「五人目の選手」
「決勝戦だからこそ出られるってもう始まってるんですよ? 」
シェスティンさんが何を言ってるのか分からず再び尋ねるも彼女は怯まない。
「そうよ、確率は高くないわ。でも一つだけ可能性があるの」
「ルールを見れば簡単なことだよ」
「ええ、難しいけれど簡単な」
シラさんとマリレーナさんがヒントをくれるも検討も付かない。
……そもそも難しいけれど簡単って時点で破綻してないか?
オレがそんな調子でいると隣でルールブックを手にしたマリエッタが声を上げる。
「どうした」
「確かにこのルールなら一つだけあるわ、でもそれは……」
彼女がジェシーに視線を向ける、彼女を見てノーブル学園が送り出した選手は赤いズボンからフレイムのようだった。
……ルールだって? そうなるとジェシーが棄権すれば良いのか? いやそれならディーネが出るだけでディーネが更に棄権したとしたら……負けだよな?
「学園対抗戦規則第十項、二戦で決着が付かなかった場合は敗北した各チームの選手は決勝戦出場への資格を失うものとする」
シェスティンさんがヒントとばかりにスラスラと暗唱する。
……待てよ、勝利したチームのメンバーが決勝の権利を得られるじゃなくて敗北したチームのメンバーが資格を失う……?
「それって……」
「気付いたようね、今ルドラ学園から決勝戦に出場しているのは四人、つまりここから二人が引き分けで五回戦目に持ち込めば貴方の出番があるということよ、五人目の選手としてね」
「元々は選手が不慮の事故にあった学園側に対しての救済みたいなものみたい」
「一番強い人達が代表に選ばれているんだから相手の学園からしてみれば代表以外の人が出ることになっても問題ないよね」
マリレーナさんとシラさんが付け足す。
……そうだ、これなら彼女たちの言う通りオレも試合に出られる資格はあるのかもしれない、だが大きな問題がある。
「でも、二回引き分けなんてあり得ませんよね」
ディーネもジェシーも初の対抗戦だ、それを勝利よりも難しいであろう引き分けをオレのために狙うなんてことをやることはないだろう。それに相手は三期生だ、狙っていても出来るものじゃない。
「そうね、だから難しいけれど簡単なの」
最大の疑問をぶつけるとシェスティンさんはあっさりと認める。
「でも、彼女達はやる気みたいよ」
「え? 」
「うおおおおおおおお! 」
歓声が上がる、見るとジェシーが巨大な炎の剣を凍らせるばかりか真上まで押し上げていた。
……嘘だろ? 氷と炎の戦いばかりか相手は三期生だぞ?
「貴方の様子がおかしいと思っていたのは私達だけじゃないわ、彼女達もヴィルゲル君達もよ。だからもし一勝一敗のこの状況になったら引き分けを狙うって決めてたみたい」
「そんな、皆そんな風に思っていたのか」
「来たばかりの私でも違和感を抱いてたんだから、付き合いの長い人達なら当然よね」
……皆がオレのために?
「ああああっと凍らされた巨大な剣が崩れ、破片が両選手に襲い掛かる。引き分け、引き分けです! 」
直後、司会がそう宣言をした。
ジェシーと入れ替わりにディーネが立つ。ノーブル学園からはウィンディの選手が歩いてきていた。視線が会場に釘付けになる。
「さあ、それでは対抗戦でも稀な四戦目、試合開始! 」
宣言直後ディーネは剣に巨大な炎の球体を纏わせ放つ。
「なかなかソウルは強いようだが、そんな威力じゃこの距離からは巻き添えを喰らうのは火を見るよりも明らかだ。打てるはずがない」
ノーブル学園の選手が勝ち誇って高らかに叫ぶ。しかし、ディーネはそんな彼の様子など意にも介さず剣を振り球体を放った。直後、二人は大きな炎に巻き込まれる映像が流れる。
「ま、またもや引き分け! 対抗戦史上前代未聞の二戦連続の引き分け! これは一体どう言うことか!? ええーっとこの場合は……ルドラ学園から一人五回戦の生徒を一回戦出場選手以外から選ぶことが出来ます。さあ、ルドラ学園、一体誰を選手として出場させるのか。三十分以内に代表を決めてください」
会場がざわつく、それとは裏腹にオレの心は穏やかだった。
「二人の想い、無駄にしたら承知しないわよ」
「分かってるよ」
マリエッタに返すと立ち上がり剣を抜いて光の翼を出現させる。
「さあ、行ってきなさい」
「皆で見てるから」
「頑張って! 」
「はい、行ってきます」
四人に送り出されオレはスタジアムへと飛び立った。




