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魔王相談室  作者: 千人
2/2

迷いの森の住人

「魔王様、先代からお手紙が来ています」


 そう言って凛から手渡された手紙。

裏返した差出人の欄には『ワシ』などとふざけた名前が書かれていた。

……うん、これは間違いなく先代魔王ですわ。


「重要な内容らしく、旅行先から神風ガーゴイルの速達便で今朝届いていました」

「重要ねぇ……」


正直なところ、先代魔王はかなりいい加減だと評判だし、毎回ろくでもない事ばかりやらかしてくれるので関わりたくないのだが……。

手紙が届いたとなれば読まないわけにもいかないよなぁ。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

――背景、吾輩の後釜殿。

毎日仕事頑張ってる? 

多分超絶ダルイと思うけど、まぁ、紛いなりにもお前も魔王なのだし死にゃしないだろうから大丈夫じゃろ。

――ん? いや、そんなこともないか?

ま、色々と注意事項はあるが書くの面倒だから凛に聞いてくれ。

死んだら死んだで凛がどうにかするから心配するな。

安心して死ぬまで働いてくれ。

そんで、ここからが本題なんだが、さっき勇者の親と話しててな?

迷いの森の難易度が異常に高いらしい。

ここ数カ月、勇者が一度も突破できていないらしいぞい。

とりま、さっさとちょうどいい具合にやっといてくれ。


――追伸

帰るとき蟹とイクラ持って帰るから楽しみにしておけ。


親愛なる先代魔王より。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「……何だこれは」


手紙には勇者一行とその両親、そこに先代魔王一行も加えた集合写真が添えられていた。

先代魔王の字で『ずっともだよっ!!』とか恥ずかしげもなく書いてあるのが腹立たしい。


「先代は現在、人間界に旅行中だそうで勇者宅に泊まらせていただいてるそうですよ?」

「なんでだよッ!? なんで勇者と魔王が家族ぐるみで仲良くしてんだよ!」

「今はグローバルな時代ですからね。魔界と人間界が交流するぐらい普通かと」

「いや、普通じゃねぇだろ、異常だよ! 勇者こないだも攻めてきてたって聞いたぞ、俺は!」

「勇者は死んだところで教会で復活できますからね。スポーツ感覚なのではないでしょうか?」

「スポーツ感覚で魔王倒しに来るとか勇者の思考悪魔過ぎるんだが……」


魔界と人間界の関係ってそんなだったか!?

互いにいがみ合い魔王軍は人間界を侵略し、人間界は勇者をもって対抗しているという話ではなかっただろうか?


「歴史書にも魔王と勇者はもっと血生臭い関係性だと記してあったぞ」

「先代がその方がカッコいいからと歴史家にそう書かせたそうです。あの方の命令を無下にできる者などそうはいませんから」

「害悪すぎるパワハラを見た……」


先代、噂以上に滅茶苦茶じゃねえか。


「手紙に迷いの森の難易度高いとか滅茶苦茶なこと書いてあるんだが?」

「一向に進まない勇者にご両親がご心配になられたのでしょう」

「それを聞いて魔王が突破しやすくするっておかしくね!? それだと簡単に魔王たる俺を倒せるようにするってことだよ!?」

「まぁ、いいじゃないですか。魔王様がやられても、フフフ……あの魔王は魔王四天王の中でも最弱……魔王の面汚しよ。なんて言われるだけです」

「よくねぇよっ! ――っていうか先代以外に魔王いんの!? 魔王四天王ってそれもはや魔王じゃねぇじゃん!」


 凛はフフフと不敵に笑うだけでそれ以上教えてくれない。

……マジであと三人もいるの、魔王?

嘘だといってよ、リンリン。


「ガウル様が何と思おうが先代の要望ですし無視するわけには参りません。しっかりと仕事して解決なさってください」

「解決しろと言われても……」


迷いの森ってあれだろ?

侵入者を複雑な地形と魔術で惑わすっていう。


「そのことであれば心配いりません。迷いの森の難易度が跳ねあがってしまっている原因は判明しております」

「そうなのか?」


難易度が跳ねあがっているってことは今は普段とは違うってことか。

今更だが、俺魔王なのに届く情報間違ってるわ、そもそも耳に入っていないわで色々とおかしい気がするんだが。


「魔王様の足りないの脳みそで考えるのは効率が悪いので、私の話を耳をかっぽじってよく聞いてくださいね」

「……もしかしてお前、俺への情報を遮断したりして――――」

「タイミングの良いことに、今日来られる相談者は迷いの森の件で来られているのでこれを解決すれば一石二鳥です」


コイツ俺の話聞かねぇッ!!

