下心と希望の境界線
「グガギギギ......キェッ! キェエエエエ!!」
四足で歩く人型の怪物が静かな森に奇声を響かせる。
四足で歩くその怪物は首に鎖を繋がれており、それを従えている男が言った。
「だまれ」
男は四足で歩く怪物を踏みつけると夜風に髪を靡かせて呟く。
「かりのじかんだ」
男は従えていた四足の怪物と奥から出てくるアシガを連れて森の奥へと消えていった.........。
「すまん、行くか。」
俺は一瞬の硬直が解けた後、すぐに皆に進むよう指示を出す。
「おう、ところで蒼夜はアシガにめちゃめちゃ詳しいけどなんで?」
僕は確かに人より詳しい、本来アシガが不死で奴らが新しいものに近寄らない習性も四足歩行のアシガが存在することも世間は知らない。
───たったひとつ、IKSOを除いて───
「まぁ、物知りなだけだよ。それよか、あんま雑談してると奴らに気付かれるから静かに進もう。」
瀬は「やべっ!」と声を漏らしてすぐに口を塞ぐ。
僕と瀬は男と言うこともあるが体力がある方なので森の斜面なども容易く登れる。
だが、既にもう一人、呼吸を荒らげている人が居た。
「桜木さん、僕が背負ってあげようか?」
一応、重たいアタッシュケースなどは僕と瀬が持っているしフリーなのだが、やはり女の子に森は厳しいのか。
「ご、ごめんね.........頑張るから大丈夫だよ!」
微かな元気をその言葉に乗せて呼吸を荒らげて返事する。
とても大丈夫じゃない、だが僕ごときの陰キャが無理矢理でも桜木さんをおんぶしていいのだろうか。
脱出した時にクラスメイトに虐められたりしないよな。
僕は命懸けの場で恋の駆け引きをしていた。
えぇい!行ってしまえ!男とは常に紳士であるべきだッ!
「瀬、これ持てそう?」
僕は食物の入ったアタッシュケースを渡す。
「あ、理解理解。全然構わねぇぞ。」
僕は手ぶらになった状態で桜木さんの前にしゃがむ。
「ほら、乗りなよ」
桜木さんが微笑みながらその身を僕の背中に預ける、このぐらいの斜面ならなんの問題もないし仮に落ちそうになってもダイ〇ン顔負けの吸引力がある。
「おんぶきつくない?」
「きつかったら言って」
僕は邪な感情の一切を捨てて桜木さんに問う。
「ううん、ありがとね。蒼夜君、瀬君も。」
女神が微笑んだ、勝利の女神が微笑んだぞ。
それは見なくても分かる、この森を照らすかのごとく明るい笑顔だった。
勝利の女神が微笑んだのだ、僕たちの生存は神の誓によって確定した。
まぁ、それぐらい良い笑顔だったって事。
「ギギギ、キェッ......」
すぐ近くから奴らの声が聴こえた。
僕達はすぐに息を止めて硬くなる。
「ギギギ......ギガ...オニク......イケニエ.........」
生贄、そうか僕たちがこの島に入れた訳を理解した。
ベルリアは暴食島を囲うように常に見えない干渉不能の壁を張っている、故に僕達はミサイルや核を持ってしても島すら傷つけられない。
まぁそもそも、奴らは実質消さないと死なないから意味は無いけど。
だが、そのベルリアが壁を張るのに必要なものがあるのだろう。それが人なのだ。
奴らはベルリアの効果が切れると流れ着いた僕らを狩れるように近寄って食用と生贄用に分けているのだろう、なぜならこいつらはここまで活発的に行動する奴らではないからだ。
基本、こいつらは群れて狩りをする上に静かに狩りをする。
だが、最初の流れ込むような奇襲を見て気付いた。
これはこいつらが意図的に寄せてきたのだ、意図的に僕らをここに流れ込ませたのだ。
四足のアシガが僕らと数メートル離れたところでカサカサと歩いている。
僕は怖いというよりも焦っている。群れて行動する故にこいつ一人だけじゃない、もし戦闘になれば数は10は覚悟した方がいい。
桜木さんが心身を震わせていた、心臓の音がバクバクと鳴っている。
──恐怖だ。──
当たり前の感情、人として絶対不可欠な感情だ。
