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「張り巡らされた罠」

 翌日、私は先日の情報を手土産に総司令室を訪れる。


「マリエッタ、君の報告は本当か? 」

「ええ、本当です。残るサタンの魂は石に封印されています。匿名希望ですが当時を知るものから証言がありました」

「なるほど、俄かには信じ難いが……」


 総司令が(あご)に手を当てる。私だって寮長の証言でなければ信じてはいなかったかもしれない。ただ、今回の訪問の目的はこうしてこの話の真偽を問うものではない、獲物が張り巡らされた糸に引っかかるのを待つ蜘蛛のようにじっくりと総司令の次の言葉を待つ。


「それで、その石は今どこに? 」


 ……来た!

 待ちに待った質問に気を引き締めなおすとそれを悟られないようにキッパリと答える。


「それをお答えするには、こちらの条件を飲んでいただかないとお答えできません」

「ほう」


 総司令が眉を(ひそ)める。

 ……正直、石の場所なんて寮長から聞き出せなかったため知らない。目的はガイトとの面会なのだから寮長の最後の一つというという情報だけ伏せて伝え、後は適当にでっち上げてしまえばいい。仮にこの条件が飲まれずに有無を言わさずに投獄(とうごく)とかクビになるのならそれで構わない。

 数年前の優等生だったころには考え付かなかったであろう結論に我ながら(あき)れていると彼が口を開く。


「それで、その条件とは? 」

「光の剣士との会見です」

「……なるほど」


 再び彼は顎に手を当てると一人で何かを考えた後に私を見る。


「それはできない、実は……」


 彼はその後にとんでもないことを口にした。


「実は昨日、脱獄されたのだ」

「だ、脱獄……ですか」

「そうだ、何を思ったかな。それともう一つ、石のありかはこちらでも見当がついている」

「え? 」


 ……もう訳が分からない。

 先程までの勇ましさなどどこ吹く風、ただただ私は目をぱちぱちさせ次の言葉を待つ。


「昨夜、学園長から手紙が届いてな。そこに記されていた。どうやら展示されている光の剣士の模造剣の中に石を組み込んだらしい。それとこの手紙には最後の一つとあるが、これは意図的に伏せていたのか? 」

「そ、そこまで知っていて何故私を招き入れたのですか」

「君の騎士団への忠誠(ちゅうせい)を試したのだ」


 そんな、私はこの部屋に入った時から彼の(てのひら)の上だった……

 悔しさに歯を食いしばり最期の時を待つ。すると彼はニヤリと笑って口にする。


「合格だマリエッタ。君の野心が光の剣士との会見位なら今回のことには目を瞑ろう。この情報も君のお陰で手に入れたようなものだしな。それともう一つ、君を明日から博物館の護衛に回す。場所はノーブル博物館だ」

「ノーブル博物館って」

「そうだ、光の剣士の模造剣が展示されている場所だ、君の隊のメンバーから君が死に場所を探しているようで見ていられないなんて意見もあったので丁度良いだろう、やってくれるな? 」

「はい! 」


 何か分からないけれど、これで私はサタンの魂が封じられている模造剣の近くにいることが出来た。そして脱獄したというのが本当なら彼も何かを掴んだのだろう。もしかしたら会えるかもしれない。期待に胸を膨らませながら私ははっきりと答えた。

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