「強化のヒント」
修学旅行まであと少しとなった日の朝、いつものように目覚めると数分、強化のアイデアを考える。
逆にこうして頭が冴えない状況の方が良いアイデアが浮かぶかもしれないからだ。
目を閉じて神経を集中させアイデアを待つ。
待つ、ひたすら目を閉じて横になりひたすら待つ……
そうすると次第にアイデアが降臨する。
……ジェシーのように周囲を光にすれば、眩しすぎて相手は眠れない、その隙にオレは、眠れば……
「……はっ」
危ない危ない、二度寝してしまうことだった。
「上手くいくものじゃないな」
慌てて立ち上がるとそのまま食堂目指して部屋を後にした。
~~
ロビーについて異変に気が付く、生徒達が賑やかにしているのはいつものことだが、それを見守るようにいつも立っているディーネがいない。
マリエッタとでも食ってるのかなあと思い食堂を覗き込むと丁度出て来たマリエッタと目が合った。
「あれ、まだ食べてなかったの? ディーネは? 」
「食堂にはいないのか? 」
彼女は頷いて見せる。
……そうなるとどういうことだ? 何か用事があって早めに学園に向かったのだろうか? いや、思えば昨日の剣が鈍かった気がするから疲れて寝ている? でも、それは昨日ことだからな。それに最近修練を勝手に厳しくしたなんてことはないし講義がキツくなったということもない。やはり、何か用事があったて学園に向かったのだろう。
「寮長にでも聞いてみるか、何か伝言を残しているかもしれない」
「それじゃあ、私は念のために部屋をノックしてみる」
女子寮へと向かう彼女を「頼んだぞ」と送り出すと食堂に入り寮長へと声をかける。しかし、彼女は何も聞いていないようだった。
「一体どうしたんだ」
「とにかくそろそろ食べないと遅刻しちゃうから、食べて。私も見に行ってみるから」
寮長に促され一人でトレイに朝食を乗せ席に着く。
……寮長の言う通りディーネが先に行っているとなるとオレだけが遅刻してしまう! 急がなくては!
慌てて食べ始めようとした時だった。
ディーネが食堂に入ってきた。何かの見間違いかと目を擦るもやはりディーネだ。
「……おはよう、ごめん」
「いや、オレもついさっき来たから。でも珍しいな。ディーネが寝坊なんて、修練キツかったか? 」
オレの言葉に慌てて彼女が首を横に振る。
「……そんなことない、ガイトの修練のお陰で強くなれている。どちらかというと物足りない……かも」
予想外の頼もしい答えが返ってくる。どうやら心配はなさそうだ。安心すると改めて朝食に手を出した。
~~
律儀に待っていてくれたマリエッタと三人で食後の運動とばかりに早歩きで学園へと向かう。いつもは何だかんだ会話をする余裕はあるくらいだったのでこうひたすら進むというのは貴重な機会かもしれ
ない……なんて考えていたせいか気が付くと門をくぐった時点でHR開始まで残り数分と遅刻の危機。
「走るぞ! 」
それを阻止するべく声をかけ一気に地面を蹴った時だった。
「ディーネ! 」
マリエッタが叫び思わず振り返る。すると驚くことにディーネの上体をマリエッタが支えていた。
「どうしたんだ? 」
「突然フラッと倒れて……凄い熱」
「なんだって……熱! 」
額に触れると本当に熱い、見ると顔も赤くなっている。ここまでの早歩きで体調が悪いにも関わらず身体を無理に動かしたせいだろう。
「とにかく保健室に連れて行こう、マリエッタ右を頼む」
二人で両脇から彼女を抱えると保健室へと向かう。
「やっぱり修練がキツすぎたのか? 」
「多分半分は正解だと思う」
「どういうことだ? 」
「この前の収穫祭のこと覚えてる? あの日ね、私達も第一修練場にいたの」
マリエッタが告白されて収穫祭のことを思い出す。第一修練場にいたのとディーネの繋がりが分からない。起こったことといえばアローさんが剣士を圧倒したこととジェシーとアローさんが戦ったくらいだ。
「でもあの時何かあったのか? 特にディーネが倒れる原因が見当たらないぞ」
マリエッタはため息をつくと歩を進める。
「そう、えーと、ジェシーさんがアローさんと健闘したでしょ? それを見て焦ったのよ……ほら、ディーネさんも剣士でしょ? だから負けたくなかったというか……光の剣士のバディとして負けられないというか」
……何やらはっきりしない言い方なのは推測だからだろうか? とはいえ、ディーネは前からバディであることに拘りが強かったので概ねそうなのだろう。
「確かに、同期がアローさんとあれだけの勝負をしたら焦るよな」
保健室の扉を開く、先生に説明をしながらディーネをベッドに寝かせると目が覚めた彼女に何と声をかけるべきかを考えながら教室へと向かった。
~~
休み時間、マリエッタは用事があるというので一人で保健室を訪れる。
「すみません、ディーネは」
「丁度さっき目が覚めたところ、今日は絶対安静ね」
とりあえず、大事ではなさそうで一安心だ。
「会話をしても」
彼女が首を縦に振るのでベッドの前のカーテンを開くと先生が椅子を用意してくれたので腰掛ける。
「よう、大丈夫そうで良かった」
「……ごめん、心配かけて。それともしかしたら、風邪移しちゃったかも」
「マリエッタから聞いたぞ、ジェシーとアローさんの試合見てたんだって、それで張り切るのは良いけど、あまり無理しすぎると本末転倒だからな」
「……うん」
「焦る必要なんてないんだ。ジェシーが幾ら強くてもオレはフレイム寮なんだからディーネは自分のペースで強くなればいいんだよ」
「……でも、卒業後は? 」
「え? 」
意外な言葉に面食らう。卒業後って随分と未来の話じゃないか?
「……卒業後、このままだと私とガイトのバディは解消しないといけない。近付いて戦うガイトと遠くから戦う私じゃ相性が良くないから」
「いや、それはないんじゃないか? 例えばどっちに打つとか示し合わせればそこを避けて……」
「……威力の調整が出来ないから、今のままだとガイトも爆発に巻き込んじゃう」
言われて気が付く。確かにオレが敵に接近した場合、彼女が後方から同じ敵目掛けて放つと仲良く爆発に巻き込まれて心中してしまうだろう。
「……でも、ブリザードのジェシーなら、ガイトを巻き込まないで後ろから支援できる。フウトでも……マリエッタでも……私だけ、出来ない」
彼女の悩みがようやく分かった。オレのバディだというのに自分だけ相性が悪くその資格がないと考えてしまって辛かったんだ。
……そんなことにも気が付かないとはな。
戒めで自分の頭を殴る。
「悪かった、それはディーネのせいじゃない。オレのせいだ、要するにオレがその攻撃を避けられればいいんだろ? 」
「……いや、そんなことは、ガイトは悪くない」
彼女が慌てて訂正するも別に怒っているわけではない、それどころかむしろ心は晴れやかだ。
「ディーネのお陰でようやく強化の方向性が掴めた、ありがとう、練習してみるから今日はゆっくり休んでくれ」
そう彼女に伝えると保健室を飛び出した。




