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戦う意思は誰が為か  作者: じりゅー
第一章 そして戦禍へ
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五話 不在と伝言

「………」


 翌日の昼休み。

 俺は誰も居ない、空白となった席をただただじっと見ていた。

 昨日の浮わつきはどこへやら。今日の気分は水に沈む金属の様だ。


「浮かない顔だな。」


「ああ…」


 真司が来た。

 皆藤は女子同士で弁当食ってる。チラチラ真司と俺を見ているところを見るに心配してくれているらしい。なんとなく申し訳ない気分だ。


「氷倉さんの事か?」


「ああ…」


「やっぱり、心配か?」


「ああ…」


「…やっぱ好きなんだな。」


「別に…」


「うわちゃんと聞いてやがった。録音の用意もばっちりだったのに。」


「ハァ…」


「………元気無いな、本当に。」


 まともなツッコミを入れる気力すら湧かない。

 チラリと、昨日連絡先を交換したケータイを見る。

 全く元気が出ない原因は氷倉さんだ。

 今日から相談という名目で彼女と目一杯話せると思っていたのに…

 蓋を開けてみれば彼女は不登校。学校にも連絡が来ていないのだとか。

 能力持ちによる戦い、行方不明の真相。

 それを聞いて、彼女が居なくなってなお落ち込んでいる程度で済んでいるのは希望を持っているからだ。

 まだ、分からない。彼女はまだ消えたと決まった訳じゃない。

 そんな限りなく薄い希望を。

 分かっている。彼女は今この世界に居ない可能性が高いということを。

 俺と別れた後、能力持ちと交戦し敗北。そして彼女は消えてしまったのだと。

 ただ、確証はない。消えた証拠が無ければ消えていない証拠も無いのだ。どちらにも振り切れている訳じゃない。

 もしかしたら、学校に来ている場合じゃないのかもしれない。今もまだ能力持ちと戦っているのかもしれない。

 明日になったらまた学校に来るかもしれない。そんな淡い期待を抱き続けるしかない。

 だって、もし本当に消えてしまっていたなら――

 ――俺には、どうしようもないからだ。

 叶うことなら、今すぐ学校を飛び出して彼女を探しに行きたい。

 それで、彼女の窮地をヒーローのように颯爽と助け…までは流石に無理か。

 せめて一緒に逃げて、彼女を日常に戻したい。


「確矢、飯食うなら早く行こうぜ? 昼休み無くなるぞ。」


「ああ…」


 そう言えば今昼休みだった。

 気持ちは沈んだままだが、何も食わないと言う訳にもいかないので真司と共に食堂へ向かう。俺と真司は学食派なのだ。

 特に何事もなく学食を済ませ、気が乗らないからと真司からのバスケの勧誘を断って教室に戻る。


「ん?」


 引き出しの中になにか入っている。

 いや、教材やらノートやらは勿論入れているのだが、その中に見覚えのない白い物体が入っていた。

 席について確認してみると、それは一枚のメモ紙。

 無造作に入れられたそれは二つ折りになっており、折られた内側には何かが書かれているようだった。

 なんとなく周囲を見渡し、誰も見てないことを確認してからそのメモ紙を開く。


『大事な話があります。今日放課後に向田公園に来てください、待ってます。


 氷倉』


 …氷倉? やっぱり、まだ消えたわけじゃなかったのか?

 怪しいとは思う。しかし、もしかしてという希望(嬉しさ)も隠しきれなかった。


「何見てんの?」


「うおぅ!?」


 驚くと同時にとっさに紙を引き出しに突っ込んだ。


「なんだ、皆藤か…おどかすなよ。」


「おどかすもなにも、声かけただけじゃない。

 それとも、今隠したのって、見せられないものだったりする?」


 まずい。

 皆藤に、いや、誰かに見られたら多分話がややこしくなる。なんとかして隠し通さなければ。


「え、えぇ? 隠したって、何が?」


「今何か引き出しにしまったじゃない。なんかニヤニヤしてたけど、もしかしてエッチな写真とか?」


「そんなんじゃねーよ!」


「ん? っていうことは何か隠してる?」


 やっべ、何か隠したこと認めちまった。


「…そんなんじゃねーけど、ちょっと人に見せられないもんなんだよ。」


 しかもよくないごまかし方だコレ。


「ほほう? それは気になりますなあ?」


 やっぱ食いついてきたよ畜生!

 この分じゃ今逃げたトコでまた訊かれるよな? あー、なんかないかうまいごまかし方…


「べ、別にそういうんじゃねーんだけど? 流石にさ? その…

 …ら、ラブレターなんてそう見せびらかせるもんじゃないだろ?」


 後半声が小さくなってしまったが、とりあえずこれでどうだ…


「…え? アンタに? ホント? それ何の冗談?」


 ガチな感じで戸惑ってる。そんなに意外ですかこんちくしょう。

 …自覚はあるけどさ。


「ほ、本当だよ…正直俺も信じられないさ。

 じゃあ俺、ちょっと用事あるから…またな!」


 皆藤が何か言う前に教室から立ち去る。

 罪悪感はあったが、バレた時の面倒に比べれば些細な物だと割り切ることにした。






 向田公園。

 俺が通っている南凧野なんだこの高校の近くにある、遊具も人気も無い公園だ。

 数年前この公園の遊具で事故があったそうで、全ての遊具が撤去されてしまった。

 それ以前からこの公園には幽霊が出るとか、公園になる前は墓場だったとかなんだとかそんな不気味な噂があったこともあり基本的に気味悪がって誰も近付かない。俺も小学生の時そんなの聞いた気がするなぁ…

