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「関係ない」

「……ガイト、今日は私が先生だから」


 三人で朝食を取っているとふとディーネがそんなことを言う。恐らく今日は先生の代わりにオレの補習を担当してくれるということなのだろう。


「本当は私も見て上げようと思ったのだけど、意外と忙しくてね。メイソン先生もそうみたいよ」


 とマリエッタ。


「そういうことならディーネ、頼むぞ。メイソン先生ばかりかマリエッタよりも優しそうだ」


 と冗談交じりで言うと


「あんなこと言ってるけど、変に甘くしたら駄目よ」


 とディーネの手を握りながらマリエッタが力強く言う。

 ……余計なことを。

 と恨めかしく思うオレを横目にディーネは頷いてしまった。


 ~~

 それから許可を取った練習場所に移動して飛ぶこと一時間、オレはディーネに見られながらメイソン先生に教わった通りに建物の間を飛び回った。奇妙なことにその間彼女は何も言ってこなかった。もしかして気を遣っているのか? と堪らずに口を開く。


「ディーネ、マズいとこあったら教えてくれ。マリエッタの言う通り甘くされたら将来困るのはオレなんだ」

「……その逆、私より動きが良くて何も言うことがない」

「へ? 」

「……やっぱりガイトは凄い」


 オレはただ先生に言われたとおりにやっただけなのに凄いと言われても……そうか!


「多分、オレは付きっきりで指導を受けていたからじゃないか? ほら、生徒何十人もいると一人辺りを見ることが出来る時間も減るだろうし」

「……そう、なのかな? 」

「多分そうだよ」

「……そっか、じゃあそろそろ時間だから次の訓練をしよう」


 ……次の訓練?

 疑問に思っていると彼女がオレにタオルを差し出す。


「……それを着けて目を隠して、目が見えない状態で移動する」

「本気か? 」


 彼女は頷く、どうやら冗談ではなさそうだ。言われるがままに巻き付けると視界が真っ暗になり何も見えなくなる。


「……初めは私が手を繋いで移動する。でも、段々……気配が感じ取れるようになって慣れてくるから」

「頼む」


 ……落ちたら大惨事だからな、それにしても先生もよくこんな危険なのを大人数の面倒を見切れたものだ。

 と感心しているとディーネの温かい感触が身体中に広がると同時に身体が引っ張られた。どうやら今は飛んでいるようだ、そしてダン、と着地。それから手を引かれるがままに辺りをひたすら走り回って立ち止まってどこかのドアを叩くと同時に開いて中へ入って……


「待てディーネ、ドアを叩く音がしたぞ、何をしているんだ」

「……秘密、でももう、取ってもいいよ」


 一体何なんだ。

 言われるがままにタオルを外す。するとそこには孤児院で孤児院の皆の姿があった。


「久しぶりね、ガイト」

「お久しぶりです……これはどういうことなんだ」

「ガイト兄ちゃんが来てくれないからディーネ姉ちゃんに頼んだんだよ」

「……ごめん、ガイトの気持ちは分かるけどこのまま皆と会わないままじゃダメだと思って」

「そんなこと言われてもオレのせいでパウリーは……今度は皆が危険に晒されるかも知れないんだぞ」

「ガイト……」


 苛立ちからか強い口調になったオレを窘めるようにメアリーさんがオレの名を呼ぶ。


「パウリーのことはとても残念で今でも胸が痛むわ、それに貴方の親が誰かってことも私達は知った。それでもこの子達は会いたいって言ったの。それに騎士団の人が常に見張っていてくれる。貴方は一人で背負わなくて良いのよ」

「そうだよ、誰が親とか関係ない。兄ちゃんは優しい兄ちゃんだよ」


 ジェシーが言う。彼の言葉を聞いてメアリーさんに言われ肩の荷が下りた気がした。確かにオレは一人で考え過ぎていたのかもしれない。


「ディーネ、悪かったな」

「……私の方こそ内緒にしていてごめん」

「いや、ディーネがいなかったらずっと気まずいままだった、ありがとう」

「さあさあ、食べましょう、今日はガイトが帰って来るって聞いて奮発したんだから」


 メアリーさんの言葉に子供達が歓声を上げる。


「ほら行こうぜガイト兄ちゃん」

「ディーネお姉さんも行こう」


 オレ達の身体中を引っ張り食堂へと向かう子供達を見て帰って来たんだということを実感した。

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