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「光へ」

 あと数歩だった、あと一瞬決断が早ければ防げたかもしれない光景だった。

 あと……

 幾つもの後悔がオレを襲う、でも目の前の光景は変わることがない。


「あ……」


 カラン、と彼女の握っていた剣が落ちると同時に剣を刺されたディーネが血を吐いて力無く倒れる。ヘルソルジャーは追撃をしようと剣を引き抜くと再び彼女に向けて振りかぶった。


「ぐっ……おおおおおお! 」


 立ち止まって力の抜けてしまった足に力を入れてヘルソルジャーの剣目掛けて剣を振る。

 キィンと力無くヘルソルジャーの剣はあらぬ方向へと飛んでいった。それを見たヘルソルジャーは慌ててディーネの剣を拾い後退する。


「ガイト君、君は彼女を! 」

「はい! 」


 言われるがままにディーネの元へと駆け寄ると上着を破き包帯代わりに出血部に巻きつけると強く押さえつける。ディーネが苦痛に顔を歪めた。


「しっかりしろ、ディーネ」

「……ガイ……ト? ……どうして? 」

「活躍を一目見たくてさ、ついてきたんだ」


 唇を噛み締める、意識はあるのだけれど出血が止まらなかった。


「……ごめんね……私には出来なかった……私はいつもこうで……ガイトのためにってやったことが……いつもガイトを苦しめる……でもね……大丈夫だから、ガイトの幸せは……すぐそこに……」

「おいディーネ、ディーネ! 」


 返事がない。未だ出血が止まらずに意識まで無くなった、相当マズい状況だ。こういうときはもっと大本を止めるんだったか……ウォルバーストさんお願いします。

 更に上着を破ると肩に巻き付け結ぶと結び目に剣の柄を入れ回す。すると僅かに出血が治まるも完全には止まらない。

 やり方がマズいのか? クソ、もっと真面目にに講義を受けていれば……悔やんでも仕方がない、オレに出来ることを考えろ……オレに出来ることを。


「待ってろディーネ、すぐ倒して病院まで運んでやる。だからあと少し頑張ってくれ」


 ヘルソルジャーが落とした剣の位置を確認する。結局オレには剣しかなかった、ならば最速で倒して最速でディーネを病院に運ぶ!


 「うあああああああああああああああああああああああああ! 」


 オレが剣から手を放して無効化が切れるのを確認するや否やヘルソルジャーがオレ目掛けて闇のソウルを放つ。

 ……フウト、頼む。


 「『インバリード』」


 改めてポケットに入れておいたフウトのクリスタルを光らせるとヘルソルジャーが落とした剣目掛けて走り出す。


 「流石だよ、ガイト君! 」


 その言葉と共にキィンと金属音が響き渡る。恐らくアローさんが剣を弾いたのだろう、と推測しながら先程走る。

 ……あった。


「え」


 剣の全容が視界に入った瞬間、視線が剣に釘付けになった。

 その剣は見たことがあった。忘れるはずがない、見間違えるはずもない、あの日、あの人が持っていた黄金の剣だった。

 ……なんてこの剣がここに?

 その疑問の答えは一つしか浮かばなかった、そしてその答えはディーネの不可解な行動とも繋がる。


「まさか……」


 呟くと同時にアローさんに吹き飛ばされた。ヘルソルジャーが顔を上げる。その顔はヘルソルジャーにより凶悪になっているもあの人の面影があった。

 ……なんで、こんなことになっているんだ。あの人はサタンを封印するために死んだはずじゃ……いやそんなことはどうでもいい。今はディーネのために一刻も早く倒さなくては!


 勢いよく駆け出した次の瞬間、奇妙なことにヘルソルジャーの剣が禍々しいオーラを纏った。


「ガイト君、どうして無効化の解除を」

「いえ違います、無効化が効かないんです。彼女は正真正銘の光の剣士だったのですから」

「なんだって? でも今までは……そうか、もしかして今まではヘルソルジャーになっても尚抗っていたのがヘルソルジャーの力に飲まれ今では逆に利用されてしまったのか」

「ディーネとあの人は似ているのでかつての自分を重ねていたのかもしれません」

「ああああああああああああああああああああ」


 ヘルソルジャーの剣のオーラが大きくなる。それに対してオレ達も何も用意をしていなかった訳じゃない、アローさんは既に剣に大きな風を纏わせていた。しかし残念ながら実質二つのソウルを組み合わせた魔神の方がオーラには適いそうにない。


「ガイト君、すまない彼女を連れて逃げてくれ」


 彼もそう考えたのかそう言う。確かにそれも不可能じゃない、でもそれだとアローさんまで犠牲になってしまう。そしてオレにはこの状況を切り抜けることができるであろう力があった。それを使わずしてアローさんを見捨てると言う選択肢はオレにはない。


「いえ、二人で戦いましょう、相手が二つのソウルを合わせるのならこっちは三つを合わせましょう」

「三つってどういう……? 」

「こういうことです」


 口にしながら光のソウルに闇のソウルを混ぜて巨大なエメラルドグリーンの剣を作り上げる。


「ガイト君、君って人はどこまで……」

「知られるとややこしくなるんであまり見せたくはなかったのですが、状況が状況なので……来ます」

「了解! 」

「「はあああああ! 」」


 ヘルソルジャーが剣を振り禍々しい斬撃をこちらに飛ばすのに合わせて剣を振る、するとオレとアローさんのソウルは一つとなり強力な黄金の斬撃としてヘルソルジャーへと向かって行く。


 やがて二つがぶつかりドオオオオン! と大きな音とともに洞窟が揺れる。オレ達の攻撃はヘルソルジャーの攻撃で一瞬止まるも次の瞬間には攻撃を打ち消してヘルソルジャーを包み込んだ。


「ガイト君、今だ! 」


 ヘルソルジャー目掛けて走る。そして光のソウルを纏った剣で彼女を突き刺した。

 やはり、彼女はあの人だった。記憶を見て確信する。でも、そんなことは今はどうでもよかった。


「アローさん、彼女を頼みます。オレはディーネを……」

「ダメだガイト君、マリエッタからの報告に君が今使った二つのソウルの合体は強力だがソウルの消費が激しいとあった。今から光の翼で病院まで飛ぶとしても途中で翼が消えて墜落(ついらく)する恐れがある、そうなったら2人共」


 アローさんの言っていることは的を得ている。以前オレはソウルを合わせた後に即ソウルが切れて大ピンチになった。今回もそうならないという保証はないしそうなった場合はオレも死ぬ。でも上手くいけばディーネは助かる。彼女が助かる見込みはそれしかない。それならば、答えは一つしかない。


「それでもオレは行きます」

「……分かった」


 アローさんはそう言うと剣を上空に掲げた。瞬間、剣から放たれた嵐が洞窟の天井を切り裂き青空が姿を現す。


「行くんだ、ガイト君。彼女は任せる……頼んだよ」

「はい、ありがとうございます」


 ディーネを抱え光の翼で空へ羽ばたく。オレは光の剣士としては(まが)い物かもしれないけれど光のソウルを使える、それならばオレ自身が光になろう。そうして一秒でも速くディーネを病院に届けるんだ。

 そう自分に言い聞かせると、ありったけの力を振り絞り病院を目指した。

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