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「ソウル検定」

昼時、オレ達は二回戦を戦っていた。相手が仕掛けてきた剣に向かってこちらも剣を振るう、単純な力比べだが結果はオレの勝利、相手の剣は弾かれ大きな隙が生まれる。


「はあっ! 」


すかさず一撃を加え一人を撃破、残るは……チラリとディーネに視線を向けると彼女も戦っていた

「くそっくそっなんで当たんねえんだ」


男が何度も何度も空振りに終わることに苛立ちながら剣を振る、しかしディーネはそれを何度も何度も右へ左へと避けていた。


「ナイスディーネ」


オレがそう声をかけて近寄る素振りをする、それだけで十分だった。


「しまった! 」


動揺した男が正面にディーネがいるにもかかわらず視線をこちらに移す。絶好のチャンスだ。


「……隙アリ」


すかさずディーネが剣を当てる。


「勝者、ガイト&ディーネ」

「マジかよ、また勝ちやがった」

「ディーネが足を引っ張るかと思ったらなんだよ」


先生が高らかに告げると会場がざわめく。オレ達の勝利が予想外だったようだ。確かにディーネは一日で二回戦の相手の攻撃も避けた辺り凄いセンスを持っているのかもしれない。

……これは油断していられないな。

想像以上の成長を見せるディーネに緊張感を覚えながらも胸が高鳴り思わず笑みが溢れる。


「……ガイト、今日も練習付き合ってもらってもいい? 」


ディーネに声をかけられハッとすると彼女はオレの目の前にいた。


「ああ、勿論だよ、今日から攻撃を教えようと思っていたんだ」


それを聞いて「よかった」、とディーネはにこりと笑い寮に戻ろうとした時だった。


「ガイトさん、それからディーネさんは教室で待ってなさい」


先生がこちらに背を向けつつ告げる。おそらく昨夜のことだろう。


「ディーネもですか? 」

「ええ、そのほうがいいでしょう」


昨夜の説教かもと思い一人で十分ではと尋ねると意外な反応が返ってきた。ディーネと顔を見合わせるも心当たりなど他にはない。


「分かりました、それではお待ちしてます」


そう口にするとオレ達は教室へと向かった。


~~

教室でやることもないのでディーネに攻撃方法を教えること数十分、ガラリという音とともに前方が見えなくなるかならないか位の何やら大きな箱を持った先生が姿を現す。何やら重そうなので二人で手伝おうと近寄るも先生はなんなく教卓へと向かっていく。


「お待たせして申し訳ないわね」


教卓にドンとその箱を置くとともにそう口にする。


「いえ、それよりこれは」

「ああ、これはソウルを判定するための器具です、随分と古いものですが水晶で出なかったのであればこれで見極めるしかありません。まずはこれからいきましょう」


驚くオレ達の前で先生は透明な薄い皿と液体の入った茶色いガラスを箱から取り出し空いている前の席に置くとこちらに右掌を向ける。


「髪の毛を一本抜いてください」


言われてプツリとする痛みに耐えながら一本黒い髪の毛を抜くと手渡した。先生はそれを皿の上に置くとガラス瓶を手に取る。


「これを髪の毛にかけると液体が4色に変わります、赤ならフレイム青ならアイス、黄色ならガイア、緑ならウィンディのソウルとなります」


説明しながら蓋を開けると先生は中の液体を髪の毛にかける。オレは髪の毛を固唾を飲んで見つめる。

しかし、髪の毛の色は変化しなかった。


「問題ありません、想定内です」


先生はそう口にすると次のものを箱から取り出す。それは一枚の白い紙だった。


「こちらを噛んでください、すると紙が先程説明した通りの色に変化してソウルが分かりやすくなります」


言われるがまま紙を前歯で噛み結果を待つ、しかし紙に何も変化は起こらない。


「なるほど、それではこれね」


次に先生は一冊の本を取り出した。


「今からこの本に書かれている質問を読むので正直に答えてください」


オレにそう言うと次にディーネに視線を向ける。


「ディーネさん、もし彼が嘘をついていると感じたら直ぐに教えてください」


……信用ないなあ。

そして、質疑応答が始まった。質問の内容は絵を見て何に見えるとか答えのみえないものから帰ってきたら何をするのかと言う個人的なものと様々だった。


「ディーネさん、何かおかしなところはありましたか」


ひと段落した後に先生がディーネに尋ねるも彼女は首を横に振る。当然だ、全て正直に答えたのだから。


「ソウルは人間の根源に関するものなので人となりから探るといったものでしたが結果は……フレイム60.アイス59.ガイア59.ウィンディ58……でフレイムに適性があるようですね」


