正義と仲間の境界線
上原視点や蒼夜視点などの切り替わりの際に今後からは▷▷▷を使いたいと思います。
「上原さん、皆で帰りましょう。」
私の視界に映った最後の希望。
その希望を呑み込むように私の意識は深い暗闇の底に沈んでいった。
▷▷▷
「ど、どうしよう?!神代も上原も消えちゃったよ!!」
立花さんが身を震わせながら混乱する。
「落ち着いてください、確かに二人は消えてしまいました」
「可能性としては二人は攫われた可能性が高いでしょう、ですがアシガ達は上原さんをお恵みと言っていました、神代さんは攫われたのではなくわざと彼らの転移に入ったのでしょう。」
「そ、それじゃあ奴らは自分たちの里に帰ったって事だよね?!」
私は頷く。
「そんなの!......神代たちは無事なんだよね?」
「無事かは定かではありませんが神代さんのクロスから推測するに満身創痍だとしても生きて帰ってくるでしょう。」
「神代のクロスって何だっけ?」
私は腕の痛みに顔を引きらせるも答える。
「自身の想像した未来に対象を導くことが出来るクロスです」
立花は「え?」と言った表情でこちらを見つめる。
「いわゆるチート、最強と言う言葉が似合う程のクロスです、故に私は彼女が生きて上原さんと共に帰ってくる事を信じています。」
私は立ち上がって持つべき荷物を手で握りしめる。
「し、信じるなんて!......助けに行かないと!!」
「助けたいのは山々です、ですが相手の居場所が分かりません」
「それでも仲間は助けないとっ!!」
私は自身の心のなかにあった青い感情をぶちまける。
「では、私達が仮に行ったとしてなんの力になりますか。」
「え?.........」
「私達は非戦闘型のクロスです。」
「ただの足手まといです」
そうだ、私は昔からただの邪魔者だった。
クロスだってとても誰かの役に立つものでもない。
誰かに必要とされた事なんて数えられる程度だ。
「あんた、リーダーでしょ?!」
リーダー?......。
「あんたが皆の指揮を取るんでしょ?!......リーダーがウジウジしてたら士気が下がる一方だよ!!」
「では、私のような非戦闘型クロス持ちはどうすれば?」
「非戦闘も何も関係ない!!目の前で仲間が攫われた事実があるなら、助けに行くのが仲間なんだよ!!」
「神代さんだけが正義のヒーローじゃない、正義のヒーローには味方が必要なんだよ!」
「味方......」
立花さんは濡れた顔を赤くして私の手を握る。
「仲間を助けることだけが正義のヒーローじゃないかもしれない、でも私達の中じゃ仲間を大切にする者が正義のヒーローなんだよ!!そんな正義のヒーローを助けるのもまた正義のヒーローなんじゃないかな。」
「私は正義のヒーローであったとしても誰からも必要とされない陰の者です。」
「今、私が必要としてるじゃん.........あんたが今必要なんだよ!!仲間を助けるには仲間が必要なんだよ!!」
必要......私が委員長という地位に着いたのは誰かに必要とされたいから。
「伊上委員長!仲間を助けにいこう!あんたの力が必要だから!!」
私は心の奥底でじわっと暖かな芽が生える。
「そうですね、立花さんの言う事が正しいかもしれません」
「微力ながらお供にします。」
私は負傷した腕を差し出す。
「うん、ありがとう......」
ヒーローとは何なんでしょうか。
正義とは何なんでしょうか。
いえ、考えて見つからない答えかもしれません。
ならば答えを作ってしまうのが最適解かもしれません。
「一緒に助けましょう」
▷▷▷
「おっさん、俺らはとりあえず浜辺の方見てくるから待ってて」
俊介君と叶君は洞窟の外へと出ていく。
私は身が硬直したままだった。
暴食島?......ベルリアが本当にあるのか?
