四話 無策の提案
俺は続けた。
「そんな戦い、とっとと終わらせよう。
困ってたら相談してくれ、何でもやってやる。」
「…本当?」
「俺だってこの町の人間だ、無関係なんかじゃない。だからさ、一人で悩まないでくれ。」
建前をほざく。
だが、お前の為だ、とか、俺が付いてる、なんて照れくさくて言えなかった。
「…ありがと。」
と、小さな声で礼を言われ、今のちょっとカッコよかったかな、なんて場違いなことを考えてしまった。
「………あー、話変わるけどさ、能力持ちってどうやって探すんだ?」
一応思いついた具体案としては、敵の情報を仕入れることだけだった。
俺が能力持ちの居場所を突き止めて、氷倉さんが戦う。俺は戦いに参加しても足手まといになりかねないし、人質にされたら最悪だ。能力持ちではない人間が死んだ場合生き返るかどうかなんてわからないし。
「端末を使うの、自分以外の能力持ちが近くに居たら光って反応するんだ。それを頼りに探して、戦う。」
「…すげーなそれ。」
「ほんと、凄いよね。端末が光ったらなんとなく分かっちゃうし、他の端末にくっ付ければそれを吸収しちゃうんだもん。
この世界そのものが主催してる、なんて話も信じちゃうよね。」
「世界そのものが?」
「うん。世界そのものの意思…みたいな感じかな。そんな存在がこの戦いを主催してるんだ。この端末もその世界の意思から配られた物なんだ。」
そんな大層な物が主催してるのか。
だったらなんでも願いを叶えるなんて報酬は大言壮語でもなく、事実与えられそうだ。勝敗のシステムにも現実味が出てくる。
…それでも非現実的っていうか、非常識的であることには変わらないのだが。
けど、今さっき俺は能力なんて非常識に触れたばかりだ。今更疑うこともあるまい。
「それじゃあ俺は索敵なんて出来そうにないな…」
「無理に手伝おうとしなくて良いよ、危険なことだから。
私に協力して能力持ちを探そうとしたら、城野君も能力持ちだと思われて狙われるかもしれないし。
それに、私はさっき城野君を…間違いなく、殺そうとしてたし。」
「それはもういい、氷倉さんにも事情があったって分かったしさ。
それに、ほっとけないんだ。
氷倉さんがそんなに危ない事をしてるって聞いてさ、力になりたいと思った。
それこそ、本当になんでもしてやるってくらいに。」
「……気持ちは嬉しいけど、戦いになったら私に任せて逃げて。
焦らなくても大丈夫、焦って行動してもかえって失敗するだけだし。
それに、私は死んでも平気」
「平気じゃない。」
自虐的な言葉につい食い気味になってしまいハッとする。
氷倉も驚いていてちょっと申し訳ない気持ちになったが、謝ることなく続けて話す。
「…妹が居なくなって悲しかったんだろ。氷倉さんは違うのか?
氷倉さんも悲しむ家族や友達だっているんだろ。自分は居なくなっても良い、なんて考えるな。」
「………そうだね、ありがとう。
ごめんなさい、私こそ焦ってた。危なくなったら逃げるよ。」
「それでいい。
人に言えないかもしれないけど、無茶はするなよ。」
「城野君もね。」
「ああ、お互いにな。
…あ、飲み物もう無いな…取ってくるけど、氷倉さんのも取ってくるか?」
「ううん、そろそろ行かなきゃいけないから。ちょっと用事があってね。」
「そうだったのか。
んじゃ、俺も帰るよ。また明日。」
部屋はまだ使えたが、歌えもしないしここにいる理由が無いので帰路に就くことにする。
「うん、また明日。
今日はゴメンね。」
「良いって、ここの代金払ってくれたし…って、ちょっと待った。」
「何?」
「一応協力関係ってことだし…連絡先、交換しておかないか?」
部屋を出る直前に思いついた。いざという時に連絡もなにもつかなければ協力も何も無いだろう。
学校でやり取りをするにしても、校内に能力持ちが居ないとも限らない。目につくような相談や情報交換等は控えた方が良いだろう。
「あー…そうだね、その方が良いかも。ゴメンね、気が利かなくて。」
「気にしないでくれ。」
…よし、連絡先ゲット。
協力関係にかこつけて、みたいな感じなのがどうも悪い気もするが必要な事でもあるので割り切ることにする。役得役得。
と、連絡先を交換しているとふと一つ疑問が浮かんだ。
「どうして俺が能力持ちだって思ったんだ?
その端末って近くに能力持ちが居るだけで反応するんだよな? 違う人だとは思わなかったのか?」
理由の一つが端末だとしても、それが俺だと特定するには弱い。端末はあくまで近くに能力持ちが居るという情報しか与えてくれないのだから。
別の誰かかもしれないと言うのに、何故能力持ちでもない俺がピンポイントに指されたのだろうか。
「ううん、完全に城野君だと思ってた。
クラスに能力持ちが居ることは分かってたし、最近城野君によく見られてる気がして…もしかしたら能力持ちだってバレたのかなって。」
………墓穴掘ったなコレ。
「あ~、それは…実はさ。
その、氷倉さんのことが…」
「私が…?」
「…気になってる奴がいてさ~!
ソイツが気になってる氷倉さんってどんな人なのかな~ってたまに見ちゃってたんだ!
いや、気になってたならゴメン! 明日から気をつけるからさ!」
この空気で告るとか馬鹿げたことをするわけでもなくごまかしにかかる。
…嘘は言ってない。気になってる奴ってのが俺なだけで。俺じゃないとは一言も言ってませんとも、ええ。
……騙してることには変わりないけどな。詐欺師にでもなった気分だ。俺最低…
「そうだったんだ…ホントにごめんね? 謝って許せるようなことでもないけど…」
「いや、紛らわしい事してたのも確かだし俺も悪いよ。」
罪悪感が心を削る。自業自得なので耐えしのぎます。
「隠し事をしてるから、疑心暗鬼みたいな感じになってるのかな…」
「誰かに打ち明けられることでもないしな…あ、そう言えば時間大丈夫か?」
「そうだった。じゃあ、今度こそまたね!」
「ああ、また明日!」
少し急ぎ足で今度こそ店を後に。
氷倉さんと別れた後、俺は氷倉さんと話せた感慨、秘め事を共有していることと連絡先を手に入れた喜びに浸りながら帰って行った。
道中ニヤけ顔は隠せていなかったかもしれないが、些細な事だった。