血と涙の境界線
「投げろ!俊介ぇえ!!」
俺の叫びが放たれると同時に風を貫き、僕の前に居たアシガの側頭部から貫く。
その勢いは止まらず、直線上に森の中へと突き進んで姿を消していく。
「消え失せろ、アンチライトニング」
俺は俊介の投槍を警戒して集団として固まった中心に扉並の大きさのアンチライトニングを生み出す。
案の定、アシガは言葉を発する前に全員吸い込まれていく。
だが、まだ終わったわけじゃない。ここに居る奴らは二分の一は死に消えた、だが倒れている奴らは全員時期に起き上がる。
「全員!道が開いた、俊介に続いて一人を担いで走れ!!」
今起きている奴らは俺を含めて八人。
つまり、今なら起きている奴らを含めて16人の命は確実に救える。
だが、誰を担ぐ?...誰を犠牲にする?......犠牲にしていい命なんて無いことは分かっている。
だが、この状況で綺麗事はただの自殺行為だ。
「蒼夜、焦りすぎ笑...皆がうちを守ってくれたら全員救えるし」
今の声は上原枢、桜木さんに敵わないがそれでも僕らのクラスのアイドルの一人。
「担ぐ必要無いよ、うちに任せとけってルクア...」
上原は普段からは想像出来ない顔立ちで、いとも容易く水を支配する。
海の中で優雅に泳いでいた魚達は残酷にも地でぴちぴちと跳ねている、今世界に存在する水は全ては彼女の味方だ。
「水は万物の流れをかえる、水は万物の衝撃を奪う、水は万物を壊し万物を動かす 水よ、壁を隔てろ」
──ルクア《水支配》──
静かに誰の耳にも届かない静かな響きで上原の針盤がひとつ動く。
《29》
僕達を囲むように下へと流れる水が奴らの干渉を防いでくれる。
「ふっふーん!皆、うちに惚れたっしょ?」
創造した本人はキャピッという音が鳴らんばかりのウィンクを決めて笑顔だ。
「上原、この壁はいつまで維持できる?」
「う〜ん、10分が限界かも...あはは......ごめんね、でかい事言ってしょぼくて」
「いや、十分だ。」
「少なくとも今ここにいる奴らの命を救ったのは上原、お前だ。寝てる奴らだけじゃない、僕らの命もな、ありがとう」
僕は真面目にぺこりとお辞儀して壁へと歩く。
「お、おぉぅ...なんか照れるなぁ......」
「上原、この壁から僕が抜け出せるサイズの穴を作る事は出来るか?」
「おっけぇ〜!...って、そんなことしたら死ぬよ?」
「いいから、10分で終わらせてくる。」
「壁があるなら好き放題にクロスが使えるからな」
「おっけぇい!蒼夜!!信じてるからな!!」
「任せとけ」
なんだろう...蒼夜ってあんなに明るくて落ち着いててあんなに優しかったかな......いやいや、まさかね。
「上原!蒼夜は?」
逸雅は私に問うてくる。
「この壁の外に行った、片付けてくるって」
「なっ?!死ぬぞっ!!」
私はため息をついて一言。
「逸雅、蒼夜のクロスは私たちが居ると満足に使えないの知ってる?」
「え?あぁ、そっか。」
「うん、むしろこの壁があることがそれこそ水の壁であるから吸い込まれても瞬時に修復される、蒼夜のクロスにとっては最悪だけどこの状況じゃ、むしろ相性良すぎてハート付いちゃうよ」
「意味わかんねぇこと言うなよ」
「んっんん...ここは?」
「神代っ!!」
よし、このまま全員が起きてくれればこの島からの、脱出も夢じゃない。
「神代、大丈夫かっ!?」
逸雅が駆け寄って看病しているから神代はひとまず安心。だけど、まだ神代を除いて8人以上のクラスメイトを含めて船員や教師が意識不明だ。
「終わった、10分も掛からなかったな。」
蒼夜は全身、血塗れで帰ってきた。
