第二話「地獄の始まり」
聞いたことのない鳥の鳴き声で目が覚めた。
早朝よく聞く、ハトに似た鳴き声なのだが、リズムが若干違う。
突っ込みたくなるような変な鳴き声だ。
...いや、そんなことはどうでも良い。
ここはどこなんだろうか。
起き上がってあたりを見回した。
かなり広い部屋が広がっていた。
壁は丸太を積んで作っているようで、この部屋はログハウスのようなものの一室なのだろう。
暖炉もあるようで、パチパチと音を立てて部屋を暖めている。
どうやら俺はこの部屋のソファーの上で寝ていたようだ。
もう何が何だかわからなくなってきたので、一度状況を整理する。
俺は別次元の世界に飛ばされた。
あれは夢ではないだろう。
記憶もない。
覚えているのは黒瀬涼真という胡散臭い男から伝えられた自分の名前のみだ。
そもそもあの男は何者なのだろう。
明らかに人間ではないのは確かだ。
表現しづらいが、人より格が上というか、高次元の存在というか、神という表現がしっくりくる。
ふざけた話だ。
ともかく、神とやらが、勝手に訳のわからない理由で俺を別次元の世界に送り込んだのだ。
いわゆる異世界転移という奴だ。
こう言った状況で物語の中では神が力を与えてくれて、魔法が使えるようになったり、超人的な怪力を得たりするものだろう。
しかし、手を掲げて、いでよ火の玉と念じてみたり、口に出したりしてみるがなんの反応もない。
他にも、小指でテーブルを持ち上げたりできるんじゃないかと試してみるが小指どころか、両腕を使っても持ち上がらない。
…待てよ。
両腕で何故持ち上げられないんだ。
記憶にない自分の体がどれだけ貧弱なのだろうと近くに鏡があったので覗いてみると――写っていたのは子供だった。
…いや、おかしい。
そんなはずはない。
もし俺が生前子どもだったのなら、これほどの思考はできないはずだ。
ならば何なんだ。
あの神の仕業か。
本当に腹が立つ。
見ず知らずの世界に子どもの体で放り出すなんて殺しにきているとしか思えない。
しばらく、鏡の前で呆然としていると、ガチャリと音がして、男が入ってきた。
天井に頭がつきそうなほど背が高く、筋骨隆々の大男だ。
長い白髪と顔に刻まれた多くの皺から老人と思われるが、黒く鋭い目からは晩年のそれと感じさせないほどの生気を感じる。おそらくこの家の家主だろう。
目が合うが、下手なことを言えば殺されそうなので、何を言うべきか迷う。
まず挨拶から入るべきか、それともこの家に居させてもらっていることに対する礼を言うべきか。
というか、そもそも言葉は通じるのだろうか。
小説の中ではこう言った状況の時、すんなり通じるのだが、あの神もどきがそんな融通をきかせてくれるだろうか。
……流石に言葉も通じなければ生きていくことは不可能だから大丈夫だろう。
そうこう考えていると、老人は沈黙に耐えかねたのか声をかけてきた。
「☆¥2%°♪€%#°%8¥♪☆」
……全く何を言っているのかわからない。
安易な考えを持っていた自分を殴りたい。
あの神がそんなに気を利かせてくれるはずがないのだ。
「☆♪$¥%%☆♪¥$°#々〆〒1♪!」
さて、どうしようか……