「キマイラ消滅」
目の前の竜巻は数分続いた、その間幾たびものキマイラの雄叫びが響き渡る、その度にオレは早く死んでくれと願いをした。
やがて竜巻は消え、無数の切り傷が付いたキマイラが現れる。おのヘビも首が振られ落ちていたが、そこにフウトはいなかった。恐らく彼は風になったのだろう。
「やったな、フウト」
そこにいるはずの彼に言葉を投げかけ落ちて来たクリスタルを掴む。
……これが遺品かよ。
そう感じた時だった。
うおおおおおおお!
キマイラが目を見開きオレは元気だぞとばかりに叫びを上げる。
「なんで生きてるんだバカ野郎! 死んでおけよ! 」
怒りのあまり叫びを上げる。そしてその怒りがオレにこの状況への打開策を与えてくれた。
……闇のソウルだ、頭がいくつあろうと一度生物に当たれば全てを消し尽くすまで消えない力、あれなら確実に仕留められる。
キマイラを睨む。
……目の前でフウトが殺されたんだ、憎しみなんて十分なほどにある、今ここでフウトの仇を打ってやる!
「うおおおおおおおおおお! 」
憎しみで体を覆い力を込め剣を握る……しかし、何も起こらなかった。
「は、なんでだよ、なんでなんだよ! 」
……剣がダメなのか? 憎しみが足りないのか?
訳がわからなくなりただピカピカと光る剣を見つめるもそれが黒く変わることはない。
「ちくしょおおお」
叫んだその直後、斜め方向から地面がオレ目掛けて岩が向かってくる。先端は尖っていない、オレはその岩に身体を押され途端に宙に投げ出された。
飛ばされた先ではマリエッタが剣を地面に刺しディーネがオレを捕まえようと両手を広げていた、咄嗟のこの状況で何かを出来るわけでもない。落下に任せてディーネの胸に着地をする。
「……ガイト、良かった無事で」
「でもフウトが」
「落ち着きなさい! 私達も見ていたから……でも今は堪えて! 全滅はごめんよ」
「……うん、ガイトまで死んじゃったらフウトが浮かばれない」
「…………悪かった」
……そうだ、今は悲しんでいる場合じゃない、このままでは皆が全滅してしまう。
顔を上げるとディーネと目があった。
……本当にあの人そっくりの顔だ、幾度となく見つめた顔に今更ながら感想を抱く。そして先程闇のソウルが発動しない理由が分かった。
オレはきっと、どこかで、キマイラを前にしたあの時と同じ状況ならあの人が助けに来てくれるかもしれない……なんて考えが心の隅にあったのだ。
……フウトもあの人ももういない、今はオレが戦うしかない。
自分に言い聞かせると立ち上がる。
「ディーネ、いつか約束したよな。ディーネと組めるように強くなるって」
「……うん」
「あれ、ついこの間出来るようになったんだ、それをやる」
「……何をするの? 」
「あいつをオレが足止めするからそこにさっきみたいに打ってくれるだけで良い」
「……それじゃあガイトが」
「オレを信じてくれ」
「分かったわ、何をやるつもりか知らないけど荒野までの誘導はさせて貰うわ。どうせ当たらないならそっち方面で手玉に取ってやるわよ」
「頼む」
そう言うとキマイラの上空へと向かい、マリエッタの誘導を待った。
程なくしてキマイラの足元に岩が出て来る、キマイラはまたか、とばかりに走り出すと誘導されているのも知らずに次々と出てくる岩を避けて荒野へと向かう。
その岩は出鱈目というわけでもなくディーネが遠距離から狙えるように考えられた配置だった。
「やるな、マリエッタ」
賛美の言葉を呟くと急降下する、フウトがヘビを仕留めてくれた、もう恐れるものはない。
うおおおおおおお!
こちらに気付いたキマイラが立ち止まり雄叫びを上げ上空のオレ目掛けて飛び掛かる。
キィン
一頭のキマイラの牙と剣がぶつかり音を奏でる。
「『ルミナイズ』今だ、ディーネ! 」
オレの声に応えるかのように火球が目の前に出現しオレとキマイラは炎に包まれた。
〜〜
「……ガイト? 嘘」
「まさか、最初から助かる算段なんてなかったんじゃ……」
愕然とする二人の背後から肩を叩く。
「……え? 」
「なんで後ろにいるのよ! どういうこと? 」
驚く二人、そうこれこそがオレが身につけた新たな力だった。
「光って掴めないだろ? だからあの直前光になって避けたんだ」
説明を聞いた二人が目をパチパチとさせる。
「どういうことよ」
「説明した通りだ、あの瞬間オレは光みたいに小さくバラバラになってからまた戻ったんだ。これでディーネは心置きなく背後からでも攻撃ができる、だろ? 理論はともかく実際に出来るかは一か八かだったけど」
「……うん」
「信じられないけれど、実際にやり遂げたんだから信じるしかないわね」
二人が言う。
「それで、キマイラは……」
視線を向けるとそこには黒焦げになったキマイラの骨が横たわっていた。
とにかくこれで上手くいった……というわけではない。キマイラを倒したところでフウトが戻ってくるわけではないのだ。
仇が消えオレの中には虚しさだけが残った。




