「悪魔」
雨が容赦なく身体を撃つ中ディーネを抱えソウルを使い病院の壁から出した岩を階段代わりに庭へと着地する。
「間一髪って所ね」
「……病院で襲撃なんて」
「こうなってしまった以上は仕方ないわ、ここで迎え撃つ。私には説明通りクリスタルがあるから、この剣を使って」
ディーネへと剣を手渡す。
「貴方がいると心強いわ。戦うのは嫌だというなら帰っても構わないけど」
「……帰らない、マリエッタと戦う」
彼女はそう言うと剣を受け取るとソウルで剣に炎を灯す。有難いことにその炎は雨をもろともせずに燃え続けている。
「助かるわ、それじゃあ。今ので仕留めたと思って逃げられないように……その必要はなさそうね」
吹き飛ばされた病室、その入り口から他の部屋のランプに照らされながらこちらを見下ろしている視線に気が付き睨み返す。
「やはり疑わしきはと思い仕留めようとしたのだが、見透かされていたか……良い目をするなマリエッタ」
「ええ、お陰様で」
ニッコリと微笑んで見せながら攻撃を仕掛けようと距離を見定める。そして今こそ攻撃をと思った瞬間、彼は宙に舞った。
……流石総司令、それなら着地したところを狙わせてもらうわ!
彼を凝視し着地点を推測、その地点に岩を出現させ身体を貫こうとしたその時だった。彼が剣を振る、途端に風邪を纏った斬撃がこちらへと向かってきた。総司令のソウルはウィンディ。それなら……
「……任せて、マリエッタは攻撃に集中して」
言葉にする前にディーネが目の前に現れ炎を纏った剣を振る、たちまち彼の攻撃は消滅をする。
彼女の望み通りに、着地地点の予測に専念した私はその甲斐があって彼の足元から岩を出した。
「貰った! 」
勝利を確信したその瞬間、彼は何を考えたのか地面に向けて剣を振る。瞬間、剣に纏われていた風により彼の身体は浮かび上がると悠々と私の岩を蹴りながら着地をした。
「そちらの子もどこかで見た顔だと思ったら剣士だったか。しかし、マリエッタ、まだ甘いな。もう少し待てば確実に仕留められたものを……」
ヘルソルジャーと分かっても尚そのような口を聞く彼に無性に腹が立った。
「いつまでも上官ぶるな、このヘルソルジャーが! ヘルソルジャーなのに皆を騙して何年も騎士団のトップにいたなんてサタン以上の悪魔よ! 」
「そうだな、死にゆくものには上も下もないな。君達は知り過ぎた、騒ぎを聞きつけて人が集まるまで……一分というところか。それまでに君達の口を封じさせてもらおう」
「うるさい! 」
彼の立っている場所の真下から攻撃を仕掛ける、でも彼はそれを表情一つ変えずに避けた。
「クソ、クソ! 」
次々と攻撃を仕掛ける、彼はそれを今までに私が出現させた岩をも足場に利用して避けていく。
「ダメだな、そうすぐ感情に流されて攻撃を仕掛けては。これだけ足場を用意して何がしたいんだ」
「この……」
「……マリエッタ、落ち着いて」
「うるさい! 貴方はあいつを一撃で消せるくらいの力を貯めておきなさい」
ディーネを後方に突き飛ばす。彼女は「キャッ」と尻餅をついたようだった。
「遂に仲間割れか、そこまで来ると滑稽だなマリエッタ、だがそれはさせんぞ『エアスラッシュ』」
岩を避けながら総司令のが攻撃を放つ。私のソウルじゃ防ぐことはできない。だからディーネを動かそうという魂胆なのだろう。悔しいけれどその通り、でも、岩で姿を隠す事が出来る。目の前に巨大な岩を出現させると真横に飛ぶ。瞬間、岩は斬れるも私は攻撃を躱すことが出来た。
「……『コンプレスプロージョン』準備、出来た」
そうこうしているうちにディーネが言う。彼女の剣の先端には大きな火球が出来ていた。
「なるほど、そこの娘、そのような芸当も出来たのか。だが、どうする? その攻撃、外せばこの病院に被害が及ぶぞ」
彼が忠告するもディーネは気にせずに剣を振る。
「なに!? 貴様、病院がどうなっても良いというのか」
球体の軌道から外れた彼が吐き捨てるように言う。
「良い訳ないでしょ、流石にこの状況でいつまでも冷静さを欠いている程、私も愚かではないわ」
「まさか」
「ええ、最初の攻撃以外は全て計算、貴方を病院とは正反対に移動するように誘導して、かつディーネのソウルの爆発の衝撃を和らげるために岩を配置していたってわけ。そして……『サモンロック』」
彼が避けたのを見て火球の軌道上に岩を出現させる。
「『コンプレスプロージョン』は見た所、衝撃で起爆するのでしょ? それならこれで……」
「まさかきさ……」
突如目の前に現れた岩にディーネのソウルが触れる。瞬間、ドカァン! と大きな爆発が起こり彼はその中に飲み込まれた。




