にかけるといった状態のようだ。
よし、作戦変更だ。
再びバーンが地面を蹴ったタイミングで一歩後ろに下がり間合いをずらす。
「くそっ! 」
ブンッという音と共にバーンの剣が空を切る。すかさずオレは右上から剣を振るう。先ほどと異なり本来なら振り払おうと剣を振れても空ぶった直後で力も籠められず勝負を決する一撃だ。
「舐めるなよ落ちこぼれが! 」
だというのに、バーンは剣を振るったばかりかそのひと振りはオレの剣を弾き返した。
そういうことか。
思わず頬を緩めると同時にオレは剣を手放す。
「おいおい、どうした? 勝負を諦めたのか? 」
「いや、作戦通りだ」
「は? 」
剣のなくなったオレを警戒する必要はなくなった彼は薄ら笑いを浮かべながらも視線を向けるも次の瞬間笑みは消え目を見開く。
「避けろ」
彼が叫ぶがもう遅い。飛ばされたオレの剣は一直線にバーンのバディへと向かっていき直撃する寸前だった。
「この大会のルールは身体が敵の剣に触れたらアウトだったよな。ならこれで終わりだ」
そう言い終えると同時に相手の男が剣を振るいオレの剣を祓う。しかし、そこまでだ。もう無防備となった状態でディーネの一撃を躱せるはずがない。
「……はっ」
ディーネが素早く剣を男に振るい男は沈黙する。
「舐めた真似しやがって! 」
バーンが歯を食いしばりこちらに思い切り剣を振るう。オレはそれを素早く右に避ける。
「誰かさんと違ってルールはちゃんと守ってるぞ」
その言葉を聞いたバーンが唇を噛みしめる。その様子を見てオレは確信した。
やはりそうだった、バーンは模造剣を模造した普通の剣を使用していたのだ。
「この、落ちこぼれがああああああああああああ」
開き直ったのかバーンが剣を横に振るのをしゃがんで躱す。
「ディーネ、剣を持ってきてくれ。ゆっくりでいい。当たらなければいいんだから」
「ふざけんなああああああああああああああ」
激昂したバーンの剣がおお振りになる。その方が避けやすいのだから計算通りだ。ディーネに言った通り実物の剣だろうが当たらなければ問題はないのだから。
「クソ! ちょこまかと! 」
次は縦に真っ二つに斬ろうと真上から振り下ろしてくる剣を左へと避ける。そうしてバーンの攻撃を右へ左へと躱していると視界の端にディーネが剣を二本持っているのが映った。
「ガイト! 」
「うおらああああああああああああああああああああああああああああああああ! 」
バーンが奇声を上げてディーネに向かう。怒っている風を装っていて意外に冷静なのかはわからないけれどこの状況において自分を倒しうる剣を持っているディーネに向かうのは正しい判断だ。
でも、そこまでだ。ディーネ、気が付いてくれ。
オレは祈りながら右手を高く上げた後に全速力で一直線にバーンを追いかける。
「……っ! はっ! 」
それを見たディーネはオレの剣をバーン目掛けて投げる。しかし彼はあることに気が付いたようで避けることも剣を振ることもせず加速する。
「どこ狙ってんだ馬鹿! 」
そう、剣は一直線に彼に向かっているように見えたがその軌道は一直線に駆けるバーンに直撃するものではなかったのだ。瞬間的に彼はそれを悟ったのだ。
だが、そこまでだった。放たれた剣がどこへ向かっていくのかまでは気が付かなかった。
「ナイスパス! ディーネ! 」
模造剣の利点、それは刃の部分を持とうが関係のない点だ。オレはすかさず正面に来た剣を手に取ると
思い切りバーンの背中目掛けて振る。
「しまっ……」
背後を振り返り防ごうと何とか防ごうと腕を後ろに向けもがくバーン、だがこれは完全な悪手だ。正面の敵に背を向けたのだから。
そう、この絶好の機会をディーネが見逃すはずがない。彼女はすかさず踏み込んで剣を振るった。
ズドン!
前後から同時に攻撃を受けたバーンはその場に倒れこんだ。