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「ドタバタな入寮」

 ミッションを請け負った翌日、早速ルドラ学園へと向かう。本来ならば剣士に案内されて優雅にと行きたいところなのだけれど今の私は一留学生ということになっているので地図を片手に衣類の入った袋を背負い学園への道を目指す……のだけれど

 ……ここは何処よ! 何も目印がなくて訳わからないわよ!

 認めたくないけれど私はこの年で迷子になってしまったらしい。でも、これは悪いのはこの分かりにくい地図であって私では……と今は物にあたっている場合でもない。約束の時間は早めに着いたお陰でまだなのだけれどもしかすると過ぎてしまうことも考えられる。

 それをクリアする手段はただ一つ、人に尋ねること。この際四の五の言わずにやるしかない。

 ……誰がいいかしら?

 手頃な人物を探す、出来れば寮ごとに色が異なりソウルが一目でわかるという制服を着ている生徒がいればいいのだけれど安息日だけにあてには出来なさそう。人を探すと向かいの店の前に佇む同い年くらいの男女の二人組の姿が視線に入る。男性は特に特徴がないが女性の方は美しい銀色の長い髪が特徴的だ。

 恋仲のカップルかしら? とにかくあの子達で決まりね。

 ターゲットを見つけたら即実行、移動される前に彼等の元へと移動する。


「なあ、ジェシー、本当に入るのか? 」

「別にいいじゃない、目当ては化粧品なんだから意外とそういうところは気にするのね」

「だって下着もあるんだろ? 気まずいぞ」

「た・ん・じょ・う・び」

「……はい」


 何、この子達……

 近付く時に嫌でも耳に入って来た会話に思わず足が止まる。恋仲というよりは罰ゲームといった感じだけれど恋人なんていたことがないので違うとは言い切れない。とまあそんな事実はともかく女性には悪いけれど男性のこの境遇はチャンスね、道案内でこの場から逃げ出せるという口実を与えれば飛びついてくれるに違いないわ。


「ごめんなさい、ちょっといいかしら」

「どうかしましたか? 」


 声をかけると二人が振り向く。


「私、ルドラ学園へ向かいたいのですが道に迷ってしまって……ルドラ学園はどちらに」

「ああ、ルドラ学園なら」

「案内しましょうか? 」


 口頭で説明しようとした男性に対して女性がそう申し出る、意外な展開。でも、助かるわ。


「ぜひ、そうしていただけると助かります」

「では、向かいましょうか。ほら、ガイトも付いてきて」

「へいへい、わざわざ案内しなくてもここからなら説明しやすいのに」

「あら、そんなに下着が見たかったの? 」

「違うわ! 」


 なんか仲良さそうに会話をしている二人の後を黙ってついていく。何か声をかけた方が良いのかしら?


「ルドラ学園にどのような御用で」


 悩んでいると女性が私に声をかける。


「転入生として新年度からお世話になることになりまして」

「へえ、知ってた? 」

「いや? 」


 二人の反応に違和感を抱く。


「もしかしてお二人はルドラ学園の? 」

「はい、私がブリザードで彼がフレイム、どちらも二期生です」


 ビンゴ、しかも二期生なんて私ツイてる?


「そうでしたか、あの、光の……」


 早速光の剣士について尋ねようとするも踏み止まる、この流れでそれは怪しまれるかもしれない。遠くの学園からなのだから名前も知らない噂話程度の知識の方が自然だという総司令官の配慮からか名前も知らないので焦ったけれど、よくよく考えるとここは私の自己紹介の流れだ。


「……私はガイアです。あの、ガイアにはどのような方が」

「ガイアか、寡黙だけど家庭的な男がいますよ」


 男性が答える。

 どういう返答よ……どうして違う寮に暮らしいるのに家庭的とかが分かるの? いやそれ以前に剣士でしょ? その人もその人でどういう人なのよ……

 女性も似たようなことを考えたのか苦笑いを浮かべるも反論は出来ない様子だ。話題の人物とはそれほど仲が良くないのかもしくは意外と当たっているのかしら?