魔王の話遮るってどういうことだよっ!?


「……凛よ」

「なんでしょう?」

「俺は魔王だ」

「わかっていますよ。もうボケられたのですか? 認知症にはいささか早すぎるかと」

「違うわっ! 俺はお前の上司だって言ってるの!」

「私は秘書として魔王様の仕事が円滑に進むよう管理しているだけです――魔王様自身も含めて。不要とあれば役職を剥奪して下さって構いません。そうなれば魔王様のスケジュール管理はもちろん、魔界の各エリアへの情報管理、魔族同士の大きな対立を防ぐ仲介、人間界との外交をはじめその他もろもろを私の代わりにこなす方をご自分で探して下さいね。私は困りません」

「すみません。これからもよろしくお願いします」


魔王が頭を下げていた。自分の部下に。

無様としか言いようがない男がそこにいた。まぁ、俺なんだが。

不満をぶつけるには今の魔界はこのサキュパスに頼り過ぎていた。

凛が秘書を辞めようものなら現魔界の管理体制は一カ月と持たず崩壊するだろう。

……ああ、ほんと魔王辞めたい。


「――ごほん。それでは今日の相談者に入ってもらっていいですね?」

「……はい、よろしくお願いします」


 凛がちびデビルに指示を送ると、間もなく部屋の扉を叩くノックが聞こえてきた。


「入れ」

「――失礼する」


 渋い声と共に部屋に入ってきたのは筋骨隆々のそびえ立つ様な大男。

……いや、大男と言っていいのだろうか?

まるでローションでも塗りたくっているのかと問いたくなるようなテカリを放つ、太過ぎる上腕二頭筋に大腿四頭筋。そんなマッスルアピールが留まるところを知らない腕と足がキラキラとデコレーションされた大きな箱から生えていた。


「こちら、最近迷いの森に住居を移されたミミックさんです」

「それがし、ミミックと申すもの。本日は相談事があり参上仕った」


……何だこの圧迫感。剥き出しの筋肉の圧がすごいんだが。


「お嬢っ! 魔王様の御前まで参りましたぞ! ご挨拶をっ」

「……?」


 ミミックがコンッコンッと自分の箱の横をノックする。

このミミック誰と話してる? あの箱の中に誰かいるのか?


「ついた?」

「着き申した」

「――ん」


 すると、ミミックの蓋の部分が少し開き、そこから覗くようにして少女のトロンとした気だるげな瞳がこちらを見た。


「魔王」

「お、おう」

「むふぅ……」

「…………」


……えっ? それだけ?

この沈黙はナニ? 俺が何か言うタイミングだった?


「……お前はどうしてそのミミックの中に入っているんだ?」

「快適」

「…………」


何なんだこいつは。まともに会話する気はないのだろうか?


「申し訳ない魔王殿。お嬢は少々口下手ゆえ」


少々どころではないと思うのだが……まぁいい。


「魔王様、ミミックさんの中に住んでおられるのはみみたんです。本日の相談はこのおふたりからお受けいたしました」

「そういうのは客人を招く前に言ってほしいんだが……」

「善処します」


いや、そこは普通に次からはキチンと伝えますぐらい言ってほしいのだが。

コイツのことだ伝え忘れたなんてことはないだろう。意図的に教えていないに違いない。


「相手のことを知っていればこちらも準備ができる。次からは絶対に事前に情報伝達してくれないか?」

「気が向きましたら」


先生っ! 俺は今自分の秘書からいじめを受けていますッ!


「それではミミックさん。相談内容を改めて魔王様にお伝えしてもらえますか?」

「――承知した。お嬢の為、座らせていただく」


 そう言ったミミックが膝を曲げたかと思えば、その筋肉の塊のような足はどこへともなく消え失せ、絨毯の上に鎮座した宝箱から生えた腕がその蓋を自ら開く――そこには体育座りをし、伸びたノースリブを着た藍髪の可愛らしい少女がいた。


「――お嬢。魔王殿に事情を話しましょう。お出になってください」

「いやだ」

「お嬢っ、ここ一カ月、それがしから一歩も出ていないではありませんか! そう運動不足では身体を壊してしまわれますぞ!」

「壊してない」

「今は大丈夫でも将来が心配なのですっ!」


 まるで引きこもりのお嬢様と外出を望む主人思いの家臣の会話が目の前で繰り広げられていた。

その子一カ月もそこから出えてこないの? 引きこもりレベルが高すぎる。


「お嬢っ! またそんなゲームばかりしてっ! 目が悪くなりますぞ!」

「悪くなってない」

「いずれなると申しておるのですっ!」


 ミミックが説教をしているが、みみたんとか言うらしい少女は意に介さない。

相談とか言いながらこの娘ゲーム始めちゃったんだけど……どうするの、これ?

