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「地獄の体験談」

 地獄の雨の中の水泳訓練を行った翌日、修学旅行2日目の日程は当時サタンに支配されたこの街の様子を聞くこととお待ちかねの自由時間だった。幸いなことに外は昨日の雨はなんだったのかと思いたくなるくらいの快晴だ。

 雨天だったら昨日の今日でまたずぶ濡れになりながら空を飛ぶというのはやりたくなかったので正に天の助けというやつだろう。晴天の下、許可は先生にとってあったので早朝のランニングをする。


「さあ出発だ」


 とロビーから外に出ようとして目を疑う。立っている柱こそ違えどいつものようにディーネが立っていたのだ。


「ディーネ、どうしてここに。修学旅行中だぞ? 」

「……剣はないけど、何かするって待ってた」

 すっかりお見通しだったという訳か。

「じゃあ、一緒に走りに行くか」

「……うん」


 二人して早朝のランニングへと出かける。昨日は雨でゆっくりとは見えなかったけれどどこも昔サタンの襲撃を受けしばらく廃墟だったとは思えないほどに綺麗なレンガ造りの街並みが広がっている。


「良い街だな」

「……今はルドラよりも栄えていて、剣士の育成にも力を入れているみたい。修練用の施設みたいなのもあるんだって」

「凄いな」

「……剣を持っている人を見かけても勝負仕掛けちゃダメだよ」

「はは、流石にしないよ。そもそも自由時間にオレは街にいないし」


 オレの考えは見透(みす)かされていたようだ、育成に力を入れているなんて言われちゃ体が(うず)くのも仕方がない。


「じゃあ、代わりにペース上げるからついてこいよ」

「……頑張る」


 彼女の返事を聞くと力を込めて地面を蹴った。


 ~~

 早朝のランニングを終え朝食を済ましホテルの大広間に向かうとそこには他の寮の皆も集まっていた、随分大きな講堂かと思えばそういうことかと合点(がてん)がいき席に着く。そのまましばらく待っていると先生がオレ達の前にやってくる。


「全員揃ったようですね、それでは只今よりオリビアさんに、サタンによる襲撃を受けた当時の出来事をお話しいただきます」


 先生の紹介によって一人の初老の女性がオレ達と向かい合う形に置かれた椅子に腰かける。


「こんにちは、ルドラ学園の皆さま、ご紹介に与りましたオリビエです。本日は私の体験をお話しさせて頂きます」


 その言葉とともに彼女は自身の経験を語り出した。その話によると彼女は、この街にメイドとして働いていたある日突然、サタンの率いるヘルソルジャーとビーストに襲撃されたらしい。その時に足が震えて家の中から逃げ出せずにいた彼女は奇跡的に助かったのだという。数時間後、彼女は駆けつけた剣士によって保護された。だがそこだけでは終わらなかった、今度は避難先の街が襲われたのだ。後にして思えばサタンの城の位置からして剣士の拠点となるであろう街を順番に回っていくのは当然だろうとのことだったが、当時の彼女にはそれが分からなかったという。仲が良かった人の悲鳴、サタンによりヘルソルジャーと変えられた人の目撃と地獄と錯覚したのだという。


「私が生きてこられたのはヘルソルジャーと戦い手を差し伸べて下さった剣士の皆様のお陰です、本当に感謝しています。皆様が剣士として成功することを祈ります」


 という言葉で話は()(くく)られた。

 壮絶な話だ、しかし剣士を(こころざ)すものとしては胸にくる話でもある。それだけに自由時間前にこの話を聞かせるなんて上手いこと考えたものだ、なんて考えたりもした。

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