第四話「つまずき」
魔素を使えるようになってから3年経った。相変わらず地獄の特訓は続いているが、お陰でかなり魔素を自由に操ることができるようになったし、魔素が何なのかもおおよそ掴めてきた。
まず、生き物は基本、魔素をまとっており、それによって体を支えている。
普通の生物は魔素を感じることもなく、息をするのと同じように自然に魔素を纏い生きている。
しかし、訓練をする事で魔素を感知できるようになり、さらには、意図的に魔素を纏える量を増やすことができる。
そして、纏う量を増やせば増やすだけ体の強度やパワーが増大する。
それを突き詰めればゼノンのような芸当ができるというわけだ。
夢のような力に見えるが、使える魔素には限りがあり、生き物が貯めておける魔素の限界量を魔素容量というらしい。
ゼノン曰く、俺はゼノンの魔素容量を100とすると1にも満たないらしい。
若いし、修行すればまだ伸びると言っていたが、フォローされたようにしか思えない。
それでも、魔素を纏えるようになったことで身体能力は上昇し、打撃や蹴りの威力も増した。
ゼノンの技術もだいぶものにしてきたからか、組み手くらいはできるようになった。とは言っても防戦一方だが。
「小僧!修行中に考え事とは良い度胸だな!」
本当に一瞬だった。
しかし、その一瞬をゼノンは見逃さない。
頭をガードすることに意識が向きすぎた結果、ガラ空きの腹部に丸太のような太腕がめり込み、俺は吹き飛んだ。
咄嗟に魔素を腹部に多く纏ったが、衝撃を殺しきれなかった。
息ができず、転げ回る。
「まあわしの1割のパンチでその程度なら成長したってもんだ」
内臓を掴まれたような感覚に吐き気がとまらない。
これで1割とか化け物が過ぎる。
人じゃなくて本当に熊か何かじゃ無いんだろうか。
「…どこがだよ。…気持ち悪い…吐きそう」
「カッカッカ。まあようやっとるわい。昔に比べたら大違いだ」
なんか今日はやけに優しい。
いつもなら即修行再開なんだが。
…何か怪しいな。
「…ジジイ。何か隠してるだろ?」
「べ、別に」
ゼノンはスッと目を露骨に逸らした。
「わかり安すぎだろ」
「やかましい!」
ゼノンは都合が悪いと逆ギレするきらいがある。
本当にめんどくさい。
「わかったから、何なんだよ」
「…実は魔導学園は入学試験受けれる年齢が13なの忘れとったわ」
いやいや、そんな大事なこと忘れないだろ普通。
「…俺今15くらいだよ?どうすんの?」
真剣な表情で筋肉ダルマが頭を抱えている。
「…どうしようか?」
「こっちのセリフじゃボケ!」
俺はダルマにドロップキックをかました。
一悶着あった後、ゼノンのコネで編入試験という形をとることになった。
本当にゼノンは一体何者なんだろうか。