やれやれといった感じで告げるもその落胆は共感できるものだった。全くと言っていいほど分からなかったのだ。


「まずいわね……こうなると……」


顎に手を当ててそう口にすると先生は突如剣を抜いた。


「実際にみてイメージした方がいいかしら」


そう口にした次の瞬間、剣に凄まじい勢いの炎がともる。


「フレイム一番の特色はこの炎、長所は当てることができればその威力から勝負を決めることができる所、短所は自らが炎の近くにいるため熱が近く剣のクリスタルで抑えても長く放たず保つことは難しいため判断力が問われる所よ」


メラメラと剣で燃えたぎる炎に先生がユラユラと揺れる。こんな間近でみたのは初めてのことで心が躍った。


「コツは、燃える闘志。と言っても最初だけですが。あとは……一連の動作に名前を付けてみるのも良いかもしれません、名前と動きを関連付けることが出来れば反応速度は上がりますから」


そう口にしながら先生は後ろを向き教卓に向かい剣を振る、たちまち教卓が箱と共に炎に包まれる。


「心配いらないわ、模造剣なので実際に燃えているわけではなくすぐ消えます。でもこの燃える様子も見ておいた方がイメージしやすいかと思って」


説明しているうちにふっと炎が消えた。模造剣で試合を決するジャッジをするには十分な時間だ。


「と、講義で行うことを先行しただけですが今私にできることはこれが全てです。模造剣でこれをイメージして復習してみてください」


先生が箱に器材を片付けながら口にする。


「はい、ありがとうございました」

「結局ソウルは見つけられなかったのだからそう気を遣わなくていいわよ」

「いえいえ、先生がそうしてくれたのが嬉しかったので」


言葉に嘘はなく、オレはソウルが見つからないことよりもあの先生がオレのためにここまでしてくれたのが嬉しかった。


「……っ! まあ、とにかく、ソウルがないなんてことはあり得ないのだから気長にとはいえませんが程よい緊張感を持って学園生活を送ればそのうち目覚めるでしょう」


一瞬、優しい顔をしたけれどそれが気のせいかと思うほど先生は素早く切り替えるとそう口にして箱を持つと外へと向かう。せめてもとオレ達で扉を開ける彼女が立ち止まった。


「ありがとう、それとこの教室。二人用の練習スペースくらいにはなるでしょうから、好きに使ってくれて構わないわ」

「本当ですか? 」


またとない申し出だった、トーナメントも進み数は減っているとはいえ寮だとバーンがまた何か仕掛けてくるかもしれないので誰もいないここを練習場として使用できるのは非常に有難い。


「「ありがとうございます」」

「別にこれくらい大したことではないわよ」

「それじゃ、頑張って」


最後に小声でそう口にすると先生は去っていった。

カツン、カツンと次第に遠ざかる音を聞きながらディーネと顔を見合わせる。改めて振り返ると今の出来事は夢のようで実感が湧かなくそれは彼女も同じだったようだ。


「夢……じゃないよな」

「……うん、そうみたい」


爪を立てながらぎゅっと手を握るとかすかに食い込んでいく痛みを感じる。やはり夢じゃない。


「先生、本当に良い人なんだな」

「……うん、寮長の言う通り良い人。でも突然ガイトがいなくなったりすることにならなくて良かった」


ディーネの言う通りだ。仮にオレがここでウィンディ適性があるとなったら色々とバタバタしたことだろう。


「それじゃあ、先生の好意に甘えて練習するか」


そう切り上げるとともにオレは模造剣を引き抜く


「さっきみたいにここからは本格的に攻撃をビシバシ行くからな」

「……よろしく」


クスリ、と笑いながら彼女も剣を抜いた。


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