「ぁぉ......」
掠れながらも小さな声で何かを言おうとしている。
だが、僕は返事が出来ない。奴らが目の前に居るからだ。
「ギギギ......ナニモナイ.........」
四足のアシガはのそのそと奥の方へと消えていく。それに連れて隠れていた数十体のアシガも出てきた。
やっぱりだ、戦闘していたら三人のうちの誰かが死んでいたかもしれない。
「こ、怖ぇぇ.........」
瀬が木に掴まりながら地べたに座る、斜面ではあるが急すぎる訳では無いので転んだりはしないだろう。
「ぁぉ...や君......」
ん?また、桜木さんが何か言った。
「大丈夫?桜木さん。」
「蒼夜君......」
おぅふ...ずっと僕を呼んでいたのか。照れるじゃないか。
「どうしたの?」
「こわぃ......」
じわぁと肩ら辺が濡れる、いや元々海でびしょ濡れの私服だからあんま変わり無いが濡れた。
「大丈夫だよ」
「ごめんね......お洋服濡らして.........」
何言ってんだが、違う違う。これは聖水だ。
桜木さんの涙は聖水だ、ハッハッハ!。
「気にしないで、元から濡れてたから変わらないよ。」
「.........」
桜木さんはすんっと黙り込んだ。
「瀬、登るぞ。」
僕はそれだけ言って歩みを進めた。
「あっ、血?......」
私は一瞬に起きた、目の前の出来事に身が硬くなる。
目の前の男達は拳銃を握りしめて倒れている。
瀬にそんなクロスはない、遠隔からのそれも超長距離からの身体操作など...いや、可能性は無くはない。瀬ではなくても誰かが私を助けてくれた、それかもしくは助けて欲しいがために私を救ったのか......。
どちらにしろ、私は彼らを救うために今やるべきことをする。
私は男たちの懐にあった弾倉と落ちた拳銃を鞄に隠してその場を去る。
「皆、船に着いたけどここからは慎重に行動したいと思う。まず、第一に仲間を裏切らない、第二に情報は仲間の命だと思って欲しい。」
伊上はいつもにまして強く言ってくる。
それもそうか、命が懸かってるから。
「了解」「うぃ」「はーい」
二名がやる気のない返事をするが伊上はうん、と頷いて私たちの先頭に立つ。
「だが、最悪の場合は...皆は逃げてくれ。僕が足止めをする。」
伊上のクロスは相手の動きなどを封じるものだ、それは自分にも食らう故に最悪の場合。
だが、持続時間とかは関係無く伊上が止めない限り、ずっとその効果は発動される。つまり、最悪なんて絶対にない。
歩いて数分が立つと荒れ果てて傾いた船内に沢山の旅行カバンやぶちまけられた衣服などが転がる一室を見つけた。
多分、寝室かな。そうなるとここら一帯は全て寝室区域、つまり衣服や食べ物、使える物は全てここら辺に集まっているかもしれない。
「委員長、ここら辺多分寝室の区域だから皆の荷物から使える物だけを取っていこう、衣服とか食べ物とか。」
「分かった」
委員長が頷くと神代と共に部屋の入口に立つ、ルールとして私と立花が部屋を漁っている時は二人が入口を見て敵の警戒をする事にした、広い部屋の場合は全員で入る。
これが一番安全な策だと思う。
寝室に入るやいなや、壊れていない旅行カバンを数個見つけると私はなんの躊躇いもなく鍵をぶち壊して開ける。
そこには数十個の栄養バーとぎっしりに詰められた衣服、あとは携帯などが入っていた。
初っ端から当たりだな、なんかこの感じ。
サバイバルゲームを実際の主人公目線でやってるみたいで楽しい。
まぁ、不謹慎にも程があるけど。
私と立花は次から次へと鍵を壊すと衣服、食物、その他使える物が入ったケースは全て立花が皆の集まっている洞窟の少し手前に転送していく。
だが、転送しすぎると逸雅達も困るだろうから全てとはいかない。
必要不可欠なものだけだ、本当に。
私たちは漁り終えて部屋を出ると自販機を見つけた。
「ねぇ、これぶち壊して転送する?」
すると立花は首を左右に振った。
