第八話「休日」
この学園に入って1週間が過ぎようとしている。
今日は休日なので、バスに乗って帝都の中心街で寮生活に足りないものを買った。
元の世界顔負けに店の数が多かったので、ハンスがついてきてくれて助かった。
ハンスは本当に優しい奴だ。
未だにハンス以外の人間からの態度は冷たいが。
金髪王子のヨハンは冷たくないんだが、なんというか俺を人として見てくれてないようなそんな気がする。
それにしても、1クラスに30人ほどの生徒がいるのに、何故一人しか俺に好意的な人がいないのだろうか。
それは俺がコネで入学したからだ。
周りからはろくに実力もないと思われている。
ハンスから聞いてよくわかったが、この学園の生徒は入学するために幼少から猛烈に努力してきている。
入った後も、努力を積み重ねてきているはずだ。
そこにぽっと出の努力もしてなさそうな奴が急に入ってきたら嫌悪感を覚えるのは当然だ。
俺はここに至るまで死ぬほど努力をしてきているので不本意だが。
ローザが未だに俺のことを敵視しているのもそういう理由だろう。
「リョーマ、五日後にクラスで魔闘会があるの知ってるか?」
ハンスはそう言いながら、コーヒーを飲み、カップを受け皿に戻した。
何となくだが、その動作は洗練されている気がした。
普段は全く着飾っていないが、親が魔石関連の仕事をしており稼いでいるのか、ふとした時にいいとこの坊ちゃん感がでてくる。
俺たちは今、買い物を終えて、帝都で流行りのカフェに来ている。
「何だそれ?」
「何だ知らないのか?月に一度は必ずあるんだぞ。クラス内でトーナメントの模擬戦をするんだ」
「ふーん」
「興味ないふりすんなよ。チャンスだぞ。周りに認めさせる」
確かにちょっと興味がある。
もう少し周りの生徒と仲良くしていくためにも、コネでズルした、実力のない奴と思われているのはよろしくないだろう。
「まあ、クラスの連中と仲良くなる機会かもな。ちなみに、ルールとか、やる場所とかは決まってるのか?」
「やっぱ興味津々じゃん」
ハンスは我が意を得たりといった感じでニヤついた。
なるほど、そうきたか。
「じゃあ、これからは数学の課題は一人で解くんだな」
「……すみません。ちゃんと話します」
ハンスは数学が苦手で俺が課題をうつさせてやる事も多いのでこの手には弱い。
素直に洗いざらい話してもらった。
魔闘会というのは、ルールは平凡なもので、一対一で戦い、相手を気絶もしくは降参させることで勝ちとなり、制限時間を過ぎれば教師の判断で勝敗が決まるものらしい。
そのほかには特に制限はなく、銃などの高威力の武器を除いて武器の使用も認められているそうだ。
銃が出てきておどろいたが、世間では常識の武器で、これもまた、ダンジョンから発掘した魔道具をコピーして作ったものらしい。
ルールついでにクラスで実力のある生徒についても教えてもらった。
ローザは学長が優秀と言っていただけあって、クラスでは二番手の実力だった。
魔術体術共に隙がないという話だが、確かに戦った感じそうだった。
二番手に辛勝だったが、勝てたということに舞い上がりそうになったが、冷静に他の強い奴についても聞いた。
三番手は食堂にいた時に突っかかってきた、ジーク・ホルツマンだった。
応用魔術では炎を操り、近接戦闘が得意らしい。
体術に関してはクラスでトップクラスというのが下馬評だ。
一番手はやはりヨハン・ユーバシャールだった。
戦わずとも強いのがわかる。
あの周りを相手にしていない余裕のあり方からもわかるが、何よりあいつは体を流れる魔素の循環に恐ろしいくらい淀みがない。
淀みがないということは魔素のあつかいに長けていると言うことだ。
未熟な相手だと魔素の流れから次の行動を読めたりするが、おそらく淀みのないヨハンから次の一手を読むのは至難の技だろう。
応用魔術は光を使うらしい。
強すぎて誰も本気を出させてことがないとか。
他の生徒の序列については実力が拮抗しているらしく、特にどの位置にハンスがいるのかで議論が白熱し、気づけば外は日が暮れようとしていた。
「……そういや、お前門限大丈夫なのか?」
「やべ!忘れてたわ!すぐ出よう!」
すっかり、寮には門限があることを忘れていた。
急がないとまずい。
ぬるくなった残りのコーヒーを一気に飲んで急いで店を出た。
ハンスは中心街の高級マンションに住んでいるのでその場でわかれて、俺は急いでバスに乗って寮まで帰った。