「お、おぉ...おかえり、蒼夜。」
あれ?蒼夜のクロスって血出すっけ?。
「神代、起きたか...皆、ひとまず外の奴らは全員死んだというか消えた。だから、とりあえず僕達は今持っている物と近くで多分流れてきてると思う沈没した船からまだ使えたり食べれるもん探す班とこの島でベルリアをぶっ壊す、もしくは無力化する為の班が欲しい。今いるのは9人か。」
「お、おい!透空!!教師である私を省くとは何事だっ!!」
「俊介、剣ぷりーず」
俺は俊介に手を差し出す。殺気にも匹敵する圧で俊介からエネルギーの剣を受け取ると担任の山口の首にあてがう。
「死にたいか、喋んなクソが」
「ま、待て!私は教師だっ!!この中で最も冷静で正しい判断を出来る優秀な人材だぞッ!!殺すなど惜しいとは思わないかっ?!」
「死ねッ!!」
俺は一振り、剣をそのまま山口の首をスパッと落とした。
鮮血、紅く濁ったゲスい血が僕の全身に染み込む。
「置き土産のセンス悪いな、くそ教師」
僕はべっとりした血が付いた頬を拭ってペッと死体に唾を吐く。
「僕がこいつを殺した理由を今から皆が納得するまで話す」
「お、おい...」
「一言で納得するだろうな、船が沈没したのもそもそも修学旅行もそして僕たちがこうして命を懸けてあいつらと戦っているのも全てここにいるこいつとこいつに指示を出したIKSOだからな。」
「「なっ?!」」
全員が驚き、絶句する。
「この壁が崩れる前に全てを話す、まずこの修学旅行の目的地は最初からここだ。僕達は皆、奴らの駒で過去に研究者が生み出したクロス持ちの解明するべく行った人体実験で得た副産物だ、その処理は核爆弾、ガス、硫酸、全てを持ってしても不可能だ。だが、僕達のような科学で証明しきれない化け物じみた力なら?奴らの失敗を今こうして僕達はなんの報酬も頷きもなくやらされている。意味が分からない人もいると思う、だから僕を悪だと殺人鬼だと思ってもいい、嫌ってもいい」
「だが、行動だけは共にさせてくれ」
「な、なぁ...蒼夜。」
俊介が震えながら聞いてきた質問。
「お前、なんで人殺すのに躊躇いが無いの?」
「アシガだと思えばいい」
「それより、今から班を分けたいと思う。」
「僕が決めてもいいかな?」
僕がそう問うと一同は顔を見合わせて僕に命を委ねてくれた。
「沈没した船には極めてアシガは少ないと思う、いや...奴らは新しいものには寄る習性はない、うん、だから戦闘力はベルリア側に偏るけど異論は?」
全員が頷く。
「では、船捜索班は立花、神代、上原、伊上委員長の四名で戦闘時は神代が主力で上原が指示を出して欲しい。伊上委員長はそれ以外の分野でのリーダーを立花は見つけたものを全てここに転送して欲しい、君が最も重要だ。」
「そして僕達の班は分かっていると思うけど残った五名だ。そして今から意識を取り戻した奴らは全員、クロスによって班を別ける」
神代 梨恵のクロスは|インダクト・フューチャーリー《仮定未来現像》、一言で現すなら自身が想像した未来に導くことが出来るクロス。
元より、彼女は剣や刀なといった武具を使用する戦闘が得意でありその上、同等の実力持つ相手との戦闘は心理戦に近い、そこで自身の想像した未来に導けるのは最大の武器になるだろう故に本来ならこちらに欲しいが船で何があるかは分からない故に彼女をあちらに渡す。
立花黎歌のクロスは|エクエフェント・チェンジ《物体転送》、自身の身体より小さくもしくは同等のサイズの物体を自身が見て覚えている場所に転送、もしくはその物体と同等の大きさに限る自身が一度見て触れた物体を交換できる、これはリュック等といった物を必要せずともここに転送できるからかなりの体力温存などに繋がる。
