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戦う意思は誰が為か  作者: じりゅー
三章 三度目の朝、二度目の夜
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二十三話 二度倒されても

 

「カクヤ! 早く逃げて!」


 能力持ちの反応がした直後、さっき同じようにカクヤに声を掛ける。


「リータさん…?」


早く(Hurry up)!」


 さっきと同じだ。やはりカクヤは動かない。


「何してるんデスか! 早く逃げてくだサイ!」


「いや、逃げない。」


「どうして!」


「出来ないんだよ、リータさんを見捨てて逃げるなんて…俺はもう、居なくなってほしくないんだよ。誰にも。

 多分ここで俺が逃げたら、リータさんも居なくなる。なんとなくだけど、それは分かるんだ。」


「………!」


「リータさん!」


 一度目(さっき)と同じタイミングで飛び出し、同じようにやり過ごす。

 ワタシの能力で時間を戻しても、ワタシが全く同じ行動を取れば同じ結果が出るようになっている。ワタシが干渉しない事はやはり同じようにその事が起きる。


「リータさん、どうしたんだ! リータさん! リー…」


 つまり、さっきの運命を変えられるのはワタシだけ。

 ワタシの行動次第で、2人を別の運命に導くことが出来る。


「出てきなサイ! ワタシはここデス!」


「やっと見つけた。」


「アナタは…!

 カイトウ! ワタシは逃げまセン!」


「……」


 …やっぱり同じだ。

 歩いて来る場所も、立ち止まる場所も。

 さっきの攻撃を避けさせるには、どうすれば良い?


「ワタシには絶対に叶えたい願いがありマス! それまでに死ぬわけにはいかないんデス!」


「そう…なら、私と貴女は殺し合わなきゃいけないのね。」


「殺せマスか? ワタシを。」


「ええ、もちろん。」


 一言一句、発音まで同じように合わせながら考える。

 ワタシさえ干渉しなければ、さっきと同じ位置に攻撃が飛んできて、さっきと同じようにカイトウが死ぬ。


「そんな単純な話ではありまセン! ワタシを殺したら、カクヤがどんな反応をしマスかね!?」


「……」


 相手の能力の性質は分からないけど、それは確か。


「…最低なやり口ね。」


「なんとでも言ってくれてもかまいまセン! ワタシは生き残ることに必死なだけデス!

 それに、カクヤにはいっぱい迷惑をかけて、それでもワタシに優しくしてくれました! それを返すまで死ぬわけにはいきまセン!」


「アイツ、どうしてそこまで…!」


 だったら、することは一つだ。


「……一つ、教えてあげまショウ。」


「何?」


「ワタシは貴女を殺す気はありまセン。」


「!?」


 攻撃が飛んでくる、その直前で彼女を回避させる。


「何故なら、ワタシの能力は攻撃できるものではないからデス。デスので、例え攻撃したくてもできないのデス。」


「…どうしてそんなこと教えるの? 油断させるための嘘?」


「イエ、嘘ではありまセン。全て本当のことデス。

 ワタシの能力は、時間を巻き戻すというもの。流石に制約までは言えまセンが…実はワタシ、二度も貴女に殺されかけているんデス。」


「!?」


 カイトウが消えたその直後、何かが通り過ぎてその延長線に穴が開いた。

 つまり、彼の能力は上から何かを降らせるというもの。

 確かに、あの能力は強力だ。カイトウは何の前触れもなく殺された。


「証拠もありマス。」


 しかし彼はあの時、“初めて当たった”と喜んでいた。


「それは…?」


「貴女に付けられた跡デス。貴女の能力で創られた糸によって、デス。」


 つまり軌道変更が出来ない、もしくは何か命中を困難にする制約があるのだろう。


「…私の能力まで知ってるの?」


「ハイ、二度も見てマスからね。

 貴女の能力は糸を出すというもの。多分、体の一部…例えば、手からとかしか出せないんじゃないデスか?

 ……当たりみたいデスね。」


「………けど、貴女には戦う方法が無いんでしょ?」


「ええ、そうデス。

 ワタシはアナタを傷つけることは出来ないし、その気もありまセン。

 その上で、アナタはワタシを殺せマスか?」


「……」


 少なくとも、突発的な事態を前にしてどうにかできる対応力は無いと考えて良いだろう。きっと虚を突いて動けば彼が対応する間は無くなる。

 そして、その隙にカイトウを移動させれば躱すことが出来る。

 ほぼ推測で半分は賭けだけど、それに成功すれば何とかなる。失敗してもやり直せばいい。

 失敗を恐れる必要は無い。だから――


「…やっぱり――」


「今デス!」


 ――必要なのは、思い切り。

 駆けだしてカイトウの腕を掴み、走った勢いのまま引っ張る。

 けどうまく止まれず、数歩移動した後にワタシはカイトウごと倒れた。


「何するの!?」


 狼狽えるカイトウを半ば無視してカイトウが立っていた位置を見る。

 そこには小さな穴が開いていた。


「…ハァ、間に合いまシタ…」


「間に合った? それってどういう…」


「リータさん! 皆藤!」


 このタイミングでカクヤが公園に戻ってくる。


「確矢!? どうしてここに!?」


「リータさんが突然逃げ出して…探し回ってたら公園の方から声がしたから戻ってきたんだ。」


 …カイトウを呼び出す時に出した声を聞かれていたらしい。

 だから戻ってきてたんデスね…


「それより、そこに能力持ちが居マス! 早く攻撃してくだサイ!」


「え? どこ?」


「そこのベンチの裏デス! ああもう、ワタシが取り押さえマス!」


「そこだな!?」


 カクヤが指さしたベンチに走りだすと、隠れていた男が立ち上がり背を向けて逃げ出した。


「待ちやがれ!」


「ハァ、ハァ、ひ、ひぃっ!」


 男は公園の外に飛び出したが初速の差でカクヤに追いつかれ、取り押さえられて地面に押さえつけられた。

 その時に男のジャケットのポケットから歪な形をした木片が転がり落ちる。


「カクヤ、しっかり押さえてて!」


 落ちた男の端末をバッグに入ったワタシの端末にくっ付ける。

 すると男の端末が消え、押さえつけられていた男も消えた。


「……終わった、のか?」


「ハイ! 我々の勝利デス!」


 勝った。

 カクヤも、カイトウも、皆無事。

 達成感が、嬉しさが湧き上がってきた。


「…なんだかよく分からないけど…もしかして、助けてもらったの?」


「ああ、リータさんは皆藤を助けた。上から降ってきた…えっと、何かから皆藤を守ってたんだ。」


「………」


 カイトウは複雑そうな顔をしていた。

 二度も殺しかけた相手に、さっきまで殺そうとしていた相手に助けられたのだ。気持ちは分からないでもない。


「その…ごめんなさい? ありがとう?」


「謝らなくて良いデス。お礼ならもっとはっきり言ってくだサイ。」


「…ありがとう。」


 気まずそうに、目線を逸らしながらボソッと言われたお礼は、何故か胸に沁みた。


「どうしてイタマエ!」


「台無しだな…」


「どういたしまして、ね。」


 …恥ずかしい。

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