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戦う意思は誰が為か  作者: じりゅー
三章 三度目の朝、二度目の夜
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二十話 近付く限界

 

「カクヤ! 食堂に案内してくだサイ! カクヤも食堂、行くんデスよね!?」


「お、おう。分かった。」


 無理に元気を出すのも辛くなってきた。今は12時だから、一周目、二週目と合わせると………23時間30分か。

 こんな簡単な計算にすら時間が掛かってしまっている。もう時間を戻せる回数は本当に少ない。

 戻したとしても寝不足ではあっさり隙を晒し、アミがカクヤに協力を持ち掛けてしまうだろう。だからこれがラストチャンスだ。


「よく分かったな、俺が食堂に行くって。」


「それは前の周…Ah、弁当箱が無かったデスから。

 そのバッグに入るくらいの弁当箱では足りないでショウ? もし弁当箱があるなら、もっとバッグが膨らんでいるはずデス。」


「へー、なかなか見てるな。」


 あ、危ない…前の周とか思いっきり言う所だった…っていうか言ってた。


「ところで、マエノシューってなんだ?」


「何でもないデス! アーニホンゴムズカシーアル!」


「アルって差別用語らしいから止めた方が良いらしいぞ。」


「そうなんデスか!? アル最低デス! 二度と使いまセン!」


「そう思ってる奴がいるってだけだと思うけどな。

 まあいいや、とにかく行こう…野郎共の視線が痛いし。」


「最後なんト? あ、待ってくだサイ!」


 足早に教室を出て行くカクヤを急いで追いかける。

 目的地までの簡単な校内案内もそこそこに、ワタシ達は視線を集めながら食堂へ向かう。

 すれ違う人は黒い髪ばっかりだ。明るい髪色のワタシはやっぱり目立つのだろう。


「着いた…じゃあ、まずここで食券を買おう。分からない字があったら読み上げるから言ってくれ。」


「ハイ!

 …この(シャープ)みたいなのはなんデスか?」


「丼だな。ご飯の上になんか乗ってる料理によく使われる。

 ここにあるのだとかつ丼とか親子丼とかだな。」


「オヤコドン…」


 聞いたことがある。それは親子ともども食べてしまうという恐ろしいプレイだと。

 それを料理感覚で、こんなところに…!?


「………」


「…どうした?」


「い、イエ。けど、オヤコドンだけは止めておきマス…」


「? お、おう。分かった。」


 他のメニューをカクヤに訊き、ワタシはカツカレーを選択。

 カクヤは……鶏肉に卵が絡めてあるものだ。


「カクヤ、それは?」


「親子丼だ。」


「………???」


 おかしい。

 ワタシが訊いた話では、こんな美味しそうな料理では無かったはず。


「食ってみるか? ちょっと待ってろ。」


 そう言うと、カクヤはワタシのスプーンを取って肉と卵、米を同時に掬って丼の蓋に乗せる。

 それを二度繰り返し、蓋とスプーンをこちらに渡してきた。


「良いんデスか?」


「もちろん。ほら、食ってみろ。」


 カクヤと同じように米と肉、卵を掬ってスプーンを口に運ぶ。


「!」


 美味しい。

 濃い味の出汁に肉と卵が絡み、それに米が見事にマッチしている。

 2、3口しかないのは物足りないけど、カクヤから全部奪う訳にもいかない。それに、ワタシにもカツカレーがあるのだ。


「Great! Think you カクヤ!」


「はは、そんなに気に入ったなら良かった。明日はそれ頼んでみるか?」


「ゼヒ!」


 美味しいものを食べれば、その時だけは不安が無くなる。

 明日が無いかもしれない、そんな不安も今だけは無かった。







「町を案内してほしいって言ってたけど、その前に学校の案内した方が良いよな。」


「…イエ、学校の案内は大丈夫デス。特に空き教室なんて絶対行きたくないデス。」


 昼食後も他の休憩時間もカクヤに話しかけ、なんとか密談すらさせずに放課後まで来た。

 連続起床時間は27時間。とうとう一日を超えて徹夜明けの状態だ。

 それも部屋にずっと籠っている訳ではなく、何度も登校して校内を歩きまわってだ。徹夜でアニメを観たことはあったけど、ここまで辛くは無かった。

 もう言われたことをすぐに理解できない。その内会話にも支障が出てしまいそうだ。


「空き教室? 確かにあるけど…なんでそんなに行きたくないんだ?」


「……ちょっとしたイヌネコデス。訊かないでくだサイ。」


「いぬね…あ、トラウマか。そうとは知らずに悪かった。」


「大丈夫デス。それより、今日はお願いしマスね…ふぁ…」


「本当に大丈夫か? 疲れてるみたいなら明日にするぞ?」


「イエ、今日にしてくだサイ…絶対に。」


「…分かった。けど、本当に辛かったら言ってくれよ? すぐに休ませるから。」


「……ハイ…ありがとう、ございマス…」


 本当に、カクヤは優しい人だ。

 …本当に良いのだろうか。

 そんな人に、隠し事なんかして。

 ワタシはカイトウ(カクヤの友人)を害しかねない能力持ち(人間)の一人であることを。

 伝えるべきだろうか、いや、伝えてしまったらカクヤはカイトウと協力し、ワタシを殺すだろう。確実に。

 …ワタシには叶えたい願いがある。だから絶対に負けるわけにはいかない。

 …そこまでしなければならないのだろうか?

 ワタシの願いは、本当にそこまでして叶えなければならない願いなのか?

 疑問が溢れて、思考を覆う。


「…大丈夫か?」


「…え、ハイ、大丈夫、デス…」


 …考えることに集中しすぎた。

 また心配をかけてしまったことに罪悪感を覚えながら、何でもないように笑って足を進める。


「行きまショウ! まずはどこデスか?」


 席を立って、空元気を振り絞って訊いてみる。


「そうだな…じゃあ、休憩がてらカフェでも行くか。

 俺もここ最近知った場所なんだけど、良いところらしいからさ。」


「カフェデスか。日本のカフェ、興味ありマス!」


 話題で脳を占拠し、無理矢理テンションを上げることに集中する。

 深夜テンションもあることだろう。少し気分は悪かったけど、それでも元気を装ってカクヤに付いて行った。

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