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「裏切りの理由」

寮長のマッサージのおかげですっかりと回復したオレは寮に戻り灯りを点けずに月明かりが差し込むおかげでうっすらとグレーに光る天井を眺めていた。


「ディーネにも何か事情がある……か」


寮長はそう口にした。言われてみると確かにオレはあれ以降ディーネと顔を合わせてはいないからバーン達とオレのことを笑っているだろうとだけ考えていたので一人でいるのは愚かどんな顔をしているのかなんて考えてもいなかった。


「でもそんな状況になる事情ってどんなのだ? 」


自問自答するも答えは見つからない。一人部屋でましてやもう深夜だろうどんなに耳が良い人物が隣人だとしても聞いているはずがないのだ。


「……せ……ナ」


ふと、人間の声が聞こえた気がした。

……気のせいだ、そうに決まってる。疲れているんだ。流石に明日も一vs三になるとしたらこんなに長く起きていられない。

目を瞑り頭を空にしようと試みると


「追え! あいつを逃すな! 」


とより鮮明に声が聞こえてくるのだった。

……気のせいじゃない、中庭か。

物騒な単語が聞こえ慌ててベランダへと向かうと中庭を見下ろすとそこには月明かりに照らされた赤髪含む三人の男性が金髪の女性を追いかけているのが目に入った。恐らく追っているのはバーンで追われているのはディーネだ。

……何をやっているんだ?

目を凝らすとディーネらしき人影が何かを大事そうに抱えている、それは細長いもので先端がキラリと光った。模造剣だった。

……そういうことか、ディーネはオレを負かさないと模造剣を奪うとでも脅されたのだろう。模造剣は特殊な加工がされているため高価なものであるらしいし名前も刻まれている。それを初日から無くしたとなると経済的にも今後の学園生活を考えても悪影響だ。

合点が行き彼らに背を向ける。女子寮まで遥かに近付いており彼女の逃走は成功するかに思えたからだ。

しかし、そうはならなかった。


「……つっ! 」


彼女は何かにつまづいたのだろうか? 盛大に転んでしまった。このままでは追いつかれてしまう。


「くそ! 」


思わずベランダの柵に足をかけたその時だった。

……あの裏切者を助けるのか?

オレの悪の心というべきだろうか? 冷たい声が響き渡る。

しかし、考えてみればその通りだ。彼女は自分のために剣を守りオレを裏切る道を選んだ、それが失敗して襲われているのを何もオレが助ける必要はない。


「オラって覚悟しろよこの女! 」


三人が今にも暴力を振るわんとばかりに彼女に迫る。だというのに彼女は剣を守るためかそこから動こうとはせず剣を抱えてうずくまった。

……何をしているんだ、もう剣を守るとかいう話じゃないのに、バレた以上剣を投げて全力で走れば逃げ切れたかもしれないのに。

彼女の行動に腹を立て柵を叩く。

……このまま見てるだけでいいだろ、特等席じゃないか。

再び声が聞こえる、確かに気付かれてないためこのまま見下ろす事はできる、裏切り者に対して助ける義理もない。

……でも、あの人は助けてくれた。

脳裏にあの日の記憶が蘇る。忘れもしない村がキマイラに襲われたあの日、あの女性剣士はオレを助けてくれた。別に助ける義理もないのに。村は壊滅していたんだ、一人生き残るのも全滅するのも変わらないはずなのに。

……だから、あの人に憧れているなら行かなくては!


「やめろおおおおおお! 」


叫びながら柵を飛び越え重力に身を任せる。間抜けなことにそこで剣を忘れたことに気が付くが構うこともない。


「なにっ!? 」

「最初からこれが狙いか、くそっ! 」


狙い通りこちらに気が付いた三人がディーネに向かうのを止め回れ右をして剣を抜いてこちらに向かってくる。


「邪魔だあ! 」

「お前がな」


走りながらの長髪男の右上からの振りを右側にターンして躱す。


「くらえ! 」


デカい男の左上の攻撃を立ち止まって空振りさせて隙が生まれたので再び走り出す。


「調子に乗るな」


剣を横一直線に構えバーンがこちらに向かってくる。

……横か!

構え、そして力強く踏みしめた左足からそう判断しオレは地面を蹴る。

狙い的中、バーンの横一線をゆうにオレは飛び越えた。


「ディーネ! 」

「……ガイト、ごめん」


オレの姿を見てディーネの目に涙が浮かぶ。


「大丈夫だ、それより明日返すから剣を貸してくれ。後はオレがなんとかする」

「……うん」


ディーネが両手で差し出した剣を受け取ると三人に向けて構える。そこで剣に刻まれた文字が目に飛び込んだ。

『ガイト・ウセウズ』

……え? なんでオレの名前が?


「最初からこれが狙いか」


脳裏に先ほど三人の誰かが吐き捨てた言葉が浮かび合点がいく。更に彼女の腰のベルトにはしっかりと一本の剣が収められていた。

もしかして、ディーネはオレの剣を守ってくれたのか? 盗まれることも知っていて、それで……


「はっ、お前がディーネを脅してオレを一回戦負けさせないとオレの剣を盗むって脅したことは分かっているさ」


たった今頭に浮かんだ仮説を自信満々に述べカマをかける。


「……くそっ、お見通しだったのか」


バーンが悔しさのあまり地面を蹴るのをみて確信した。ディーネはオレの剣を守ってくれていたのだ!


「ディーネ、加勢頼めるか? 」

「……ガイトが許してくれるなら」

「許すに決まってるだろ」


それを聞いてディーネが剣を抜く。


「くそ、さっきは遅れを取ったがこっちは三人もいるんだ。覚悟しろよ! 」


バーンが叫んだ時だった。


「待ちなさい! 」


彼よりも声の大きい制止を促す声が響く、声の主は先生だった。

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