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戦う意思は誰が為か  作者: じりゅー
二章 交渉の行方
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八話 無責任な提案

 ここ数か月、彼女とは何度も話をしてきたが、流石に無茶を承知の意見を言うとなればどうしても緊張してしまう。

 相手がどれだけ気安い相手でもそれは変わらない。程度は変わりそうなものの、全く緊張しないわけではない。


「よ、よう、皆藤…昨日は助けてくれて、ありがとな?」


 翌朝、俺は教室で皆藤にぎこちなく話しかけていた。

 そんな挙動では警戒されてしまうと言うのは分かる。だがどうしようもなかった。


「…うん、あの後も無事だったみたいだね。」


 内容はともかく、案の定不機嫌そうな声音、いや警戒しているのだろうがそうとしか聞こえない声が返ってきた。

 臆する訳にはいかない。平常心を保たなければならない。

 そう自分に言い聞かせて、会話を続ける。


「まあな。

 あの人は…まあ、悪い奴じゃなさそうだったよ。だから別に何もされてない。俺を呼び出したのも、結局は本当にただ話したかっただけみたいだった。」


「…場所、変えよ。屋上で良い?」


「ああ、分かった。」


 これ以上教室でその話題を続けるのは危険だと判断したらしく、皆藤は席を立った。俺ももちろん付いていく。

 この学校の屋上は閉鎖されておらず、解放されている。飛び降り防止のフェンスが景観を損ねてはいるが、昼休みにはいくつかのグループが昼食を摂っているのが見られるので結構人気なスポットのようだ。

 しかし始業前や放課後は人気が少ない。朝はわざわざ屋上に行く理由なんてないだろうし、放課後は部活か帰るかの二択だからだろう。稀に告白なんかに使われているかもしれないが、俺はそんなの見たことないし知ったこっちゃない。

 そんな訳で屋上。やはり誰も居ない、念のためどこかにかくれんぼしてる生徒が居ないか確認してみたがやはりいないようだった。時間の無駄でした。


「確矢は悪い人じゃないって言ってたけど…昨日、見たでしょ?

 あの人は躊躇なく人を殺した。そんな人が善良だなんて思えないよ。」


「その点だけを見ればそうかもな。けど、あの人にも事情がある。

 嬉々として人殺しをしてるって訳では無さそうだった。むしろ怖がってたって感じだった。」


「怖がる?」


「ああ。自分がどうあれ、相手の方が遠慮も躊躇もなく殺しに来るってさ。

 皆藤は無かったのか? 他の能力持ちと戦った事。」


「いえ…能力に目覚めたのがつい最近だったから。」


「あの人は言ってたよ。例え対抗できる力があっても、自分を本気で殺そうとしてる相手と戦うのは怖いんだって。

 聞いた時はよく分からなかったけど、考えてみればそうだよな。誰かがナイフを振り上げて襲ってきたら怖い。例え同じナイフを自分が持っているとしてもな。」


「……」


 俺の言葉に共感出来る部分があったのだろう、皆藤は黙り込んだ。

 あと一押しか…?

 微かな手応えを覚えながら言葉を続ける。


「皆藤。

 確かにあの人は、お前が言った通り完全に善良な人って訳じゃないかもしれない。

 だけどあの容赦の無さは必要に駆られてのものであって、決してあの人が人を殺すことに喜びを感じて、進んで殺してる訳じゃないんだ。

 お前にはそれを、どうか理解してほしい。」


「……それは、あの人と戦って欲しくないから?」


「…ああ。」


 皆藤の指摘は間違いではなかった。

 本心では2人が戦って欲しくない。いや、2人が他の誰かと戦うのも嫌だ。

 皆藤はもちろん、氷倉のお姉さんにも同じことが言える。好きな人の肉親だから、と言うのもあるかもしれないが他人のふりをするにはあまりにも彼女を知りすぎた。

 戦いに対する彼女の苦悩は、聞いていて辛いものがあった。


「そんなの無理だよ。能力持ちが最後の一人になるまで戦いは終わらない。

 だから、もし私とあの人だけが生き残ったとしてもどっちかがどっちかを倒さなきゃいけない。それはどうあっても変わらないよ。」


 それは分かっている。

 二人は既に戦いに巻き込まれ、そこから抜け出すことは出来ない。

 抜け出す方法はただ一人生き残るか、敗北して消える事だけ。だがそんなこと望めないし、そうなってほしくない。


「じゃあ、その間だけでも良い。組んでくれないか?

 お前とあの人が協力して、他の能力持ちを倒すんだ。

 皆藤が何のために戦おうとしてるのかは分からないけど…死んだり消えたりしたい訳じゃないだろ?

 あの人は叶えたい願いが無いって言ってた。だからもし願いが叶えたいなら、きっとあの人はその権利を譲ってくれる。

 …どうだ?」


 いかにも交渉するように言っているが、それはほぼ懇願だった。

 分かっている。皆藤の彼女に対する第一印象は最悪だ。

 躊躇なく人を殺せる奴なんて信用できない、なんて言われても仕方がない。

 だが俺はどうにかこの和睦を結ばねばならない。2人の為、ひいては他ならぬ俺自身の為。

 二人が組めば一人一人で戦うよりも強大な敵を倒せるし、効率が良い。

 それに、昨日の男に対する一連の攻撃がそう言っている。彼女らはきっといいコンビになれると。


「一つ、確矢に確認したいことがある。」


「なんだ?」


「もし、あの人と私が対立したら…確矢はどっちにつくの?」


「………分からない。」


 少し考え、この場では答えが出ないことだけが分かった。

 決して逃避ではない。

 状況にもよるかもしれないが、どちらかを選ばねばならない場面で俺がどう出るかなんて想像できなかった。

 もしも皆藤と氷倉姉の2人が戦っていたとしよう。

 皆藤がピンチで氷倉姉が優勢だった場合。俺は皆藤を助けるだろう。

 しかし、もし戦況が逆だった場合…俺が助ける相手も、逆になるだろう。

 例えその一手で勝負が決し、どちらかが消えてしまうとしても。


「確矢。」


 返されたのは鋭い視線だった。

 嫌な予感だけを感じ、決裂かと考える前に続きを聞かされる。


「もしかして自分だけ蚊帳の外だと思ってない? もしそうなら考え直して。

 共闘って話を確矢が持ちかけてる時点で、確矢には責任がある。決して無関係でも蚊帳の外でもない。

 その割にはいい加減すぎる。そう言う時自分自身がどっちを優先するかなんて決めておかなきゃ駄目でしょ。

 …まあ、あの人を優先するって言ったら正直信用できなくなるけど。

 選べないって言われる方がよっぽど信用できない。それくらい決めて出直して。」


「皆藤…」


「じゃあね。私はそんな話乗らないから。」


 ……そりゃ、そっか。

 皆藤が言った事に反発する気にはならなかった。俺自身が納得してしまったからだ。

 俺は2人を尊重していると思っていたが、大きな勘違いだった。

 逆に、どちらも軽視し過ぎていたのだ。

 どうあっても俺は願い事を叶えられず、戦いに参加して戦力となることも出来ないから他人事のつもりで居過ぎたのだ。

 俺は所詮知り合い同士だから争い合って欲しくなかったというだけ。誠意が足りなさ過ぎる。そんな勧誘に乗る訳が無い。

 もっと真剣に考えていれば、皆藤は了承してくれたのだろうか。

 ああ言ってしまった手前、氷倉さんのお姉さんにはなんて言えば良いのだろうか。

 俺は肩を落としながら、誰も居なくなった屋上を後にした。


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