 そんな場所に呼び出すのだから、この手紙が本当に氷倉さんからの物だったとしてもそうでなかったとしても、当然能力絡みの話だろう。もしくは質の悪いドッキリか…

 時は放課後、俺は件の公園に一人で来ていた。

 確かにここは内緒話に打ってつけ、最悪能力を使っても大きな音を出さなければ近くの住民にも気付かれない。

 …スタンガン欲しい。もちろん護身用に。

 いやだってさ、罠踏みに来たって言っても誰かに協力してもらってる訳でもないし保険もヘルプも出来ないんだよ。もし能力持ちを刺激して死んだら明日の朝刊の一面を飾るか永遠に行方不明者になるかの二択なんだよ。オワタ式なんだよつまるところ。

 とは言え、戦闘になる可能性は薄いと考えて良い。

 何故なら能力持ち達は各々持っている端末により能力を持っているかいないかを判別できるから。端末は能力持ちじゃない俺には当然反応しないので確実に違うと分かってくれる。

 …はずだ。

 一応、公園を出て周りを調べてみることにする。

 昨日みたく近くに能力持ちが居るとなれば、端末が反応して俺が能力持ちだと思われる。

 そう言えば、あの時居たのは誰だったのだろうか。

 もしかしてそいつが――


「おい! そんなところで何してるんだ?」


 ……どうやら、あの手紙は氷倉さんではなかったようだ。

 声は男、振り返って見てみると見覚えのない背の高い男だった。

 同世代…なのだろう。俺と同じ南凧野高校の制服は着ている。

 何故かニヤニヤしている男に気味の悪さを感じながら返す。


「なんでも良いだろ、別に変なことをしてたわけじゃない。」


「へぇ?

 まあいいや。お前、能力持ちなんだろ?」


「……違う。」


 投げられた問いには否定を入れる。

 この分じゃ信用してくれそうにないが、肯定する意味も無い。


「嘘つくなよ、見てたんだぜ? 昨日路地裏でやり合ってただろ?」


「…!」


 見られていた。

 じゃあ、コイツがあの足音の…!


「違う! 俺は能力持ちじゃない!

 見てたならわかるだろ、あの時俺は一度も能力を使ってなかった!」


「ああ…やっぱりあれは女の方の能力だったか。

 だが残念、一般人パンピーが能力のことなんて知ってる訳無いし、お前が能力持ちじゃないってんなら端末が反応しない訳無いんだよな!」


 …能力持ちのことは知らないフリをした方が良かったか。

 それより、アイツの端末が反応してるってことは…


「違う、それは俺の反応じゃない! 近くに他の能力持ちが居るんだ!」


「嘘を付け! お前、がッ!?」


「なん…っ!?」


 近寄ってくる男の動きが突然止まり、一瞬置いて男の姿が消える。


「…え?」


 カラン、という音に気付き下を見る。

 地に落ちていたのは鋭くとがった氷とよく分からない形をした木片。情報量が多すぎて処理できなかった。

 何も分からないまま頭を上げる。


「確矢、大丈夫!?」


「皆藤!? なんでここに?」


「心配だから付けてきたの!」


 この状況で聞き覚えのある声がしたことに驚いた。

 こんなことからは遠ざけなければならないと考えていた対象あいてが、今こんな場所に居ることに。


「助けが間に合ったみたいでなにより。

 貴方が城野確矢?」


 更にそこにはもう一人。

 俺や皆藤、そしてさっきの男と同じく南凧野高校の生徒のようだが、制服のリボンの色を見るに先輩らしい。


「…そうですけど、誰ですか?」


「私は氷倉、氷倉雹華(ひょうか)

 どうやら手紙は読んでくれたみたいね。」


「氷倉…って、ことはもしかして。」


「そう、貴方達のクラスメイトの零華の姉。

 お察しの通り、私も妹やその子と同じで能力持ち。」


 薄々考えてはいたが、皆藤も能力持ちだったか…

 そうじゃなきゃ突然人が消えたことに驚くはずか。


「…なるほど、要件は?」


 身構える。

 氷倉先輩は(氷倉さん)が能力持ちだと知っている。きっと昨日俺と彼女が接触していたことも知っているだろう。

 考えられるのは仇討ち。そうでもなければわざわざよく知りもしない後輩を呼び出す理由は無い。


「そう警戒しなくても良いわ、別に事を構える気で来たわけではないから。

 貴方が能力持ちじゃないことは確認してる。ただ、昨日妹と何があったかを訊きたかっただけ。」


「…それだけ、ですか?」


「ええ。貴女はどうする?」


 俺から一度視線を外し、皆藤を一瞥する。


「貴女と馴れ合うつもりはありません。

 何の躊躇いもなくさっきの人を殺した、貴女とは。」


 ここまで険のある皆藤を見るのは初めてだった。

 彼女の知らない面を見た、と言うより似た別人を見ているような錯覚に囚われる。


「当たり前でしょう?

 何度も戦ったし、やらなきゃやられるなんていつもの事。それに、そこの彼が危なかったのだから。

 そもそも、殺しても死なないじゃない。戦いが終わったら生きて帰ってくる事をお忘れ?」


「忘れてない、けど…

 …今日はここで退きます。確矢に何かしたら許さないから。」


 そう言って皆藤は去っていった。

 先輩も、彼女を追う様子は無かった。


「自分から突っかかってきてそれ? 礼儀がなってないっていうか、なんなのか…

 まあ良いわ。そう言うことだから、よろしくね?」


「は、はあ…」


「立ち話もなんだから付いて来て。良いお店知ってるから。」


 状況を飲み込めてはいないが、彼女が俺に危害を加えるつもりは無いことだけは分かった。

 付いて行く理由としては、それで充分だった。


次回は土曜日更新です。

五日間で五話。つまり実質一日一話更新…定期投稿ですね!(ガバ)

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