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戦う意思は誰が為か  作者: じりゅー
第一章 そして戦禍へ
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六話 交渉

「ふーん…なるほど。」


 一度コーヒーに短く口を付け、話を続ける。

 彼女――氷倉雹華が案内したのは、奇しくも昨日妹の零華が案内したカラオケ店だった。

 姉妹なだけに思考回路も似通っているのだろうか。しかし、皆藤の前での態度を見ると…いや、今は良いか。


「城野さんが能力に詳しいのはそのせいだったのね…

 にしたって、警戒心が欠けてるって言うか、人を信じすぎてるって言うか…まあ、それが零華(あの子)の良さでもあるんだけどね。」


 警戒心?

 氷倉さんが事情を話したのは罪悪感から来るものだろう。全く関係ない一般人をよく分からない戦いに巻き込み、最悪手にかけていたかもしれないのだから。

 しかし、それが警戒心の欠如と関係があるとは思えない。


「信じすぎてるったって…俺、能力なんて持ってないですし。妹さんからすれば脅威でもなんでもないじゃないですか。」


 能力を持っている零華にとっては一般人など脅威でもなんでもないだろう。

 俺が何かしようとしたところで返り討ちに遭って終わりだ。


「その調子なら聞いてなかったみたいだから言うけど、能力っていつ目覚めるか分からないんだからね?」


 …?


「…分かってないみたいだから言うけど、つまるところ貴方もこれから能力持ちになる可能性があるってこと。

 将来敵になるかもしれないって言うのに、自分が能力持ちだってホイホイばらして。あろうことか能力を使う条件まで教えるんだもの。警戒しなさすぎって言いたくもなる。」


 …そうだったのか。

 確かに俺は、彼女がいつ能力に目覚めたかなんて全く考えてなかった。

 いや、衝撃的な場面を見てしまって、荒唐無稽な話をされていっぱいいっぱいだったというのもあると思うが。


「それに…貴方が能力持ちの人間と無関係とは限らない。」


 思い浮かべたのは厳しい表情を浮かべた皆藤の顔だった。

 知らなかったとはいえ、確かに俺は能力持ちの関係者…というか友人だった。そいつの為に動く協力者かもしれない、なんて疑いをかけられても仕方ないだろう。

 ……ん? 待てよ?

 俺も相当に警戒心欠いてない?

 さっきのやりとりで俺、皆藤の知り合いだって思われてるよな…

 能力で脅されて皆藤の能力を話せとか言われても、殺される以外の選択肢が無いぞ?

 ………

 滅茶苦茶逃げたくなってきた。主な理由は氷倉さんの事だったけどきれいな人だし氷倉さんのお姉さんだから付いて行こうだなんてちょっと考えちゃってごめんなさい。誘拐された子供とかってこんな気持ちなのかな…


「一応言っておきますけど、皆藤が能力持ちだって知ったのはついさっきです。

 どんな能力を持ってるか分からないし、その使用条件も知りません。

 なので拷問とかされても死ぬ以外何もできませんので…殺さないでください。」


「そんなことはしないから安心して。

 ただ純粋に妹と城野さんの間に何があったのか気になっただけ。

 それに、さっきの様子を見るに本当に知らなかったみたいだから。知ってたら脅しの一つはしてたかもしれないけど。」


「そうでしたか…ん? 脅し?」


「それも一回だけ、後は強制しなかったと思う。

 流石に、私も能力持ってない人は傷つけたくないから。」


「…じゃあ、能力を持ってる人なら傷つけても良いんですか?」


 脳裏に浮かんでしまった。

 この人が皆藤と戦い、とどめを刺す様を。

 さっきの男にしたように、冷酷に。


「……私だって本意じゃない。けど、相手はそんなのお構いなしに殺しに来る。

 だから、仕方ないの。

 私だって消えたくない。死なないって言っても、消えてる間どうなるか分からないから怖い。

 もしかしたら死なないって言うのは嘘で、本当は死ぬのかもしれない。

 そう考えたら負けられないって思った。

 それに、死ぬ死なない以前に、自分を殺そうとしてる相手と対峙するのは恐ろしいものよ。例え、対抗できる力があるとしても。」


「………」


 そういう物なのだろうか。

 いや、考えてみれば確かに恐ろしい話ではあるが…

 …もしも、その時が来たら。

 もし俺の命が狙われていて、俺が殺さなきゃ殺されるという状況になったら――

 ――俺は人を殺せるのだろうか。

 躊躇すれば自分が死ぬと、分かっていても。

 カッとなって、というように案外その時が訪れればサクッと出来てしまうのかもしれない。

 禁忌を犯す直前になって恐怖し、一線を踏み越えられないかもしれない。

 結局のところ、その時になってみないと人間と言うのは分からない。

 そう言う時に現れる本性と言うのは自分でも分からない程巧妙に隠されている物だ。今はいくら考えても意味がないか。


「俺としては、氷倉先輩も皆藤と仲良くしてほしいですけどね…」


「ぬるいわ。

 能力持ち同士の協力なんて成り立たない。いつ後ろから刺すか分からないパートナーなんていらないもの。

 勝ち残れた時の恩恵が大きすぎるし、そもそもこの戦いは一人しか生き残れないからいずれ戦うことにはなるんだから。」


 なんでも願い事が叶う。

 誰にとっても魅力的な報酬だ。誰だって裏切りもするか。


「恩恵…そう言えば、先輩はなにかお願い事があるんですか?」


「…そう言う訳じゃない。

 出来ることなら戦いたくないし、そんな権利なんて誰かに渡していい。

 だけど、消えるのは嫌。

 私はただ、死にたくないから仕方なく戦ってるだけ。」


 …先輩には願い事が無いのか。

 それなら。


「だったら、交渉の余地はあるんじゃないですか?」


「え?」


「願い事を相手に譲るという条件で、一時的な共闘を頼んでみませんか?