伊上のクロスは知っている通り、コンダクトリミット。対象に制限をかけるクロス、だがこれは自身にもかかる為、使い方を考えなければならない。その点、神代や上原も居るから正直戦闘力はこの班の方が高いかもしれない。
上原のクロスはルクア。既存の水と水分を含む全てを例外なく形状型にすることが出来るクロス、だが欠点として一日に30回が限界でそれを超えると魂が消え、輪廻転生や蘇生が不可能となる。
これが船捜索班のメンバー、万が一にあっても全滅は絶対に無いだろう。
僕達の班は叶、桜木さん、俊介、瀬、僕だ。
叶のクロスはレイディング。自身が五感覚で認識した範囲にいる生命体の心を読むことが出来る。
桜木さんは|クイサリティービジョン《過去視》。自身が触れたあらゆる存在の原因と過程を幻として自身の視界に映し出す。
俊介はエネルギークリエイト。約150kgの質量に耐えられる、軽量のエネルギーを操る。このエネルギーはあらゆる物体に変化出来る。だが、鋭くも速くも熱いわけでも無いので実際使い方で化けるが使い所が難しい。
瀬はオールシェッダー、自身の力と体重の三倍まで重さの万物を軽々と持ち上げたり、自身の三倍以上に重たい万物を押し動かすことが出来るクロス。
僕はアンチライトニング、吸引能力を持つ空間型の球体を出現させるクロス。吸引力は大きさに比例するがゴルフボールサイズが限界の小ささであり、その状態で地球の重力の二倍もの力を持つ、琵琶湖サイズが限界であり、その時点で地球の重力の五倍にも達する。
「俊介、永久的に維持出来る刀創れるか?」
「ま、まぁ刀ぐらいなら別に痛くもないし良いぞ」
俊介の創った薄青色の刀状のエネルギーを神代に渡す。
「自分の見つけたらそれ捨てていいから代用品な。」
「あ、ありがとう......」
「感謝なら俊介に。」
ここがアシガならベルリアを破壊するか生贄の供給を絶たせないと脱出は不可能、つまり僕達はアシガの絶滅かベルリアの破壊の二択だ。結局、どちらを取っても奴らの思う壷だ。
あぁ、イライラする。死ねばいいのにクソジジイ共が。
「じゃあ、四人共気を付けてな、危なくなったら全てを捨ててでも逃げていいから仲間だけは捨てるなよ」
「りょ〜」「分かりました」「うげぇ、歩きたくないよォ」「任せてください」、一名が嫌々な感じだが、まぁあのメンツならクロスだけでもかなり強い。相当なことがない限り、大丈夫だ。
「さて、皆、混乱しているのは分かるけど今は自分の命が優先だし今ここで奴らを憎んでも何も変わらないだろ、いやそういうクロスがあれば変わるかもな。だが、そんなクロスはない。」
俊介と叶がハッ?!と言わんばかりの顔で海の浅瀬の方へと走っていく。
「どうした?」
僕も後を追うと流れ着いたのか少量の飲食物が入ったアルミケースがあった。まるで誰かが僕たちに送ったかのような。
「やった!今、私たちにとって一番大切なものだよ!」
「これ、皆で分けようぜ!それに上原たちも何か持って帰ってくれるだろうし食べ物は安泰かもな!笑」
皆が歓喜し笑っている、今はまだ...。
食とは人間の三大欲求のひとつだ。
食を求めて歩いている時、目の前の子供がリンゴを食べていて自分の手には銃が握られている、そんな場面なら人は大人であれ躊躇いなく銃を撃つ。いや、正確には脅して奪うかもしれない。
だが、結果として食べ物を自身の腹に蓄えようとすることは変わりない。
つまり、この食料が尽きた時、争いが生まれる可能性だってある、それだけは避けたい。
だからといって目の前でアルミケースごと吸い込んで争いの種を消せば皆に嫌われ士気が下がるだろう。
