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「教育者の過ち」

「貴方達、これは一体どういうことかしら? 」


先生がオレ達に視線を向けて尋ねる。まず口を開いたのはバーンだった。


「これはこれは先生、いやね。何やらこの二人に因縁をつけられましてね。だよなお前ら」


バーンに促され二人が慌てて肯定の言葉を述べる。よくもまあそんな嘘を吐ける者だと感心するもまずい状況だ、何故なら目の前で弁解をしているのは成績優秀者のバーンでその相手は目の上のたんこぶでもあるオレなのだ。例え嘘でもこの人は信じる、そんな自信を彼から感じる。


「貴方達の言い分は良く分かりました、もう行ってもよろしいでしょう」

「ありがとうございます」


勝ち誇ったようにバーンが口にする。予想通り過ぎて拍手でもしたくなるような対応だ。


「さて、怪我はなさそうね。次はディーネさん、貴方の言い分を聞きましょう」


先生は立ち去るバーンを見送るとそう口にする。


「……それは」

「大丈夫よ、全部話して」


先生が優しく述べる。それに従って彼女はこれまでのことを語り始めた。

きっかけはあのオレが見かけた朝だったらしい、バーンにオレを一回戦負けにさせろ。さもなければ寮からオレの剣を盗み出すと脅したのだ。他の人ならいざ知らず経済的にも心証的にも良くないオレが剣を無くしたとなれば即刻退学もあり得る。そこでディーネは彼に従いオレを襲うことにした。しかし、結果は失敗。作戦通りバーンはオレが食堂で仲間の長髪に足止めされている間に鍵をこじ開け剣を盗んだ。そしてその剣をひとまず中庭に隠そうとしているのを知っていたのでディーネは剣を盗み取った、それがここまでの経緯らしい。


「それでそこをガイトさんが助けに入った……というわけね」

「はい、信じてもらえるかは分かりませんが」

「おやおや、先生は随分と信頼されてないみたいねえ」


陽気な声がしたのでその方向を見ると寮長が立っていた。


「寮長、どうしてここに? いやそれならそもそも何故先生がここに」

「先生もこの寮に泊まっているのさ」

「それに頼まれたのよ今日アローさんに何かあるかもしれないって」

「とそれはともかく……この状況、私はガイト君達を信じるけれど先生はどうするのかな〜? 」

「それは……」

「先生、これは貴方が成績上位者を甘やかして下位者に厳しく当たった結果よ」

「それは……」


寮長の厳しい口調に先生が言葉に詰まる。


「ごめんなさい、私が間違っていました」


先生が突如そう口にする、オレはディーネと顔を見合わせた。


「先生、顔を上げてください」

「……はい、先生には酷いことはされてませんから」

「だとさ、良かったね先生、良い生徒達に恵まれて、明日も早いんでしょう? もう休みなさい」


寮長が口にするとその言葉に従って彼女が踵を返して女子寮へと向かっていく。


「ごめんね、あの子新任でかれこれ四年の付き合い方なんだけど不器用な娘で」


彼女の背をみて寮長が言う。


「どういう意味ですか? 」

「実はね、あの娘にはね、三つ上の兵士のお兄さんがいたの、そのお兄さんソウルは弱いけれど剣技が優れたガイト君みたいな人だったのだけど、あの娘が三年生の時に任務中に命を落としてしまってね。だから、ガイト君を見てると放って置かなかったんだと思うの。調子に乗ってお兄さんみたいになるのが怖くてあの娘なりに必死だったんだと思う」

「そんなことが」


驚いた。あの先生にそんな過去があったなんて……


「……でも、ガイトは違う」


ディーネが言う。


「ガイトは私のことを誘ってくれたしソウルがないのを悩んでた」


ディーネに言われて頬が熱くなるのを感じる、確かにオレはそのようなことはないかもしれない。でも、そうならないために先生がいてくれるのならそれもありがたいことかと思った。


「じゃあ、そう言うわけだからお邪魔者はここで退場といこうかな〜あ、変なことはしちゃダメよ」


冗談交じりに立ち去る寮長を見送りディーネと二人きりになる。


「……ごめんねガイト、私がガイトに相談していればガイトを傷つけなくて済んだかもしれないのに」

「いや、それはオレも同じだよ。オレもディーネを信じ切ることが出来なかった。それにディーネが今度は標的にされていたかもしれない。寮長も味方になってくれたし良かったんだよこれで」


ふわりと夜風に吹かれ彼女の月のような髪が暗闇の中揺れる。


「明日、頑張ろう。決勝まで行ってバーン達を倒そう」

「……うん」


月を覆っていた雲が千切れ再び月明かりがオレ達を照らす中オレ達は誓いあった。


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