「夢の始まり」
本日から連載を始めます。至らぬ点が多々あると思いますが宜しくお願い致します。
幼い頃から剣士にあこがれていた。
あれは忘れもしない10年前の日、まだ魔王がこの国を支配していたころ。オレが出歩いていたところをモンスターに襲われた。村の中で安全だと思っていたけど捕獲したキマイラが目覚めて外壁を壊し村に侵入して暴れまわったらしい。
「うわああああああああああ」
「逃げろおおおおおおおおおお」
人々は突如現れたキマイラに口々に騒ぎながら逃げ回った。オレもその例外ではなかった。通りの違う人気のない道を走る。
「はあ……ハア……」
損壊した家の破片越しに今は20メートル離れているキマイラの姿をとらえる。辺りでは誰かが追い払おうと投げつけたのだろうか地面に落ちている松明とそこから燃え移ったであろう炎が家屋を燃やしている。
……地獄みたいだ。
全速力で走りながら子供ながらに考える。親ともはぐれ何分ほど走っただろうか? 緊急時といっても体力には限界があり子供なら尚のことその限界値は低い。まだ遠くにいるからと安堵し休もうと足を止めた時だった。
「……あ」
ギョロリとキマイラの大きな2つ目がこちらを覗いてい駆け出したのをみて思わず足がすくむ。体力的にも精神的にも限界が来ていたオレは悠々と近づいてくるキマイラを眺めながらもその場から動けるわけもなく呆然と座りこんだ。
……もはやこれまで
全てを諦め耳を塞ぎ両手で目を瞑る。数秒後にズバッという斬撃音。目の前の障害物が取り除かれ目の前に迫ったのだろうと推測しすぐに訪れるであろう痛みを想像しより一層目を力強く瞑る。
だが、痛みは訪れなかった。
「大丈夫だった? 」
突如聞こえる優しい声に恐る恐る目を開ける。するとそこには剣を片手に返り血を浴びながらも尚輝く鎧と剣を身に纏い怖がらせまいという配慮からか満面の笑みを浮かべているブロンドヘアの女性の姿があった。
ーーーーー
……あれから10年、オレは勇者に、あの人に近づけただろうか?
「大丈夫だ。近づk……」
村の唯一の生き残りとなったオレがこの孤児院のロビー毎日、あの日のことを振り返り自信をもって頷けるように自問自答する。そんなオレの習慣ともいえるべき行動は大声で中断された。
「ガイトお兄ちゃん!」
「わわ! 」
突然腹部にズシリと重さが加わわったのに驚き声を上げる、九歳になったばかりのパウリーが抱き着いてきたのだった。
「ビックリした、どうしたんだ一体」
「ガイトお兄ちゃんがボーっとしてるからだい! 」
不安気に答えながら首を横に振る彼の周りにはまだ日が昇る前だというのにオレと同じ孤児院の子供たちがいた。
「皆、剣士の試験を受けるお兄ちゃんを見送るんだって聞かなくてね」
院長のメアリーさんがパウリーの頭をなでながら言う。
「まあ、ノートンはあいつなら大丈夫だってまだ眠ってるけど」
元剣士のノートンさんのお墨付きがあるなら心強い、とはいえそういう無駄なことはしない主義というのは彼らしくも思いながらも彼女に苦笑を返す。
「お兄ちゃんなら立派な剣士になれるよ」
「すっごい強いもん! 」
「学園のやつなんて全員やっつけちゃえ! 」
次々に子供たちが声援を送ってくれる。
「メアリーさん、パウリー、ルア、ルリ、ジェシー、エマ、ジュリー、ジェーン。皆、ありがとう。行ってきます! 」
オレは彼らに背を向けると学園に、剣士生活へ向けて歩き出した。
~~
「受験番号404番ガイトさん! ガイト・セウズさん! 」
「はい! はい! はい! はい! 」
我に返り声を張り上げる。そうだ、うっかりしていた。オレは今士官学校の入学試験の会場に来ていたのだ! 貴重な夢への大一歩をこれで無駄にしてしまったらたまらない。大理石でできた廊下を早歩きし正装に身を包み椅子に押しかけている係員の女性のもとへと向かう。
「404番のガイトさんですね? 」
「はい! 404番です、遅れて申し訳ございませんでした」
「大丈夫ですよ、時間通りですから。フフッ」
彼女はどういうわけかクスリと笑うと羽ペンで俺の名前の横にチェックをいれてから黄色の腕輪を手渡す。
「こちらをつけてそこの扉をまっすぐ進んだ通路の先にいらっしゃる試験官の指示に従ってください」
「はい、ありがとうございます」
「頑張ってくださいね」
彼女の言葉を背にオレはぐんぐんと開け放たれている扉をまっすぐ進むと広い殺風景な広場の前に番人のように立つ頬に傷のある男性と目が合った。この人が試験官だろう。
「受験番号404番か? 」
「はい」
「そうか、可哀想に……」
……444なら分かるけれど404ってそんなに不幸な番号か?
試験官がボソリとつぶやいた言葉の意味が分からずに首を傾げる。
……もしかしてオレの体格や面構えから才能を見抜いたのか? いや、剣に関しては孤児院の怪我をして足を洗ったとはいえ元剣士のスタッフに教わったのだから間違いはないはずだ。特に適性についてはまるでないからやめた方がいいなんて言われた覚えはない。
いいや、この人は教官なのだから人を見る目は人一倍でそれで見抜いた? いやそもそも今までオレはお世辞を言われていた?
そんなことを考えているとそれを悟ったのか試験官が肩に手を置きながら口を開く。
「いやな、この入学試験は上級生の講義も兼ねて先輩となる生徒と模造の剣を交えてもらうのだが。その相手がこの学校屈指の天才と呼ばれる生徒でな」
「アローさんですか? 」
「やはり、校外でも有名のようだな」
知らないはずがなかった。アローといえば顔も良く性格も良いばかりか入学試験時に上級生を倒し街ですごい逸材が現れたと噂になった人物だ。しかしそれは序章に過ぎずまだまだ校内に留まらず人々を震撼させるエピソードを持っている大物なのだ。そのアローが相手となるならば、先ほどの試験官の同情のような言葉も頷ける。
「その、試験は勝ち負けを見るものじゃない。だから全力を尽くすんだ」
「はい」
手短に答えると同時に試験官がオレに柄の部分が黒く塗られた木製の模造の剣を手渡し左端へと避ける。それと同時に彼の背に隠されていた右手に剣を握っている金髪の男性と目が合った。
……彼がアローか。いつかは手合わせしたいと思っていたんだ。
頬を緩ませながらオレは彼の待つ試合会場へと向かった。
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