だから、ここはもう既にどちらか二択のデメリットを取らなければならない、ならば今はひとまず消さずにアルミケースの中の食料を持たせとくのが得策だ。
「皆、その食料は持っていこう。歩くのに時間が掛かる、寝ている人は全員、丁度いい...あそこの洞窟に身を寝かせとこう、五名か...二名、二名だけ洞窟で共に看病してくれる人、頼む」
「私が行くよ、蒼夜」
「俺も残るわ、蒼夜...戦闘はお前で十分だろ?」
叶と俊介が残ると言ってくれた、まぁ戦闘と心を読める叶なら相性が良いだろう。
「おっけー、頼んだ。」
「じゃ、僕と瀬と桜木さんがベルリアに向けて行く班だね、行こうか」
僕はふたつあったアルミケースのうち、ひとつの医療キットなども入った飲食物のアルミケースを叶たちに渡して僕達は森の中に入っていく。
「二人とも、体で痛いところとか無い?」
僕は念の為、入ってすぐのところで聞く。
「私は大丈夫だよ。」
「へっ、満身創痍でも俺は蒼夜に着いて行くぜっ!」
うん、満身創痍はヤバいから寝とけよ。
「よし行くか」
「なぁ、神代。」
私は空を眺めながら話しかける。
「どうしました?」
「私な、昔から父親っていうのを知らなくてさ...片親だけの人生を歩んできたんよ。」
「はい。」
「私な、昔...母親が毎日、私が寝てる時間に帰ってきて朝起きたら紙と共に手作りの朝ごはんと弁当とお菓子を置いていってんの。」
「はい。」
「私、母さんに沢山愛されてると思ってんだよ。」
「だって、弁当だって卵焼きとかハートの形してんたんだよ?」
「はい。」
「なのにさ、私こんな事故に巻き込まれてもし死んだら、母さんに合わせる顔も親孝行も出来なくてさ。」
「帰ってきて母さんとまた逢える日があったとしてもなんて顔をしたらいいか...なぁ、神代......神代は真面目だけどいつも両親の前では笑ったりしてんの?」
「えぇ、特別な行事や必要な時は笑っていますよ」
「ちげぇよ、愛想笑いじゃなくて心から自然と笑っちまう事」
「無いですね。」
「そうか、なぁ神代。」
「はい。」
「私たち、帰れるかな?」
「ここで死んだりしないよな?」
何故だろう、視界にボヤが掛かる。
心が寒く震え出す。
身がガチガチに凍る。
《怖いよ》。
「いえ、それは違いますよ。」
「上原さん、私たちは願う力ではなくそれを叶える力を持っています、人とは考え動ける生き物です。世界で最も賢い生き物です。」
「ですが上原さんは馬鹿ですね、馬鹿です。」
「この場合は、私たち、皆で帰ろうな。が正しいんですよ」
神代がそっと私を抱き締めてくれる。
「震える必要も泣く必要もありません、皆があなたの味方であり、あなたは皆の味方になってあげてください、私たちは願う力ではなく叶える力を持っています、今に絶望するのではなく未来に希望を持ち、叶えましょう。」
「うん...ありがとな、神代。私も帰る理由があるし叶えなきゃな笑」
神代はニッコリと笑って頷く。
「その通りです、頑張りましょう。」
神代は笑った、きっと本心だろう。
私もまたニッコリと本心のままに微笑み返す。
「ゲホッゲホッ!!......ここは?」
私は視界がぼやけていくも徐々に回復していく。
床も天井も壁も全てが自然によって出来た石の空間だ。
「叶!一人起きたぞ!!」
「分かってる!今行くから待って!!」
目の前で二人の少年と少女が血汗を垂らしながら私と同じ寝そべっている子達を必死に起こそうと奮闘していた。
「大丈夫か?...任せなさい。」
私は少女の身をどけて目を閉じて意識を失っている少年の胸に強く一度だけ衝撃を与える。
