「反撃の狼煙」
修学旅行から数ヶ月が経過した。フウトが消えた痛みは時間が解決してくれた……気がする。
「ガイト君、ちょっと良いかしら? 」
冬を迎えたある日、マリエッタに呼び止められる。
「どうした? 」
「今から学園長室に来てもらえないかしら」
「学園長室? 」
あまりに変わった誘いに思わず聞き返す。
「別に構わないぞ、でもどうしてだ。何か盗みたいものでもあるのか? 」
「忍び込むわけじゃないわよ……とにかく決まりね、じゃあ、行きましょう」
言われるがまま彼女の後をついて行った。
〜〜
「失礼します」
挨拶をして学園長室に入る、するとそこには学園長の他にどういうわけか以前出会った騎士団の総司令が待っていた。
「総司令、どうしてここに」
「久しぶりだな光の剣士、今日は頼みがあって学園長に無理言って来て貰ったのだ」
……総司令が人を集めたのか、でも何のために?
「それでは説明させて頂こう、まずは光の剣士、ガイト君に紹介したい人がいる。マリエッタ」
「はい」
総司令に言われてマリエッタが声を上げてオレと向き合う形になる。
……マリエッタを紹介ってマリエッタは知ってるぞ、オレをからかっているのか?
状況が理解できないオレに彼女は続ける。
「私は騎士団所属のマリエッタ、宜しくガイト君」
「……ああ、宜しく」
マリエッタまで改まってそんなことを言う。どうやらからかっているのは総司令だけではないらしい、マリエッタが騎士団所属なんて誰も知って……騎士団?
「マリエッタが騎士団ってどういうことですか? 」
「言葉通りの意味だよ、彼女には君の護衛とサタン軍が仕掛けて来た場合の剣としてここに留学生として潜入して貰っていたんだ」
言われてみるとやたらオレと一緒にいたがったりと心当たりはあった、でもそれが護衛のためとかそういう風には考えていなかった。
「総司令の説明通りよ、今まで騙していてごめんなさいね」
「はあ……」
あれだけ言い合いしたり素直になれなかったりしたマリエッタが年上だという事実が未だに受け入れられず間の抜けた返事になる。
「それでは自己紹介も済んだところで現状の説明をしよう、調査の結果、君達が遭遇した魔獣、キマイラは以前よりあの付近に生息していたという形跡は見当たらなかった、つまりあの日あの場所に送り込まれたということになる」
「ガイト君を狙ったと? 」
学園長が尋ねると彼は頷く。
「その可能性は極めて高い、ヘルソルジャーどもはどういう手を使ったのかあの日光の剣士が街にいることを突き止めたのだ。流石に誘拐までは予想外だっただろうが……あのままキマイラに襲撃されていたら街は大変なことになっていただろう、よくやってくれたよ君達は」
「ありがとうございます」
マリエッタが頭を下げる。
「その相手は誰だか分かりましたか? 」
「分からない、だが恐らく犯人は空を歩くというヘルソルジャーである可能性が高い。だが聞いての通り我々はいつも後手後手だ、だが我々には一つ武器がある」
総司令はそう言うと飾られている指輪に視線を移す。
「あの指輪がある限り、向こうは我々の存在を無視することは出来ない、そこでだ、ここからは我々が攻撃をさせて貰う」
「攻撃ですか? 」
「ああ、そしてここからが大切なのだが光の剣士、そしてマリエッタ、二人には結婚をしてもらいたいのだ」
「け、結婚!? オレとマリエッタが!? 」
オレとマリエッタは顔を見合わせた。
「勿論、偽装だ、あくまで任務だからな」
「でも総司令、私とガイトの結婚とヘルソルジャーの何の関係が? 」
「結婚指輪にその指輪を使用するのだよ、そうすれば奴らも無視はできぬまい」
なるほど、指輪を餌におびき寄せるのか。でも……
「「反対です」」
声を上げる。
「どうしてかね」
「学園の皆を騙すことになるのは気が引けるからです」
「ガイトと同意見です」
「なるほど、それもそうだ。ガイト君には残り一年の学生生活もある、ここで信頼関係を壊すのも忍びないだろう」
総司令が口を閉じる。
……元々宣伝をしたところでヘルソルジャーが来るとは限らないのだ、この策は拒否しておくに限る。
そう考えていると再び彼が口を開く。
「それならば、騎士団を主導してこの街以外で宣伝をする、というのはどうかね? 職員も関係者もこの街に住んでいるものが多い、学園の者が知ることは無いと思うが……」
「それなら……」
「決まりだ、決行は一ヶ月後、作戦の成功と諸君の健闘を祈る」
総司令が宣言した直後、ガタン、と廊下から何やら凄い音がした。
「失礼」
慌てて学園長が廊下を確認するも首を横に振る。
「気のせいだろう、学園の廊下に忍び込もうとする豪胆なヘルソルジャー等存在しまい、とにかくこれで決まりだ。改めて作戦の成功と諸君の健闘を祈る」
再び総司令がオレ達の活躍を祈って会はお開きとなった。