いや、もしかしたら彼らが嘘をついてる可能性も......。
「おっさん?......大丈夫?」
ブレイク君が私の肩を掴む。
「あ、あぁ......すまない。」
ここがあの暴食島なら生きて帰るなんて蜘蛛の糸で崖を渡りきるより可能性が低い。
「おっさん、辛いよな。」
私は突然の慰めに困惑する。
「だって、航海してて緊張してたのに急に船が傾いて意識失って気付いたら島に流れ着いて、しかもそれが暴食島なんて、俺だったら発狂してるわ笑」
な、何を言っているんだこの子は?。
「おっさんは悪くないよ、俺らは本当におっさんを一ミリも恨んでない。それにおっさんの左手見た感じ、家族居るんでしょ。」
ブレイク君は微笑みながら喋り続ける。
「俺らは祈るとか願うとかあんましないんだ、さっきも言ったけど俺らには叶える力がある。だから俺らは例え世界で最も危険な島に流れ着いたところで生存を諦めたり神頼みなんてしない、俺らは頼る宛は無くても叶える力があるから。」
ブレイク君はアリス君の顔を見てあっ、と言う。
「違ったわ、俺らには皆が居るわ笑」
「おっさんも帰る希望が帰らなきゃいけない理由があるんだろうけどさ、その理由を捨てないで絶対に諦めないで欲しい」
私は目の前の少年が本当に輝いて見えた。
「俺らは叶える力を持ってる、でも、俺らはまだ子供だから挫ける事もあるんだよ。」
「そんな時、おっさんが俺らを助けて欲しい。」
「わ、私にはそんな力は無いぞ?......」
「おっさん、クロスじゃねんだ、俺らが挫けた時おっさんは俺らを元気づけて欲しいってこと。」
「人は一人じゃ何も出来ないって言うよな、俺らだってクロスがあっても一人じゃなんも出来ない、叶える力があってもそもそも、何も叶えるか分からないし」
「協力しようぜ、俺らはおっさんを守って一緒に脱出する、その代わりおっさんは俺らを支えて一緒に脱出する。」
彼が輝いて見えた。
そう、言うなれば救世主に見えたのだ。
「あぁ、ありがとうブレイク君。」
ブレイク君が微笑みながら手を差し出してくる。
「君達が命を懸けてくれるというのなら私も君達のために命を懸けよう。」
そして隣で見ていたアリス君もまた腕を差し出してきた。
「共に帰ろう」
私は二人の両手を握りしめて微笑み返した。
私が幼い頃見た、特撮番組に映る正義のヒーローはどんな存在だったか。
その正義のヒーローは何をしていたか。
いや、正義のヒーローとは一つでは無いかもしれない。
ならば私の思う正義のヒーローは
──支え合う者だ──
▷▷▷
「はぁはぁ.........次から次へと!」
代鉄を振り下ろす。
濁った血が身から溢れてその場に倒れ伏す悪者。
「すぅぅ......」
──インダクト・フューチャリー《仮定未来現像》──
私の目の前に映る現在に重なって白く透き通った未来が映る、私の身が本来通る未来。
いわば──《運命》──。
私のクロスが未来を見るクロスであったのならいくら足掻いてもこの未来の通りに動いていただろう。
だが、私のクロスはその未来に現実に縛られないもの。
私は白く透き通った私の未来から外れて自分の好きな様に現在を歩んでいく。
「グギギ!キエッ!!」
鉈を握ったアシガが私の頭部目掛けて振り下ろしてくる。
本来の未来ならば、ここで頭部から脚部までスッパリ斬られていたかもしれない。
だが、今は違う。
私には希望を現実にする力がある。
「幼稚な太刀筋ですね。」
本来の未来から外れてその場から右へ一歩下がる。
その勢いを利用して回転して代鉄をアシガの頭部から脚部まで斬り下げる。
「代鉄・一の太刀《未来返し》」
自身に振りかかる攻撃の未来を相手に返したのだ。
アシガは真ん中からスッパリと肉の断面が見えて両方にばたりと倒れる。
「ウギッ......グギギギ.........」
先の攻撃で私を囲む者達が下がっていく。
「ほう、やるな。」
先の中年おじさんに似たアシガが姿を現した。
「あなたも、転移のクロスだなんて素晴らしいものをお持ちですね。」
奴は首を傾げた。
「ちがう」
「わたしのクロスは」
──「くうかんをしはいする」──
私は身構える。
空間を支配、つまり転移のみならず空間の断絶をして私の身を真っ二つにすることもそもそもその空間に生じた攻撃を呑み込む事も可能だと言うこと。
「厄介な方ですね......」
今の私の敵は奴一人ではない、無数のアシガに囲まれている。
「おまえはしょくよう」
未来が見えた、私の腹部が横に切れる未来が。
「代鉄・三の太刀!!《瞬速》」
私のもといた空間が目に見える程、ハッキリと真っ二つになった。
今、一瞬でも間違えていればあの世だっただろう。
「すばしっこいはえ」
奴に集中しすぎて横から槍を突いたアシガに気付かず、攻撃を許してしまった。
私は痛みを覚悟に歯を食いしばる。
──エクエフェント・チェンジ《物体転送》──
私の横腹を突くはずだった槍はまるで物体が中に押し入ってきたように砕け散る。
「神代!」
立花さんの声だ、助けに来てくれたの?
