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電柱

作者: こたみか

 電柱の蛍光灯は不規則に点滅し、夜道を不安定に照らしている。

 私は帰り道を急ぐ。

 誰が待っているわけでもない、高層マンションの一階、ワンルームの暗い部屋。

 狭いながらも快適な自分の城だ。


 不規則に点滅する灯りは徐々に遠退いていき、次の電柱にさしかかる。

 煌々と道を照らすその電柱にさしかかったとき、蛍光灯がまたチカチカと明滅し始めた。

 おや、と思いながらも私はさして気にすることもなくただ早足で通りすぎていく。

 そういえば、電柱の蛍光灯はいつ誰が交換しているのだろうか。

 足元の影が、背後からの蛍光灯の点滅に合わせて浮き上がる。

 やがてその影もはっきりと見えるようになってきて、また次の電柱にさしかかったのだなと気付く。


 チカ、チカ。


 しかしまたその灯りが不規則に点いたり消えたりしていることに気付いて私は顔をあげた。


 チカ、チカ。


 点滅する蛍光灯の下でふと足を止める。

 何かがおかしいような気がして不意に振り返ると、ずっと後ろに続く電柱の蛍光灯たちは、明滅することもなくただ静かに夜道を照らしていた。

 なぜ。


 チカチカ、チカチカ。


 頭上では電柱に取り付けられた蛍光灯が明滅を繰り返している。

 私は視線を足元に戻して、いっそう早足で家路を急いだ。


 足元の影は不安定に現れたり消えたりしてはまたはっきりと見えるようになり、それがまた繰り返される。

 まるで私を追いかけてくるように電柱の蛍光灯は点滅と点灯を繰り返し、最後は半ば駆け足で部屋までたどり着いた。


 鞄から家の鍵を出す間も、背後から明滅する灯りが手元を照らし続ける。

 振り返ってもそこには電柱があるだけなのはわかっていても、そこから差す灯りが不規則に自分の姿をこの暗闇に映し出しているという事実だけで、言い知れない焦燥感に襲われる。

 早く、早く中へ入らなくては。

 電柱の、蛍光灯の気配を背に受けながら、私はようやく鍵を取り出し音を立ててドアノブを回した。

 ガチャリ、バタン、ガチャリ。

 息を止めて、後ろ手でドアの鍵を閉める。

 二、三度大きく深呼吸をして詰めていた息を吐き出すと、私はドアスコープから恐る恐る外を見た。


 そこから見えるのは、マンションの前に立つ電柱がぼんやりとした灯りで静かな夜を照らす姿。

 不規則な明滅はどこにもなく、ただいつものように電柱がそこにあるだけだった。

 やっと安堵に身を落ち着けることができた私は、暗い部屋を照らすため玄関の照明スイッチに手を掛けた。


 パチリ、と小さな音を立てて明るくなった部屋に上がろうとした瞬間、部屋の灯りがチカチカと不規則な明滅を始めた。

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