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「弱み」

 結局、彼の剣技の実力すら明らかにならないまま夜を迎えてしまった。


「いえ、二期生並もしかすると私以上ということは分かったから……ああもう、そんなんじゃダメじゃない」


 寮の自室で頭を掻く。

 ソウルは抜きだとしてももしかすると私の方が弱かった、なんてことになると護衛任務に就いた意味がない。


「こうなったら何が何でももう一度本気の彼と剣を交えないと……そのためには」


 隣の部屋に続く壁を睨む。

 そのためには、私が彼と練習を組む仲にならなければいけない。偶然隣人になったディーネさんには退いてもらわないと。


「でも、光の剣士の練習相手ってポジションをみすみすと譲ってくれる訳がないわよね」


 頼んでいた用紙の間に挟まれている資料に目を通す。そのためには彼女の弱みを握るのが一番と放課後にこっそりと情報伝達役として雑貨屋に潜入して貰った人が騎士団に保存されている人々の情報から持って来た彼女の情報が数時間としてはびっしりと書かれていた。


「ディーネ・オルスタイン。特に貧乏という訳でもないけれど名家でもない、任務が任務だから平和的に買収でいけないかしら。それがダメなら……え? 」


 他の情報よりも一際大きく書かれた情報に目を疑う。アローと兄妹の可能性?


「どういうこと……? 学園への住所が同じ点と母方の性がオルスタインのためほぼ確定的……なるほどね」


 でもどうして彼女はそんなことを隠しているのかしら、アローという人物は優秀な男性だ、その妹だなんて隠す必要もないように感じるのだけど。


「まあ、そんなこと考えても仕方がないわね、とりあえず明日までに彼の隣の座を譲って頂かないと」


 資料を机に置くと立ち上がり息を吐いた。


 ~~

 彼女の部屋をノックすると間もなくしてガチャリと扉が開く。


「……はい」

「ディーネさんよね、折り入ってお願いがあるのだけれど良いかしら」

「……良いけど、何? 」


無表情で答える彼女から感情は読み取れない。


「ガイト君の練習相手のポジション譲って欲しいのだけれど」

「……数日だけなら」


彼女の答えで私自身もいつまで護衛をすればいいのかの期間を伺っていなかったことに気が付く。

……でも数日、ではないわね。


「数日だとちょっと困るのよね」

「……どうして? 」


 尋ねられて言葉に詰まる、ここの言い訳を考えていなかった。


「貴方はどうしてガイト君と一緒にいるのかしら? 」

「……ガイトは私のバディだから」


 咄嗟のオウム返しが思いのほか上手くいったわ。そしてこの学園では練習相手のことをバディと呼ぶようだけれど、本当に彼女はバディだからという理由だけでずっと一緒にいるのかしら? まあいいわ、そこは問題じゃない。


「お願い、私どうしても光の剣士とバディになりたいの。お金なら幾らでも出すから」


 第一の計略、お金で釣る作戦を実行する。でも、幾ら費用として騎士団に出してもらうのだとしても言い値というのはやりすぎだったかもしれない。後悔していると彼女が首を横に振る。


「……お金の問題じゃないから」

「そう……」


 ため息をつく、大人しいけれど意外と頑固な子の様だだ。

 ……出来れば脅しとかしたくはなかったけれど仕方ないわね。というかこんなので脅しになるのかしら? もしかすると不発ってこともあり得るわね。

 半ばあきらめながら口を開く。


「話は変わるけれど、ディーネさん。貴方、アロー君と兄妹よね? 」

「……どうしてそれを」


 意外なことに彼女の顔が突然青ざめる。ラッキーなことに効果てきめんな様子。


「知り合いがいてね、それで、私ガイト君のバディを譲って貰えなかったらうっかり誰かに話しちゃうかもしれないけれど良いかしら? 」

「…………」


 彼女が俯く、こうなると可哀想だけれどこちらも任務だと割り切らないと……


「………………わかった、ガイトと組んでいい」


 長い沈黙の末に彼女はそう答える。


「ありがとう、それじゃあおやすみなさい」


 声をかけると扉を閉めた。

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