第五話「旅立ち」
旅立ちの日がやってきた。編入試験は三日後だが、魔導学園のある帝都はここからかなりあるので早めに出発することになった。
ここまで俺が生きてこれたのはゼノンのおかけだ。
彼には感謝しかない。
「師匠!今まで本当にありがとうございました!」
「まあ半人前くらいはなっただろうし、自信もちな。落ちはせんだろう。頑張ってこい!」
あの鬼のような顔が少し寂しそうな表情をしているのが面白い。
「たまには手紙書くからそんな寂しがるなよ」
「寂しくなんかねーよ。さっさと行っちまいな」
「へいへい」
俺とゼノンは別れの日もいつも通りだった。
帝都までのルートは簡単だ。
二つ山を超えてその先にあるナッサウという辺境都市にくる列車に乗るだけだ。
なんとこの世界には魔導列車という、魔素を蓄える魔石と呼ばれる石を燃料に走る列車があるのだ。
これは、ダンジョンから発掘されたものを復元したらしい。
いかにこの世界がダンジョンからの恩恵を受けているかがわかる。
ゼノンの家を後に、走り出してから30分くらい経った。歩いていては日が暮れるので、魔素で脚力を強化して走り、一気に山を越えたので、ルイベの街が見えてきた。
この街は辺境にあるが、近くで魔石が採掘されるので、ある程度栄えている。
修行の息抜きや、基本自給自足の生活だったが、それだけではまかなえ無いものを買い出しにいったりしていたので馴染み深い。
最初に来た時は中世ぐらいのヨーロッパを想像していたので少し落胆した。
なにせ駅はあるし、車も走っている。
夜には街灯も煌々と光っていて、近代くらいの文明レベルはあるんじゃないかと思う。
これらもダンジョンの恵みというやつだ。
帝都はこれよりもっとすごいと考えると少し楽しみだ。
しばらくして、街の大通りに行き着いた。
ちょうど朝の通勤時間なので人で溢れかえっている。服装はみな似通っていて、近世の西欧の写真に写っていても違和感はない。
通り沿いのパン屋で列車の中で食べる昼食を買い、新聞売りから朝刊を一部買い、駅に向かった。
辺鄙な所に住んでいるので、情報に触れる機会がなく、それを補うために新聞は買うようにしている。
駅に着いてしばらく待つと、白い煙を吹き上げながら魔導列車がプラットフォームに入ってきた。本当に蒸気機関車そっくりだ。
一等二等三等と客車が分かれていて、俺は1番安く人が多い三等車だったので席を確保するために急いで飛び乗った。
6時間程で帝都に着いた。
長時間の移動の疲れが飛ぶくらい帝都の発展度合いに驚いた。
まず建物が高い。
元の世界の高層ビルほどは高くないが、かなり高い。どのビルも20階位はあると思う。
大通り沿いには、ガラス張りのショーウィンドウがズラリと並び、商業施設の多さを実感した。
車の数も桁違いに多い。黒塗りの丸っこい車が多く、昔の時代の洋画の中に入り込んだような気分になる。
心なしか街を歩く人々も洗練されているように見える。
魔導学園は帝都の郊外にあるらしく、バスで1時間ほどらしい。
宿は学園の近くにもあるらしいのでとりあえず、宿を取るため学園行きのバスに乗ることにした。
本数がかなり多いらしく、バス停ではあまり待つことなく、すんなり乗れた。
夕方の時間帯ということもあり、帰宅途中の車が多く、混んでいて、2時間ほど目的地に着くまで時間がかかったが、ゆっくりと街の景色を見れてよかった。
バス停から降りてすぐのところに学園はあった。話には聞いていたが、やはり帝国一の学園はすごかった。規模も大きいし、設備にも金を使っていそうだ。古い時代からあるからか、建築様式が歴史のある感じがする。元の世界で言う、オックス◯ード大学みたいだ。
こんな所に俺は入ることができるのかと少し不安になりつつ、安めの宿を見つけたので早めにチェックインして、休むことにした。
朝から試験があるので早めに寝たのに、緊張からかあまり寝れた気がしなかったが、とりあえず、朝は寝坊する事なく起きれた。
面接もあるらしいので、髪型をかっちり整えてから学園に向かった。
学園の正門に守衛らしき人がいたのので声をかけた。
「すいません、編入試験を受けにきたのですが」
「ああ、君が例の。あの噴水を超えた先にある正面玄関を入って右に受付があるからそこで取り次いでもらうと良いよ」
「ありがとうございます」
守衛の人にまで俺のことが知られてるのか。
そんなに編入試験が珍しいのだろうか。
前例がないのかもしれないと、不安に思ったが切り替えて教えてもらった道を進む。
学生何人かとすれ違ったが、みな制服を着ていた。
黒を基調としたシンプルなデザインで、まだ冬明けで肌寒いと言うこともあり、ローブを羽織っている人もチラホラいる。
学生たちの好奇の目を感じながら受付に辿り着いた。
「編入試験を受けにきました、リョーマクロセと申します」
受付のおばさんに伝えると応接室に通してもらった。
しばらく待っていると、白く長い髭を蓄えた老人が現れた。
眼鏡をかけていて、ローブを羽織った姿はいかにも魔法使いといった感じだ。
「待たせたかの?わしはここの学長をしとる、アヒム・ヘルマンじゃ」
「いえ、今来たばかりです。はじめまして、リョーマ・クロセです」
学長自ら来るとは思っておらず、面食らってしまった。
しかし、それなりに実力のある人だとは思っていた。
会った瞬間、只者でないとわかった。
ゼノンと同じような達人の匂いといか、所作というかそう言うものを感じ取った。
「話はゼノンから聞いておるよ。奴が推薦するくらいだからの。直接会いたかったんじゃよ」
「光栄です」
考えていることが見透かされているのか。
…いや、俺が思ったことがすぐに顔に出やすいだけだろう。
「早速で悪いが、実技試験をしてもらおうかの。それで合否を決めよう」
「…え?面接とか筆記試験は?」
どういうことだ?普通の入学試験ならこの二つも必要だと聞いたが。
「古い友人の頼みじゃしの。それに、わしが直接お主を見て、人間性や知性は我が学園に見合うと判断した」
これが巷で噂のコネというやつか。
正直筆記試験は全く自信がなかったのでよかった。
「まあ、ぶっちゃけ実技試験も必要ないんじゃが、弟子など取らなかった奴の育てた者の実力が気になったのでな」
そう言った瞬間、アヒム学長の威圧感が一気に増した気がした。
このプレッシャーは切れたときのゼノンを思い出す。
二人はライバルのような関係だったのだろうか。
「…ははは。お手柔らかにお願いします」
冷や汗が止まらなかった。