少年はそれだけでは起きなかった。
二度目...三度目......。
「ごほっ!!ごほっ!!...うっ、うぇ"!!」
咳き込みながらうつ伏せに寝返った少年、意識を取り戻したみたいだ。
「君たちは休んでなさい、私を救ってくれてありがとう。」
私たちをここまで運んで今まで必死に起こしてくれていたんだろう、ここが何処かそして何故こうなったか分からない。だがそれはきっと彼らも同じだ。
そんな状況で頑張っている子供を見て大人が床で寝ているなんて許されるはずがない。
子供が見本になるなんて前代未聞だ。
「あ、凄い...船医の方ですか?」
「船医ではないよ、私はあの船の船長を務めていた。」
「後で頭を下げさせて欲しい。」
私は目の前の少女に心臓マッサージをしながら隣に座る少女に言う。
「私の不注意でこのような事態を起こしてしまった、それなのに君達は私までも救ってくれた。本当にありがとう。」
「逸雅...ここは?」
「お、ブレイク起きたか」
二人が話しているのを見て、彼らの落ち着きに驚く。
「げほっ...かはっ!」
私はまた一人、意識を取り戻した少女の胸から手を離す。
「ん...んぅ......」
「姉さん!!」
ブレイク君がたった今起きた少女のもとに駆け寄る。
よく見ると姉弟のように顔が似ている、事実姉弟なのだろう。
「ぶ、ブレイク?...無事だったのね......」
少女は自身の豊満な胸とか細い腕でブレイク君を抱きしめる。
「無事でよかった......あなたが死んだら私...私......」
少女は涙を流しながら、ブレイク君を強く強く抱きしめる。
「俺もだよ、姉さん...」
二人は共に泣き、喜びながら抱き合う。
「ありがとう、ふたりとも。」
「名乗ってなかったね、私の名前は藤川 樂米、先の船の船長をしていた。君たちの命を危機に晒したこと、本当に申し訳ない。」
私はその場で地に頭をつけて土下座する。
「おっさん、気にすんなよ、おっさんのせいじゃねぇからさ。」
「それは?」
「後で話すよ、俺は逸雅 俊介」
「私は白石 叶って名前だよ」
双子姉弟は私を見ると笑顔で名乗る。
「俺はブレイク・カーネット」
「私はアリス・カーネット...見ての通り、私たちは双子の姉弟です。」
「そうか、二人の命を守れて良かった。本当に申し訳ない」
私は再び、ふたりに土下座をする。
「気にしないでください、逸雅さんが言ったことが事実であればあなたは悪くありません。」
「そうだぜ、おじさん。」
皆、私の罪を許してくれると言っている。
涙が私の視界を濡らす、私の犯した罪は殺人だ。
ここにいる子供たちが全てではないだろう、きっと流されて死んだ子供たちもいる。
なのに、被害者である彼らは混乱しているのに私を許すと?...私が犯した罪なのに、私が不注意さえしなければ良かった事故を......。
「失礼を承知で聞いてもいいかな、君達は何者かな?」
「とても普通の高校生とは思えない、普通の高校生ならこの場で混乱して私を殴りたくなるのが普通だと思うが。」
「俺たちはそんなに非道で真実を知らないまま冤罪をかけるような腐った奴らじゃないぞ。」
「そうだよ!私達は希望を願う力ではなく叶える力を持っているので。」
「ふふっ笑 そうですね、私たちは言うなればクロリアでしょうか?」
「カッコイイなそれ!クロス持ちよりクロリアの方が良くね?」
「クロス持ち......それでも君たちは凄い、その心、その身、その勇気、その行動全てが人として、いや人が求めた完璧に達している。君達は凄い、人として私は君たちを尊敬するよ。」
