「お伽話」
数十分後空の旅の末に騎士団本部に辿り着く、人目を避けて着地をすると入口目掛けて歩き出す。ディーネの向かった先は忘れ物したとでもいえば教えてくれるだろう、そんな気持ちで門を潜ろうとした時だった。
「ガイト君? 」
アローさんだった。オレが学生なのを知る人物が早速現れマズいと思ってももう遅い、開き直って先手を打とうと口を開く。
「アローさん、奇遇ですね。ちょっとディーネが忘れ物をしてしまったみたいで学園に許可を取ってこちらに場所を尋ねに来たところなのですよ、今、任務の帰りですか? 」
「うん、今終わった所さ。その報告に来た。この前はすまなかったね」
……どうやら仮病で欠席した件は上手く誤魔化せたみたいだ。それにしてもこの前って言うと代表戦か、今となってはどうでも良い事だ。それよりも今はこのまま話題を変えてオレがここにいる疑問を再び色々と詮索されないように押し切らせてもらおう。
「良いですよ、そうだアローさんは何か聞いてませんか? ディーネの任務について」
「ボクは聞いてないな、もしかして直接届けるつもりなのかい? 」
「はい、飛んで行けば山も曲がり道も関係なしにスイスイといけるので」
「分かった、それならここで待っていて欲しい。ボクが聞いてくるよ」
そう言うとアローさんはサッと受付へと歩いていった。
〜〜
入口の柱に腰掛け五分程時間を潰しているとアローさんが地図を片手に戻って来た。
「お待たせ、彼女が向かったのはここだ」
彼が指さした場所は何の因縁かサタン城よりも更に奥の場所だった。
「何でこんな場所に」
「サタン城は前の総司令の命令で立ち入り禁止になっていたからね、そこから更に奥の道も必然的に立ち入り禁止になっていたから今回三つの隊と彼女で偵察へ向かった、ということらしいよ」
「ディーネも戦力として加算されてますねそれ……」
「でも偵察という名目で三つの隊、十二人というのは割と多い方だよ」
アローさんがオレの不安を和らげるように付け加える。確かに十二人も先鋭がいれば安全かもしれない。それでも……
「それでも行くのかい? 」
オレのことを見透かしたように尋ねる。マリエッタの言葉が引っかかっていたので勢いよく首を縦に振る。
「そっか、それならボクも行っていいかな? 」
「はい? 」
耳を疑う。
……アローさんも来るだなんて一体全体どうしてだ? まさかアローさんディーネのことが……思い起こせばやけに物知り顔だったりしたな……
突如何故かどす黒い感情に襲われる。でも、彼が頼りになるのは事実だ。オレは悟られまいとその感情を押し込め精一杯の笑みを浮かべるように意識して頬を緩めると
「是非、アローさんがいると心強いです」
と答えた。
〜〜
アローさんを抱えて飛ぶこと数分、何故か黙っていたアローさんが口を開く。
「ガイト君、ちょっとお伽話を良いかな? 」
お伽話? 理由は分からないけれど特に拒む理由もない。
「どうぞ」
「ありがとう、ある所に兄妹がいたんだ。兄は社交的で運動神経が良かった、特に剣の腕は……うん、凄かったと思う。それもあったら兄は剣の道を歩むべく学園へと向かった。そんな兄とは対照的に妹はいつも子どもと遊ぶのが好きな大人しい子だった。でも両親は妹にも剣の道を勧めた、兄に剣の才能があるのなら妹にもあると思ったのだろう。彼女はそれを断らなかった、正確には断れなかったんだと思う。結果的に両親の目は正しかった。妹は兄を超えたんだ……でもね、ガイト君、幾ら剣の才能があっても彼女は子ども達と遊ぶのが好きな女の子だったんだよ」
「それは兄としても複雑でしょうね」
「ボクは彼女を見た時その話を思い出してね、直感的に分かったんだ、彼女はそのお伽話の女性のように剣を持って戦うのは好きじゃないと」
「それでその子はどうなったんですか? 」
「忘れちゃったな」
「……そういうことってありますよね」
お伽話の一部分しか覚えていないというのはよくあることだ。でも、同じ寮で見て来たオレならアローさんの見立てが間違っていると分かる。ディーネは弱音一つ吐かずにオレの練習に毎晩付き合ってくれた。それは剣士に対して並外れた情熱がないと出来ないものだろう。
そう伝えようとしたけれど、今はそれで言い合いをしている場合ではない、と堪える。それに、万が一、アローさんが正しかった場合は……それを考えるのが怖かった。だから再びお伽話からディーネの話題に戻すことをしないで口を閉ざす。そんなオレに対して彼は何も言わなかった。