凛を見るが私はしませんよと言いたげに表情一つ変えない。


「魔王、相談」

「えっ?」


ミミックが何やらみみたんの将来への心配を話しているがそれをガン無視して突然俺に話しかけてきた。


「勇者邪魔」

「――は?」

「お嬢は迷いの森での生活において勇者が邪魔だといいたいのでしょう」

「――というと」

「昨今、迷いの森への勇者一行の侵略が多く、お嬢共々、我々はうんざりしているのです」

「勇者鬱陶しい」


ミミックの言葉にみみたんが相槌を打ち頬をぷくっと膨らませている。


「それがし、普段はお嬢と共に迷いの森の隅であったり、隠し通路の先、木の陰に隠れた洞に居を構えているのですが、勇者ときたら迷いの森を通過するのに必要ないにも関わらずわざわざ某らが隠れる場所に赴き、それがしの箱を開けに来るのです。時には出口を見つけたにもかかわらず引き返し、開けに来る。そのたび蹴散らしてはいますが埒がありませんッ! この某らの平穏を脅かす悪鬼、勇者! どのように思われますか、魔王殿っ!」

「うーん……」


それって――……。


「勇者はいわゆるマップ探索をしているようですね」

「やっぱりそうだよなぁ」


マップ探索。今の勇者はエリア内の隅々まで見て、アイテムを漁りつくした後に次のエリアへと進むつもりなのだろう。それにしてもこのミミック、何度も蹴散らしたって何気に相当強いんだな。


「ミミック、お前普段はその箱の横から出ている腕を見えなくしていたりするのか?」

「ん、そうですが……どうしてそれを?」


……やはりか。勇者たちは外見からミミックを宝箱と勘違いして接敵し返り討ちにあっている。先代が難易度がどうだ言っていたのはこいつらが勇者を追い払っていたのが原因か。

魔王としては勇者の行く手を阻む優秀な部下がいるということなので嬉しい話なのだが……難易度下げろとかホント先代滅茶苦茶いう。


「勇者はお前の中に宝があると勘違いしてお前を開けに来ている。腕か足を出した状態にしておけば勇者も無暗に開けには来ないだろう。何度もお前たちにやられているようだしな」

「なるほどっ! そういうことでしたか! それではこれからは今のように腕を出していることにいたしましょう!」

「ああ、そうしてくれ」


これで先代の難易度を下げろという要求も、ミミックたちの勇者による平穏を乱れを防ぐという相談事も解決はしたわけだが、これで勇者が俺を倒しに来やすくなったと思うと複雑だ……。


「お嬢っ! 某らの平穏も保たれますぞ!」

「定期的な腕出し求む」

「承知っ!」

「ん――? みみたん、それだとまた勇者が来るかもしれんぞ?」

「勇者美味しい。たまに食べたい」

「……は?」


……食べたい? この娘は何を言って――――……。


「お嬢っ! 動かないのに毎度あれほど食べていては太ってしまいますぞ!」

「太ってない、大丈夫」

「まぁ、これからは今までより頻度も下がるでしょうし、これについては心配いらぬかもしれませんな。カーッカッカッ!! 魔王殿っ、知恵をお貸しくださり、ありがとうござい申したっ! それでは失礼いたすっ!」


 唖然とする俺をしり目にミミックとみみたんは部屋を出ていった……。


「……凛、食べるって?」


ふたりが去り、静まり返った部屋で俺は凛に問いかける。


「みみたんは雑食のようですね」

「あの愛らしい見た目で人食いとかグロテスクすぎるんだが……」

「あのような見た目でも魔族ですから。箱入り娘は勇者を食う……なかなか刺激的なフレーズです。映画化したら面白そうですね」

「サスペンスが展開されそうなタイトルだ」

「なんなら魔王様もサスペンスな人生を歩んでみますか? すぐに準備いたしますよ?」

「急に怖いこと言わないでくれる!?」


 迷いの森の人食いミミック。

後から聞いた話だがミミックとみみたんは近くの村でそんな風に呼ばれていたらしい。

そして何より俺を驚愕させたのは勇者にとって脅威の存在であったのは筋肉マンたるミミックではなく、その中に住み着いているみみたんであったこと。

この経験で俺は人を見た目で判断するべきではないと改めて実感したのであった。

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