 とにかく、これで自己紹介と前座の世間話は終了、本題に行かせていただくわ。

 心で宣言をすると平静を保つように意識しながら口を開く。


「あの、光の剣士ってどんな方ですか? 」


 二人が会話を見合わせる。


「ああ、それなら」

「ちょっとそれはどこで誰が聞いているかもわからないから注意しなさいと言われたでしょ? 」


 女性が男性の言葉を遮りたしなめた後私に申し訳なさそうに言う。


「ごめんなさい、最近学園の方針で光の剣士の話題は明かさないということになりまして」

「そういうことなら仕方ありませんね」


 確かに、ルドラ学園はこれまで大々的に宣伝していたのが信じられない位でこれ位が当然の対応だろう、僅か数日の辛抱、ここは大人しく引き下がる。


「着きましたよ」


 女性が示した先には立派な学園が広がっていた。


「ありがとうございました、また学園でお会いできるのを楽しみにしております」


 彼等のお陰で無事、予定よりも早く到着することが出来た、心からのお礼を述べると学園へと足を踏み入れた。


 ~~

 学園長との面会は総司令官のお陰でスムーズに終了した。そして多忙のためと寮までの地図を頂いたのだけれどここで再び問題発生。


「この真っ赤な寮、どう見てもフレイムよね」


 用紙によるとガイアは茶色な寮のはずなのにと戸惑い何度も見比べるも建物の色は変わらない。


「あれ、さっきの……どうかしました? 」


 どうしようかと途方に暮れていると背後から声をかけられる。振り返るとさっき会った男性だった。


「その節はどうも」


 お礼を述べるももう一度道案内をお願いしますとも言えずただただ気まずい。


「いえいえ、困ったときはお互い様ですよ、それで、どうしてここに? ガイアでしたよね? 」


 それはこっちが聞きたいです

 と返したくなるけれど、そうはいかない。仕方なしに地図を見せる。


「学園長に寮はこちらだとこの地図を頂いて」

「失礼」


 彼が地図を見て周囲と見比べる。


「地図の場所はここで間違いなさそうですね。学園長が渡す地図を間違えたとか? ここからだと複雑なのでガイアの寮まで案内しましょうか? 」


 すみませんけれど、またお願いします。

 と口にしようとした時だった。


「ごめんなさい、お迎えもせずに分かり辛かったでしょうね」


 謝罪をしながら一人の女性がこちらに走ってくる。


「寮長、どうしてここに? 」

「ガイトちゃんこそ、どうしたの? 」


 二人が目を見合わせる。内容を整理するとこの女性は寮長で彼女は私を迎えに来ていて……え? もしかして私の寮ってここ? どうして?

 総司令官との会話を思い浮かべる、確かに彼はガイアの寮に入れるように手配したとは一言も仰っていなかったけれど……そういうことなの?

 護衛対象にも教師にもクラスメイトともソウルを偽ってやっていく必要があるなんて何て難易度の高いミッション、とその前にこの状況を何とかしないければ……

 目の前でかみ合わない会話を繰り広げている二人に視線を向けると深呼吸をする。


「ごめんなさい、私のソウル、実はフレイムなんです」

「「え? 」」


 大声に驚いて二人が会話を止め私を見る。


「でもさっきガイアだって」

「ごめんなさい、彼女さんと歩いていたようでしたから嘘をついてしまって」

「彼女ってジェシーとはそんなんじゃ……」

「え、ガイトちゃんはディーネちゃんと仲が良かったんじゃないのかい? 」

「いや、二人共そういうのじゃなくて友達ですから」


 何故か寮長に尋ねられるた彼はさらりとそう答える。さっきの子ももう一人の女性も鈍感な男性が相手だと大変だと同情する。


「とにかく、誤解がないようで良かったよ。ようこそ、フレイム寮へ」


 寮長が満面の笑みを浮かべて私を迎え入れる。

 一時はどうなることかと思ったけれど潜入は成功。でも、これから先どうなるのかしら……

 不安を胸に抱きながらフレイム寮へと足を踏み入れた。

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