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戦う意思は誰が為か  作者: じりゅー
三章 三度目の朝、二度目の夜
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二十二話 奇襲と決意

 

「カイトウ! ワタシは逃げまセン!」


「……」


「ワタシには絶対に叶えたい願いがありマス! それまでに死ぬわけにはいかないんデス!」


「そう…なら、私と貴女は殺し合わなきゃいけないのね。」


「殺せマスか? ワタシを。」


「ええ、もちろん。」


 彼女は必ず殺す覚悟を決めてくる。その上で挑発にも近い事を言うのは非常に度胸が必要だった。

 さらりと返してはいるけど、手は震えている。ただ、嘘は言っていない。

 ゆさぶりをかけよう、どうにか殺されないように。


「そんな単純な話ではありまセン! ワタシを殺したら、カクヤがどんな反応をしマスかね!?」


「……」


 これまでには無かった要素を組み込む。

 これまでのワタシとカクヤの友好度は初対面より少し上程度だった。

 しかし、今回はカクヤに居なくなってほしくないと言わせるくらいには親交を深めている。迷惑をかけ続けただけにも思えるけど、それは確かなことだ。


「…最低なやり口ね。」


「なんとでも言ってくれてもかまいまセン! ワタシは生き残ることに必死なだけデス!

 それに、カクヤにはいっぱい迷惑をかけて、それでもワタシに優しくしてくれました! その恩を返すまで死ぬわけにはいきまセン!」


「アイツ、どうしてそこまで…!」


 カイトウの態度に苛立ちが見えてきた。

 …ここだ。


「……一つ、教えてあげまショウ。」


「何?」


「ワタシは貴女を殺す気はありまセン。」


「!?」


 …響いた。

 あの殺意は、やるかやられるかと考えているから…正当防衛のような意識で作り出している物だ。

 その意識を崩してしまえば、自然と戦意も消える。


「何故なら、ワタシの能力は攻撃できるものではないからデス。デスので、例え攻撃したくてもできないのデス。」


「…どうしてそんなこと教えるの? 油断させるための嘘?」


「イエ、嘘ではありまセン。全て本当のことデス。

 ワタシの能力は、時間を巻き戻すというもの。流石に制約までは言えまセンが…実はワタシ、二度も貴女に殺されかけているんデス。」


「!?」


 加えて、罪悪感を与える。


「証拠もありマス。」


 と言って首の包帯を外し、カイトウに近付く。


「それは…?」


「貴女に付けられた跡デス。貴女の能力で創られた糸によって、デス。」


 跡が見やすいように少し横に向き、右手でなぞる。


「…私の能力まで知ってるの?」


「ハイ、二度も見てマスからね。

 貴女の能力は糸を出すというもの。多分、体の一部…例えば、手からとかしか出せないんじゃないデスか?」


「……」


「当たりみたいデスね。」


「………けど、貴女には戦う方法が無いんでしょ?」


「ええ、そうデス。

 ワタシはアナタを傷つけることは出来ないし、その気もありまセン。

 その上で、アナタはワタシを殺せマスか?」


「……」


 カイトウは黙り込み、顔を伏せた。

 恐らく彼女の中では数々の葛藤が渦巻いているのだろう。ワタシがそのように仕向けたから。

 ここまで来たら祈るしかない。彼女がワタシを殺さない選択肢を取ることを。

 これほど心細い祈りはあの時以来だ。

 母の時の――


「…やっぱり、駄目。」


 結論が出たようだ。

 辛そうな顔を上げ、口を開いた瞬間――


「―――」


「え…?」


 カイトウの姿が消えた。

 地面には彼女が持っていたと思われる端末があり、小さな穴が開いている。


「皆藤…?」


 まずい、と思った。

 カイトウが立っていたその先…公園の入り口に、カクヤが立っていた。


「…なあ、リータさん。皆藤は、皆藤はどうしたんだ?」


「……カイトウ、は…」


 血の気が引き、ひきつった顔で問われる。

 今日知り合ったばかりのワタシに対してそこまで言ってくれる人だ。以前から親しかったカイトウが居なくなったら、カクヤは…


「ハ、ハハハハハハ!」


 後ろから大きな笑い声が聞こえてくる。

 振り返ると、長い髪の男が驚喜に満ちた顔で笑っていた。


「やった、初めて当たったぞ…! 勝った! 僕は勝ったんだぁ!」


「………」


 ふと、歓喜する男を尻目にカクヤを見る。


(……!)


 彼の目に浮かんでいたのは―――

 それを見たワタシは逃げるように時を戻した。







「ハッ!?」


 目を見開いて周りを見る。

 横には驚いたカクヤが居て、公園にはカイトウの端末もその隣にあった小さな穴も無くなている。

 無事時間を戻せたようだ。


(…カクヤ、あんなに恐ろしい目が出来たんデスね…)


 想像も出来なかった。カクヤがあんな顔をするなんて。

 絶望と虚無感、心の奥底にある怒りが混ざり合い、凝縮されたような目。

 カクヤをあのままにしてはいけないと直感的に悟り、時間を戻したけど…

 …もうカクヤをあんな目に遭わせる訳にはいかない。

 守らなきゃ。カクヤも、カイトウも。


「お、おはよう…あ、グンモーニングか?」


 カクヤは何事も無かったかのようにさっきと同じ声を出した。

 事実何も無かった…というか無かったことにしたんだけど……うまく言えないモヤモヤを感じる。


「どっちでもいいデスよ。」


「そうか。

 …それはそれとして、リータさんに謝らなきゃいけないことがある。」


「案内なら明日で大丈夫デス! 今日はお昼寝に付き添わせてしまってごめんなさいデシタ!」


「あ、そうなのか。てっきり今日中じゃないといけないのかと思ってた。」


「イエ、明日でも大丈夫デス! 明日こそお願いしマスね!」


「ああ、分かった。けど、今日みたいに寝るなよ?」


「…善処しマス。」


 …そろそろだ。

 さっきはこのタイミングで能力持ちの反応があった。

 それからしばらく逃げ回って、公園に戻ってきたタイミングでカイトウが出てきたけど……本当に、この反応はカイトウのものなのだろうか。

 もしかしたらカイトウを殺した能力持ちの反応なのかもしれない。カクヤを遠ざけたところを見ていたような口ぶりだったから、カイトウの反応で合ってるかもしれないけど。


「……」


「どうした? リータさん。」


 考えられる時間は短い。

 さっきと同じようにカクヤを撒くか、それともカクヤを残してカイトウを説得するか…

 いずれにせよさっきの場面でカイトウは助けなければならないだろう。

 …カクヤの事を考えるなら。

 もうあんな目に遭ってほしくない。あんな顔をしないでほしい。

 カイトウは敵かもしれない。だけど、カクヤは間違いなく恩人だ。

 だから、ワタシは(カイトウ)を助ける。恩人(カクヤ)のために。

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