 皆藤がどんな願いを持ってるのか、あるいは先輩みたいに願いが無いのかは分かりませんけど…話すだけ話してみるのも良いと思うんです。

 もし先輩にその意思があるのなら、俺が話を通してきます。信用できないというのであればそれでいいです。この話は無かったことにしますから。

 でも、もし共闘の話が通ったら生存率は高くなるはずです。

 一緒に戦うまでいかなくても、情報の共有と双方向の不可侵の約束が出来ればそれだけでお互いに戦って消えるリスクは無くなる。

 悪い話では無いと思うんですが、どうでしょう?」


「……私が信用できないから、無理。」


 …駄目か。


「…私は、誰も信用してはいけないの……」


「誰も? それってどういう…」


「……忘れて。

 とにかく、他の能力持ちと共闘なんて無理。諦めて。」


 他の、能力持ちと…それなら。


「じゃあ、俺は?」


「…?」


「俺ならどうですか?

 俺は能力持ちじゃないから裏切る必要も無いし、そんな心配をしなくて済む。」


「能力持ちじゃないなら、戦いに巻き込めない。

 この戦いでは能力持ちは死なないけど、それ以外の人は一度能力を受けただけで死ぬかもしれない。しかも、戦いが終わっても復活しない。

 それに…そもそも貴方にはこの戦いに参加するメリットが無い。

 お願いを叶えられる訳じゃないし、戦わなければいつも通りの生活が出来る。」


「メリットならあります。それに、もういつも通りの生活も出来なくなってます。」


「…どういうこと?」


「この町の行方不明者の中に…俺が好きな奴がいるんです。」


「……!」


 表情が変わった。

 彼女の動揺に畳みかけるよう、俺は続ける。


「その人は、多分俺のことなんか眼中になくて…確実に俺の片思いなんですけど。

 それでも彼女が居なくなった時は辛かった。

 会って話したい、仲良くなりたいって気持ちはありますけど、そこまで高望みをする気はありません。

 この戦いが終われば、彼女は帰ってくる。

 そしたら、彼女自身の日常に帰ってきてくれればいい。

 ほっといても終わる戦いかもしれませんが、なるべく早く終わらせて、帰ってきてもらいたい。できれば俺の手で。

 それが俺の願いで、戦いたいって理由です。」


 …かなり綺麗事を言ってしまったが、引かれないだろうか。

 好きな人の為とは言え、その想いは一方通行。くさいし重いと言わざるを得ない。しかも嘘ではないのだがかなり盛ってる。実際は高望みしまくってます。


「………」


 ………ん? なんか顔を手で隠し始めたぞ?

 何? あの下では必死に笑いこらえてるの? 甘酸っぱー、なんだこの青春野郎とか思ってるの?

 怖い。先輩の反応が怖い。

 なんて戦々恐々としていると。


「……した。」


「え?」


「感激した!

 まさか今時こんな真っ直ぐで良い男がいるなんて…! ああ、良いそう言うの! 私そういうの好き! たとえ思いが届かなくてもみたいなのめっちゃくちゃ好き!!」


 え、何この反応…先輩もっとクールなキャラじゃなかったっけ。

 怖い。先輩の反応が怖い。さっきとは別の意味で。


「是非協力させて! いくらでも能力持ち倒すから!」


「ひぃ!?」


 急にガッって手を掴まないでください、ガチな悲鳴出ちゃうから。って言うか出ちゃった。


「……そういうことだから、協力する。」


 あ、我に返ったっぽい。


「ただ、皆藤さんと共闘する気は無い。私だって裏切られるのは恐いし、向こうだって私を躊躇なく人を殺せる危険人物だと思ってるだろうから。」


 あー、そんな感じの目で見てたっけな。

 じゃあ元々共闘の話は無謀だった訳か…


「そうなると、貴方は皆藤さんにとっての裏切り者ね。」


「え?」


「だって、私に協力するんでしょう? そして、私もお互いに組む気は無い。

 つまるところ、貴方は皆藤さんにとっての裏切り者じゃない。」


 あ、そうか。それはそれで嫌だな…

 けどもし皆藤に肩入れしたとして、お姉さんと敵対したって聞いたら氷倉さんどう思うかな…

 ………まあ、考えないでおこう。皆藤に関しては不干渉。手助けも直接的な害も加えないってことで…


『確矢、大丈夫!?』


 ………


「…先輩。やっぱり共闘の話、考えておいてください。

 俺、なんとしてでも皆藤を説得します。一人より二人、二人より三人の方がより早く終わらせることができるはずですから。」


 やっぱり、それは駄目だ。

 心配して貰って、助けて貰って見捨てるような真似は出来ない。

 例え友人と言えるかどうか分からない薄い繋がりだとしても、こんな戦いのせいで絶ちきられるなんて御免だ。


「本当に、出来る?」


「します。だから、氷倉先輩もお願いします。」


「…善処はするけど、期待しないで。」


 …不安が残る答えだが、多くは望むまい。

 今は皆藤への交渉が上手くいく事を祈るばかりだ。


「一応連絡先を交換しておきましょう、進展があったら連絡します。」


「期待はしないでおく。

 …あ、けど恋愛関係の相談ならしても良いから。私も興味あるから遠慮なく。」


 …なんかちょっと残念な人だなぁ。


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