「いざ、学園へ」
翌日、オレが食堂へと向かうとディーネの姿があった。
「おはよう」
「……おはよう、その、大丈夫? 」
不安気に彼女が見つめる。大丈夫というのは昨日激辛料理を食べたことだろう。
「うん、大丈夫だよ、今日もスッキリと目覚めたし」
なんともないということを示すように右手をぶんぶん振って見せると伝わったようで「よかった」と彼女は笑ってくれた。
「それじゃあ、ご飯を食べに行こうか」
「……うん、辛いのがないといいね」
「はは、そうだな」
ディーネの冗談を笑って流すもイムさんならないとも言えない。警戒しながら迎えた朝食は幸い普通のベーコンエッグとパンだった。
「ディーネ、あのさ」
食後、学園へ向かう前に荷物を取りに行こうとするディーネを呼び止める。
「……何? 」
不思議そうにこちらを見る彼女を前に思わず頭がショートする。
「いや、よかったらさ。一緒に学園に行かないか? バディだから一緒にいた方が良いだろ」
「……うん! じゃあ、私荷物取ってくるね。ここで待ってるから」
彼女は心なしか頬を赤く染めてロビーを待ち合わせ場所に指定すると足早に女性寮へと向かっていった。
「よかった」
安どのため息を漏らしながら心なしか体が軽くなった気がするオレは彼女を待たせてはならないと負けじと足早に男性寮へと向かった。
~~
部屋で模造剣を腰のベルトに差し込みロビーへと辿り着くとそこには既に中央の男性寮側の柱に立っているディーネの姿があった。
「お待たせ……」
声をかけようとしてふと止める。ディーネは何者かと会話をしているようだったからだ。残念ながら相手は柱に隠れて分からないので様子を窺うことにした。
……友達に学園行こうとか誘われているのだとしたら悪いな
罪悪感に襲われながら向こうからも視界になるであろう通路の右端に移動しブーツの紐を結ぶふりをして柱とディーネをじっと見つめる。ディーネの表情をみると何かに必死になって相手を説得しているようだった。相手はそんなディーネの肩にポンと置くと出入口へと向かっていく。オレはその人物を見て頭が真っ白になった。ディーネと会話をしていたのはバーンだったのだ!
「ディーネ、待たせて悪かった」
「……ガイト」
「何かあった? 靴紐が解けて大変だったよ」
事態が呑み込めないのでとりあえずは何も見ていないふりをすることにした。簡単だ、何か嫌なことがあった場合はこの質問に対して話してくれるはずだ。もし話さなかった場合はそれは二人は親密なことを意味する。
「……そっか」
ディーネは一瞬戸惑ったもののニコリと笑う。
……そうじゃないだろ、何かをされたんだろ? ならそれをオレに話してくれ。
無表情を装いながら心の中でひたすら祈る。しかし、オレの思っていた展開にはならなかった。
「……学園に行こう」
彼女はそれだけ言うと出入口へと向かう。
……ウソ、だろ。
絶望にかられ歩いている彼女を見つめる、もう何百メートルと離れてしまった気がした。
「どうしたの? 」
振り返り不安気に彼女が尋ねるので咄嗟に靴紐がまた解けた気がしたと誤魔化す。
……まあ、思い過ごしの可能性もあるしなるようになるか。
仮に本当にディーネがバーンと何かを企んでいたとしても変にそれを悟られてもマズいし、そうでなかったら失礼だ。何よりそうであって欲しくはないのでオレはさっきのことは見なかったことにして彼女に並ぶように歩き出した。
「とりあえず1回戦は誰と誰が組んだかと実力を偵察しよう」
「……うん」
歯切れの悪い返答、もしかして緊張しているのだろうか、確かに練習でやったことを実戦でやれというのは不安になるかもしれない。
「まあさ、元気出してこう。例え全力で負けても退学なわけじゃないしさ。これからの学園生活に活かせる経験だと思っていこう」
「……うん、これからの学園生活……か」
ぽつりとディーネが呟く。それはまるでここで負けたら次がないと言っているように見えた。
……話していないだけでまさかディーネは負けたら退学なのか?
昨日、家族との話で気まずい空気になったことを思い出す。もしかするとディーネはバーン家の人間で優秀な兄と比較され負けたら退学なんて制約があるのかもしれない。先ほどの二人の会話もそう考えれば納得がいく。
……だとしたら頑張らないとな。
密かに決心を固めて踏み込む足に力を込めた。