「本気の勝負」
翌朝、食堂の前で中に入る生徒達を見送り光の剣士を待つ。
「おはよう、ガイト君」
「おはよう、どうした? 待ってたのか? 」
「今日から私とバディだから挨拶をしたくて」
「え、聞いてないけど」
「昨日、ディーネさんにお願いして変わってもらったの、ガイト君強いし優しいから」
「……そっか、じゃあオレは飯食うから」
驚いたものの彼はあっさりと納得した様子で食堂へと入っていく。
「待って、私もご飯まだなの」
意外と人間関係には淡白なのかそそくさと行ってしまったので声を出すとともに慌てて後を追った。
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朝食を終えると支度を終えてロビーで彼を待つと女子寮から出てきたディーネさんと目が合った。彼女は私を見ると即座に視線を逸らしてそそくさと歩いて行く。彼女を見送ってしばらくしていると彼がやって来た。
「ガイト君、行きましょ」
恋愛というのは良く分からないけれど、護衛なら惚れて常に側にいてもらうのが一番と彼の腕に抱き着く。
「おい、なんで抱き着くんだよ」
と慌てる顔が意外と可愛い。
「良いじゃないバディなんだから」
「バディってこういうのじゃないだろ」
「でもディーネさんとはこんな感じだったんでしょ? 」
「いや一緒にいることは多かったけどここまでは……」
……それなら上書きしないとね、周囲との認識もあわせて
心の中で呟くと見せつけるように身体を密着させながら学園へと向かった。
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一日を終え夜、ソウルでディーネさんの動きを探知していると彼女はベランダに向かいはしたけれどそれ以外は部屋から出てはいないようだ。今日一日、座学は常に隣にいてお昼は光の剣士と食べさせあいっこをし実技では彼のソウルを理由に私はソウルを発動せずにやり過ごした。その間、彼女が接触して彼に何かを告げることを恐れていたけれど、そんなことはなく今も密会する様子はない。
「あの反応ならもう少しってところかしら」
彼の今日の反応を思い出して頬を緩ませる。もう少しで彼は私に骨抜きになる、そうなれば向こうから近付いてきてくれるので護衛がやりやすくなる。彼女には悪いけれど後は魔人の動向に気を付ければいい。
全ては順調に運んでいる……そう思えたその時だった。
コンコン、と扉がノックされる。
「どなた? 」
「寮長のイムだけれど、マリエッタさんにガイトちゃんが模造剣を持って修練場に来て欲しいって」
……修練場? どうしてこんな時間に?
とはいえ、呼ばれたのならば行くしかない。私は模造剣を腰のベルトにはめると彼女と共に修練場へと向かった。
「失礼」
修練場に入ると彼が広い修練場に一人立っていた。
「寮長から聞いたわ、いつもこの時間にバディと修練しているんですって? それなら早速始めましょう」
「いつもはな、でも今日は違う」
ハッキリとした声で彼が答える。
「じゃあ今日は何をするの? 」
「それはこっちの質問だ」
「どういう意味? 」
意味が分からず尋ねると彼の口から信じられない言葉が飛び出した。
「とぼけるなよ、何でディーネを脅してまでオレと行動したいんだ? 」
「どうして……」
どうして知っているのかを尋ねたかったのに言葉が続かない。
「そんなことはどうでもいいだろ? それより目的を言えよ」
「目的……」
彼は淡々と言葉を発しているけれどもその内には激しい怒りが込められているのが伝わってくる。ここで筋の通らない言い訳は出来ない。かといっても本当の目的を明かすこともできない。
……どうしてこんなことになったの?
自分に問いかける、すると引っかかるものが一つだけあった。
「貴方と本気の勝負がしたかったのよ」
「本気の? なるほど、そっか、手加減とか嫌いなタイプか。悪かったよ」
上手く誤魔化すことができたみたい。それにしても、やっぱり手加減していたのね。
剣を握る手に再び力が籠る。
「じゃあ、オレが勝ったらディーネを何で脅したかは知らないけどそのことを忘れて彼女に謝れ、いいな? 」
「それで貴方が本気になるのなら。お安い御用よ」
そう、考えようによってはこれは彼の剣技の本気を見ることが出来るチャンス。リベンジに加えて情報も得られるのは一石二鳥、受けない選択肢はない。
「審判はいないから、いつでもかかってきていいぞ」
剣を構えた彼が言う。その余裕な態度が更に私を燃え上がらせた。
「それじゃあ、遠慮なく行かせてもらうわ」
大人げない、なんて言葉が既に頭から抜け落ちた私は数メートル先の年下目掛けて全速力で走ると剣を振ってあの時のように最大の一撃を繰り出す、それを彼は動じずに受け止めた。
ウソでしょ……止められるの?
「まだまだぁ! 」
止められはしたけれどまだ攻め手である私に分がある。そのまま何度も何度も仕掛けるも全て塞がれてしまった。
どうして? 私は首席よ? どうしてどうしてどうして!
「はあっ! 」
不意に攻撃が弾かれる、そこから立て直そうとしたけれど時既に遅し。私の喉元には彼の剣が突きつけられていた。
「オレの勝ちだ」
彼の声がどこか遠くで響いた。




