「1 VS 3の戦い」
突然の裏切りに対してディーネからの答えはない。彼女はその代わりとばかりに再びオレに左上から剣を振るう。
ガアン!
剣を横に構え辛うじて防ぐ。しかし一撃を防いだだけでまだ剣をはらえたわけではない。振り下ろす剣に対して下から差し込む形で防いだので剣は今ぶつかり合ったままで彼女がこのまま振り下ろせばオレに対し一撃を加えられるのだ。
「はあああああああ」
彼女が未だぶつかり合っている剣を振り下ろそうと力を込める。正直、バディが相手を斬ったらどうなるかなんてのは分からない。
「おい、どうなってんだこれは」
「なんであの二人が戦っているの? 」
ギャラリーも驚いたのだろう。ワンテンポ遅れてざわめきが起こる。しかし、この状況で教師が試合を止める気配は微塵もなかった。
「ハハハハハ、何だ貴様は。バディからも嫌われているなんてざまあないなあ」
バーンの笑い声が響き渡る。チラリと本来の対戦相手を見ると二人も動揺することなくオレ目掛けて走ってくるのをみて合点がいく。
……なるほど、お楽しみってのはこれのことか。
そう、ここまでがすべてバーンの策略だったのだ。それさえわかれば問題はない。
「なめんじゃ、ねえええええええええええええええ! 」
オレは渾身の力を振り絞り剣を持つ手に力を込める。みるみるうちにオレの剣がディーネの剣を押し返していく。
「……そんな」
「オラあ! 」
「……きゃっ! 」
ついにはディーネの剣をオレが弾き返されると態勢を崩したディーネがこちらに駆けてきた二人の間に入ることで二人の突撃も停止する。
「クソ! 」
長身の男が悪態をつくも目の前にいるディーネを斬ろうとはしなかった。僅かな余裕が生まれた。その隙にこちらも正面で剣を構えながらいつからディーネは裏切っていたのだろうかと考える。確かに今朝バーンとの会話の後から様子がおかしかった。その時だろうか? いや、その前かもしれない。そもそもディーネとバーンは最初から繋がっていてオレを騙そうとしていたのかもしれない。一人でいればオレが声をかけてくると思って罠を張っていたのかもしれない。正確なところは分からない。ただ一つだけはっきりしていることがある。オレはまんまと騙されたということだ。
……落ち着け、今は試合に集中するんだ。
自分に言い聞かせる。正直、バーンと一緒なのを見かけてからこの想定はしていた。試合中に襲ってくるのは予想外だったが特に問題はない。ソウルを使えないオレはこれくらいの試練を乗り越えなくては剣士になれないのだ。憎たらしくてたまらないけれど今は貴重な機会を貰えたと喜ぼう。敵は三人。左に長身真ん中にディーネ、右に特徴のない奴だ。三人とも初動で倒す算段だったのか動く気配がない。
「動かないならこっちから行くぞ」
オレは左の長身目掛けて全速力で駆ける。
「く、くそ」
男が左に回り込んだオレに気付かず先ほどまでオレがいた正面目掛けて剣を振り下ろす。
「え? 」
「おせえんだよ! 」
男が空振り間の抜けた声を出すとともにオレは全力で腹目掛けて横向きで剣を振るう。
「ぐおっ」
命中。そこから力を込めたフルスイングにより男は狙い通りディーネ目掛けて吹っ飛んでいった。
「……あっ」
そんな声と共に男の下敷きになったディーネを封じると最後に残った男の元に走る。男は明らかに怯えていて剣を持つ手は震えていた。すかさずオレは剣を振るうと男は剣を振ることもなく崩れ落ちた。
「しょ、勝負あり。勝者、ディーネ&ガイト」
教師が高らかに宣言をしたのを確認するとオレは出口へ向けて歩き出す。ディーネに対して真意を訪ねたり罵声を浴びせたい気持ちはあった。でもどうせ何を言おうが奴らの笑いの種になるだけなのだ。それならば何もしない方がいい。剣士には別れも付きものなのだ。オレの中でディーネは死んだことにしよう。
「オレは一人でも、ここで剣を磨いてあの人のような剣士になるぞ」
言い聞かせるように口にするとこの後は講義もないのを良いことにぶらりと外へ出た。