私は立ち上がってダメもとでトランシーバーを着ける。
だが、着くことすらしない。故に言葉を発しても意味は無いだろう。
ただの重りだ、捨てるのが得策か。
私は胸のトランシーバーを捨てる。
「悪いがトランシーバーは使えなかった。」
「おっさん、そんなの使わなくても俺らは脱出できるから安心しな」
「とりあえず...蒼夜達がベルリアをぶち壊すなりなんなりしてくれないと始まらねぇけど」
ベルリア?...今、そう言ったか?。
「逸雅君、聞き間違いじゃなければ今...ベルリアと?」
「そうっす、不幸にも俺らは暴食島に流れ着いたんすよ。」
そこで私の思考は停止した。
──IKSO──
私は強く足音を鳴らしながら、組織の扉を潜って抜ける。
足早に街中へと歩いていく、
───契約書を握りしめて。───
「瀬、お願いだから死なないで...お願いだから帰ってきて......」
私は出る涙を堪えて何かできないかと必死に考える。
だが、金の無いですね私に出来ることなんて無い。
金が無くては船に乗ることもヘリを借りることも島へ向かうことも...救助隊......そうだ、この事故はまだ世間に伝わっていない。
知らせよう、知らせて一刻も早く助けてもらおう。
私は走るように警察署へ向かう。
近道の裏路地などを通っていると、定番の如く腐った男共が私の退路と進路を塞いできた。
「姉ちゃん、俺らと遊ばね?」
「どけ」
「は?いやいや、この状況見たら分かるっしょ?大人しく頷いた方が身のためだよ?」
「邪魔だって言ってんだよ、どけっ!!」
次の瞬間、私の腹に強い激痛が走った。
男の蹴りが私の腹に直撃したのだ、私はクロスを持っていない、それどころか護身術も習ったことがない、喧嘩も弱い。だが、今はこいつらと戦ったり遊んだりしている暇はない。
「げほっげほっ!!...お願いだからどいてよっ!!」
「それは聞けないお願いだね、姉ちゃん。」
男の一人が目線で指示を出すと私の後ろにいた男が腕を拘束してくる。
「もう抗えなくなっちゃったぁ」
「ゲス野郎...!!」
「あ"ぁ"?!!」
男は私の顔に蹴りを放つ。
「あんまでかい口叩くなよ、アマが。」
男は屈むとスーツ越しに私の胸を満遍なく揉んでくる。
「ひゅ〜、おっきいねぇ?」
「ちっ...」
「なんだよ、しけてんなぁ......」
男は立ち上がって靴の先で私のパンツ越しにグリグリといじってくる。
「お前如きが何しても無駄よ、時間の無駄」
「はぁ...おもんな、良いや。この女、殺せ、いややっぱお前らの好きにしていいぞ」
取り巻きたちが私の前に群がってうへへと言わんばかりに近寄ってくる。
「ま、姉ちゃん、俺の愛想尽かしたのが運の尽きだね。死ぬまで犯されてな。」
だが、私にはひとつだけ微かな可能性だが、救いの手があった。
過去に一度だけ、瀬がくれた大切なお守り。
「母ちゃん!俺、母ちゃんのこと、守るから!!母ちゃんのこと大切だから、もし何かあったらこれ使ってな!!俺がすぐに飛んでいくから!!」
キーホルダーのようなサイズのボタンだった。だが、これは瀬の愛が籠った大切なものであり、キーホルダー以上の大きさでキーホルダー以上の価値がある。
私は嬉しさのあまり、瀬の頭を撫でて感謝の言葉を告げる。
「ありがとう。」
「助けてくれるんだよね、瀬」
私は音もなくぶら下げていたボタンを押す。
次の瞬間、取り巻きたちは全員...すっと拳銃を取り出すと
──自分の頭を撃ち抜いた。──
ふぅ、金曜日書こうと思って書こうとしたらそのまま考えたまま寝てしもた、二時間で書けたかな、頑張ったよ。結構今回は色々と凝ったと思う。