ここがどこかなんて分かるはずも.........。
──アンチライトニング《引力球体》──
突如、アシガの前に現れた黒い球体はなんの躊躇いもなく奴らを吸い込んでいく。
「ぐっ!?」
空間支配のクロスを持つ男は自身の体を転移させて民家の屋根に登る。
「グギッ?!」「ギャー!!」「キェッキェー!!」
多くのアシガが奇声を発しながら吸い込まれていく。
当然、私も吸い込まれそうになるがその瞬間に球体は姿を消して数十体のアシガだけを吸い込んでいった。
「大丈夫かっ?!......」
桜木さんを背負った透空君が走って駆け寄ってくる。
未来が見えた、空間が再び断絶する未来が。
「駄目っ!!避けてっ!!!」
透空君は片手を空に突き出して叫ぶ。
「吸い上げろ!アンチライトニング!!」
透空君と桜木さんの数メートル上に一部屋サイズの超巨大な球体が現れた。
万物は抗うことを許されず、一瞬にして吸い込まれていく。
私達も巻き込まれるかのように黒く果てしない空間にすいこまれそうになった。
「閉じろっ。」
数メートル上空で閉じた球体、数メートルも上がった体は重力に逆らえず落ちていく。
「上原ぁあ!!!」
意識が戻っていない上原さんを呼んでも意味が無い。
私と抱えていた上原さんを除く仲間は地面に衝突して音を響かせた。
「しね」
その隙を突くように空間支配を持つアシガは手を差し出した。
未来、次は断絶された空間に全員が呑み込まれる未来だった。
「死に失せろ、代鉄・二の太刀《終焉未来》」
私は本来の未来から外れて奴に接近する最短のルートで駆け寄って、代鉄を投げた。
「貫け、代鉄」
アシガは有無を言わさず、本来の未来から外れた私に気付くより先に代鉄が頭を貫いていた。
私は代鉄の落下点まで駆け抜けて落ちると同時に鞘に収めた。
「グギ......」
空間支配を持つアシガは奴らに似た奇声を発して血を吹きながら倒れた。
「いってぇ......」「いったぁい!!」「蒼夜君、もっと優しく......高すぎるよ!」
皆が怒り叫ぶ中、私はクスッと笑い皆のもとに駆け寄った。
「助けてくれてありがとう、皆」
全員が私の方に振り返ると全員がニッと笑った。
はい、どうも!三枝愛依です。
いやあのですね、バトルシーンが多めでバトルシーンがサバイバル系らしからぬ感じではありますが許してください。あの、僕元々異世界系を書いてたので現代のそれもサバイバル系は書くの慣れてないんです。
戦闘シーンがどうしても異世界みたいに見えちゃうのはもう許して欲しいです。
あと神代さんがチートやと思ってる方とか空間支配使ってるやん、Twitterで転移とかは無理言うてたやんと思った方は簡潔に言わせてもらうと、皆さんの考える能力が強すぎて敵役に回したら詰むのが多かったんでそんな中、空間支配に近い異能もありにしてしまうと多分、神代さんは愚か、透空君では適わなくなるのであの時はダメにしました。
あんま話すことも無いのでそろそろここらでお暇させて頂きます、お茶を啜ってごきげんよう......