「大きすぎて無理だよ!」
まぁそうか、仕方ない。飲み物は諦めよう。
再び、しばらく歩いていると神代が「ハッ...?!」と言った表情で走っていく。
「ちょ、神代!!」
私達はすぐに追いかけると神代は黒色の細長いアタッシュケースを抱きしめて開く。
そこには綺麗に横たわる一本の日本刀があった。
「見つけました、逸雅さんから頂いたこの刀は使いませんでしたね。これが私のです。」
神代はアタッシュケースから刀だけを取ると腰にぶら下げる。
「名はありません。」
「名前かぁ......ねね、神代さんの代を取って代鉄ってどう?」
私が提案すると神代は首を傾げて聞いてきた。
「意味はなんと?」
「神代さんの相棒として鉄のように硬く鋭い刀」
「どう?」
「良いですね、ではその名前をありがたくもらいます。今日からこの子は代鉄です。」
神代はニコニコしながら突き進む伊上の後ろを着いていく。
そんな和んだ空気を一瞬にしてぶち壊すかのように一矢が伊上の腕を貫いた。
「え?......」
伊上は一瞬の硬直と共に次の瞬間、船内を轟かせる程の叫びを出す。
「うわぁあああ!!!」
伊上は矢をその勢いのまま引き抜くと穴からボタボタと血が溢れてくる。
止血用の布も何も無いのに引き抜くのは得策では無かった。
「神代!構えろッ!!」
神代が伊上の真正面に立つと立花がすぐに伊上の腕を治療する、と言ってもさっき拾った衣服をビリビリに破って何重にもぐるぐる巻くだけだ。
「アシガだと思うよ......皆、いつでも離脱できるように準備しといて......」
「ギャッギャッ!!オニク!シトメタ!」
「ヨクヤッタ!イケニエ!ホメラレル!!」
「おちつけまだいきてる」
前方から数名のアシガが出てくる。
そこに加えて見たことのない立方や雰囲気が人間そっくりなおっさんのような人も居た。
「やれ」
するとアシガ達はなんの躊躇いもなく私たちに矢を放ってきた。
──ルクア《水支配》──
海を支配した今、私はこの場にいる誰よりも王であり姫である。
私の美貌に溺れて死ね。
波がアシガ達を呑み込んで攫っていく。
《28》
「すばらしいおめぐみ」
何言ってんだ、このおっさんは!.........。
「じじい、調子乗んな!......よ.........」
私は確かに両手で海を支配していた、なのに海の水は波は全て元の海へと戻っていく。
「おめぐみはんしょく」
おっさんは数メートル離れたところから一瞬で私の懐に入ってきた、その瞬間。
「代鉄の錆となれ」
私が死を覚悟した瞬間、その更に後ろから神代が刀を振り下ろしていた。
おっさんの背中を躊躇いもなく神代は斬り裂いた。
「カハッ!......」
おっさんは血を吐いて私の方へと倒れると私を抱きしめて呟く。
「おめぐみはにがさない」
私はおっさんに抱きしめられたまま周りの景色が変わった。
「ギギギ!ギェッ!!ギェッ!!」
辺りには奴らが居た、四足で歩いたり、無数の腕が生えていたり、顔がなく頭部そのものが口になっている奴らが。
「はんしょくおめぐみ」
私の景色が変わった時、そこにいたアシガ全てが口を開いていたがおっさんがそう言うと全員が口を閉じて下がった。
「な、何すんだよ!離せよッ!!」
私は体を揺さぶりながら抗う。
奴らの言葉の意味を理解した、繁殖ということは私は今から犯されるのだ。食べられるのではない、逃げなければ私は壊れる。
「ルクア」
ここがどこかは分からない、だけどここの近くに水がある事を祈って......。
「おめぐみ、あばれるな」
私は素早い手刀を首に喰らい、意識が暗転した。
──インダクト・フューチャリー《仮定未来現像》──
その最後、微かに眼に映ったのは希望だった。
最近、書き方が雑になってきてマジでごめんなさい。
これでもめちゃめちゃ本気出してます。
ほんとにすみません。
特に書くこともないのでお茶を啜ってごきげんよう~。