殺意と偽善の境界線
「ここ……か、ベルリア………」
孤立した島の天辺に堂々と聳え立つ一本の塔、一見はただの塔だがこの島を守り、僕らの脱出を拒む原因でもある。
「瀬、桜木さん……この塔にどんな危険があるかは分からない。」
「───行ける?───。」
瀬はへっと笑い飛ばしていった。
「今の今まで何回死にかけたんだよ、腕の一本落ちる覚悟だよ。」
桜木さんも微笑みながらいった。
「大丈夫だよ!怖くても二人がいるから!!」
女神は腕をぐっと構える。
頑張れる、の意思がこもった構えだ。
「よっしゃ、入るか。」
僕達はベルリアの内部に入るために扉を慎重に開けた。
▷▶︎▷
「あれ?上原たちじゃん、早いな。」
俺らが浜辺に奴らがいないか見ていると船捜索チームが帰ってきた。
「はい、私たちは船の中を漁っている途中に空間支配のクロスを持つアシガの親玉らしき人物と出くわしてしまい、上原さんが攫われたのですがなんとか救出して戻ってきた次第です。」
俺は一瞬、理解出来ずに思考が固まる。
「え?そいつ、倒したの?」
「はい、倒しました。」
すげぇな、空間支配ってかなり強そうな奴に聞こえるけど………。
「途中で透空君とも会いました、彼らはそのままベルリアを目指すそうです。」
「分かった、教えてくれてサンキューな。」
今まとめると起きている奴らは……
蒼夜、俺、桜木、叶、伊上、紗燈、上原、立花、神代、ブレイク、アリス、船長の藤川さん……か。
まぁ藤川さんを除く俺らは全員がクロス持ちだからベルリアさえどうにか出来れば多分、脱出は出来なくもない。
なにより、ベルリアをぶち壊せば世間の大ニュースになる。そうなれば俺らが島で漂流している事も知られて救助される可能性も高い。
「よし、じゃあとりあえず皆のもとに行こうぜ。」
俺らは洞窟の中に戻って起きている皆、全員に集合をかける。
「今、ここに居ないのは蒼夜と紗燈と桜木さんだけか……アリスとブレイクは俺らに代わって浜辺で警護しててもらえるか?二人なら安心して任せられる。」
アリスとブレイクはコクっと頷く。
二人のクロスは揃ってその本領を発揮する。
アリスのクロスはシェアセンス
感覚の全てを支配し操るクロスであり、感覚共有などの派生も全て扱える代物。
ブレイクのクロスはインデクト・プロセス
自身の五感覚で認識した範囲に存在する生命体を除く全ての存在を操ることが出来る。
つまり、アリスの共感と合わせればブレイクのクロスの効果範囲は広がり、浜辺だけなら余裕で警護出来ると思う。
「叶、委員長、立花はまだ倒れてる奴らを見ててくれ。」
「藤川さんは上原を見ててください。」
じゃあ、俺と神代はどうするか。
「俺と神代はブレイク達の反対を見る。」
正直言って、神代と上原、カーネット姉弟のクロスはこんなかじゃ、単純な使い方でも相当強い。
「上原が起きたら教えてくれ。」
まぁ、皆が起きてくれたらその時点でアシガもろともベルリアぶっ壊して脱出なんて出来るかもしれないしみんなが起きてさえくれれば洞窟にこもる必要も無いからとっとと起きて欲しいのが本音であり、だからといって叩いて起きるなんて確証もないから待つしかない。
「とっとと起きてくれよ〜、魔導王さん。」
魔導王、イクシオ高等学校でクロスのランク付けがもしあったなら、彼女は神代に並ぶNo.2のクロス持ちだと思う。
───ハイエルフ《魔導王》───
熱、冷、液、気、光、圧、音を支配する魔法を操るクロス。
このクロスの強みは術式や詠唱が存在しない。使用者の想像とmを糧に魔法だけが形成されるので似せることは出来ても同じ魔法を二度打つのは不可能、この魔法は異なるが普通の威力を持つ魔法で三秒間に50mのmを消費する。
この使用者の魔力量は心身を鍛えれば向上する、そして彼女の魔力量は六千万、つまり……彼女曰くだが、地球を吹き飛ばす威力の魔法を4〜5回は撃てるとのこと。
クロスとは人によって異なる、それこそ俺のクロスは使いようによっちゃ強いがどう足掻いても神代や魔導王には敵わない。
クロスは言ってしまえば運の良さで決まるのかもしれない、蒼夜のクロスだってどう足掻いても神代には勝てないし魔導王の惑星破壊規模の魔法は吸い込めないかもしれない。
だが、これだけのクロスを持ってしてもベルリアの障壁に触れれば一瞬で消えてしまう。
あいつをどうにかしない事には俺らはどう足掻いてもこの島からは出られないわけだ。
「ま、とりあえずは蒼夜たちに頼むしかないよな。」
▷▶︎▷
「お前らみたいな利益にしか目がないカスのせいで!!」
「兄さんは酷い目にあってんだよ!!」
少女は声を荒らげて私の胸ぐらを掴んで、泣き叫ぶ。
その言葉ひとつひとつが正論で全てが私の悪業に槍を刺す。
「何人死んだ?……船が沈没したんでしょ?」
「兄さんが生き残っててもそれ以外の皆は死んだってことも有り得るんだよね!!
───お前ら、私たちの命をなんだと思ってんだよ!!───。」
少女は泣き叫ぶとやがて、私の胸に顔を埋めて嗚咽する。
「安心と安全が保証された場所じゃなかったの?」
私は少女の言葉に初めて答えた。
「──仕方なかった──。」
咄嗟に出たのは絶対に言っちゃいけない本音だった。
少女は硬直しやがて身を震わすと私を突き飛ばして怒鳴る。
「仕方ないで済まされるほど、私たちの命は軽いのかよ!!」
口から出ないだけで本音が溢れるほど心の中に出てくる。
───許して欲しい───。
───自分の幸せのためだった───。
───言われたことをやっただけ───。
目の前の少女はその場にへたりこんで一言放った。
「兄さんを返せよ……私の兄さんを返せよッ!!」
少女は今、理性崩壊に近い。
私は下手したらこの子にクロスで殺されるかもしれない。
少女は私に飛び掛かり、強い力で私の首を絞めた。
「兄さんを助けてくれるなら放してあげる。」
「ガハッ……?!」
私は呼吸と共に声が出なくなり、仰向けの状態で身を拘束される。
「助けてくれるなら放してあげる、死にたくなかったら助けて……。」
私はその死んだかもしれない少年を助けるなんて嘘はつけない。
なら、やることはただひとつ。
私は鞄の中に入っていた拳銃を取り出して少女の額にピタリと引っ付けて心の中で唱えた。
───これは正当防衛。───
火薬が炸裂した音が路地裏に響くと同時に少女の頭部から一発の弾丸が鮮血と共に出てきた。
悪を倒しただけだ、これは正当防衛だ。
「私は……
───悪くない───。」
少女は一人、血を流して倒れていた。
▷▶︎▷
濡れた少年はその歩みを止めて記憶の先を探る。
だが、いつまで経ってもその記憶は一人の女に撃たれた所から進まなかった。
全てはIKSOが悪い。
俺に感情なんて存在しない、俺はただの人形だ。
俺に悲しみなんて存在しない。
なのに、何故ここまで殺意が湧くのだろうか。
奴らだけは許せない、俺は絶対に許さない。
悪が正義執行を語るな。
この前、読者の方から異能のまとめみたいなの欲しいと言われたので今から書きます。
伏線ばら撒きすぎて作者が忘れたっていうアホみたいな話します?